ヌマンタの書斎

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プロレスってさ 桜庭和志

2020-06-30 12:00:00 | スポーツ

プロレスラーの名誉を回復した男、それが桜庭和志だった。

UWFから始まるプロレスの格闘技志向は、グレイシー柔術という壁にぶつかり、プロレス最強神話は崩壊した。

そのグレイシー柔術に対してプロレスラーとして立ち向かい、勝利を収めたのが桜庭であった。タイガーマスクに憧れてプロレスの門を叩いた桜庭が、プロレスラーであることは私も否定しない。

ただ当時から私は少し醒めた視線で見ていた。

桜庭の体つきは、プロレスラーというよりも格闘技者であったと思う。観客から見栄えするような無駄な筋肉はなく、実戦的で柔軟な格闘技向けの体つきであった。

当たり前である。格闘技として当時頂点に君臨していたグレイシー柔術に立ち向かうには、相当な研究と努力が必要となる。桜庭はそれを実践してみせた最初のプロレスラーである。淡々とした表情ながら、内に秘めた熱情は相当なものであったはずだ。

だからこそ、グレイシー柔術のルールで、不利を承知の上での戦いにも勝利した。プロレス・ファンは鬱屈した思いを晴らしてくれた桜庭の快挙に拍手喝采を送った。私も本当に凄いと高く評価している。

でも私の看るところ、桜庭はプロレス出身の総合格闘家であったと思う。プロレスラーとしては物足りなかった。残念ながら彼はジュニア・ヘビー級の体格であった。

誤解して欲しくないのだが、桜庭は自分よりも一回り、二回り大きいヘビー級のプロレスラーと戦っても勝てる実力者である。しかし、ジュニア・ヘビー級であるが故に、どうしても迫力に欠ける。

プロレスは格闘演劇である。リングの上で演じられる試合には、観客を沸かせるような迫力が必要となる。ヘビー級のプロレスラー同士が全力でぶつかり合う迫力は、数十メートル離れて見ても分るほど凄まじいものだ。

桜庭に限らず、ジュニア・ヘビー級のプロレスラーはその体格故に、ヘビー級のプロレスラーと全力でぶつかり合うことが難しい。あの受け身の名人であった藤波でさえベイダーとの試合で大怪我を負っている。

体格差からくるダメージの違いは冷徹に結果に現れる。これは柔道やボクシングなどの格闘技が体重制を採用していることからも立証されている。

もっとも総合格闘技では、寝技、関節技に持ち込むことで、対格差を埋める戦い方もある。しかし、それは非常にレベルが高く専門的な知識さえ必要となる。子供でも楽しめるプロレスには馴染み難い。

私は桜庭の快挙を喜びつつも、彼が猪木、馬場の後継者たりえないことも予感していた。実際、彼はプロレス興行の主役としては、いささか物足りなかったと思う。

それでもプロレスラーの強さを立証してみせた男として、彼の名はプロレス・ファンの脳裏に深く刻まれた名選手なのです。

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