ワイルド7で知られた漫画家、望月三起也氏が亡くなりました。
数年前に拙ブログでも取り上げたワイルド7があまりに突出して大ヒットしたので、他の作品が知られていないのが残念です。そこで、今回取り上げたのが、変わり種中の変わり種、それが表題の作品です。
古代マヤ文明の予言書に記載された人類史上に名を残す大虐殺者たちのリスト。アレキサンダー大王、チンギス・ハンら古代の虐殺者のリストのなかで、ヒットラーの次に記載されていた名が「ジャパッシュ」。その生誕の日は予言されていたが、いったいどこで生まれるのかは不明。
その数十年後、美しい容姿と、悪魔のような智謀により、日本において非政府系の警察組織を立ち上げた若者・日向光こそが、このマヤの予言書に記された次なる大虐殺者であった。
生まれたとき、その愛くるしい外見とは裏腹に、禍々しい気配に気づいた助産婦が、密かに死なそうとするが、電気コードをいじくり感電死させて生き延びた悪魔の赤子。まるでダミアンを彷彿させる邪悪さ。もちろん、映画オーメンよりも、ジャパッシュの方が先に発表されています。
マヤの予言書を解読して世間に発表したものの、相手にされずなかった考古学者の孫は、偶然同級生であった日向光のことを知りますが、祖父共々火災に見舞われる。孫はかろうじて生き延びたものの、顔に醜いやけど跡が残り、以降復讐の鬼と化す。いわば、裏の主人公となります。
着々と権力と富をものにして、政治の表舞台に飛び出そうとする日向光と、彼を倒そうとするかつての同級生。この二人を中心に物語は進みますが、なぜかいきなりの意外な結末で幕を閉じます。
実は、作者である望月三起也氏が、自らの意思で急遽、無理やり終わらせてしまったのです。この連載は週刊少年ジャンプであり、子供たちが読む漫画である以上、残虐な悪役が主役であり続けるものを描き続けることに危惧を覚えて、良心の呵責に耐えかねての連載終了でした。
私は当時、この漫画をリアルで読んでいましたから、急な連載完結に納得しかねていたのです。人気のない作品の打ち切りならまだしも、この漫画はあまりに残虐、冷酷であり過ぎる主人公の魅力もあり、けっこう人気があったのです。
作者の意図としては、二人の主人公であったようですが、実際には日向光の悪の魅力が際立ちすぎていて、復讐者である考古学者の孫は引き立て役となっていた。作者の意図を越えて、輝きだした主人公に、作者自身が恐れおののいたのでしょうか。
たしか単行本の最終巻に、後書きとして顛末が書かれていたと記憶しています。すごく残念な気持ちになったことは、今も覚えているのです。もし、連載が子供向けの週刊誌でなかったら、物語は違う結末であった可能性がありました。
また、あの時代(1970年代)には、悪役が主人公であるような漫画を受け付けない風潮があったのかもしれません。今ならアンチ・ヒーローものとして、あるいはアンチ・テーゼものとして受け入れられると思うのです。
だから、いつか望月氏にジャパッシュの描き直しをして欲しかった。でも、残念ながら、それは適わぬ夢と化しました。仕方ありません。謹んで故人のご冥福をお祈りいたします。