![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/3d/acdca0325204eff0cbe86baf4ad98acd.jpg)
Photo by Ume氏
冬の森の趣と言ったら、きょうのUme氏の写真だろう。入笠の周辺は落葉松の人工林が大半だが、それでもモミやシラビソの大木がまだかなり残っている。そういう原生林はこれから深い雪に埋もれ、さらに静まり返り、長い時の中に同化していくような気がする。
また同時にこの写真からは、アラスカの森も思い出す。「アラスカ物語」の著者、新田次郎は「アラスカ取材紀行」の中で、「アラスカの森林はなんとなく、つつましやかで遠慮勝ちだった。それは永久凍土の上に立っているから、せいぜい百年とか二百年とかいう限られた寿命のせいかも知れない」と、目にした彼の森の印象と、樹木の生育環境をそんなふうに推測し、書いている。
この「紀行」は作家が、「アラスカ物語」を脱稿した後、それほど時間をおかずに綴った「あとがき」的なものと思われ、その分からしても記憶は鮮明で、記述は正確なはずだ。しかしそれでも、アラスカの森を語るに際し、その言葉「つつましやかで遠慮勝ち」は意外だった。
他方、この呟きの主の記憶に残る森の印象などは、もう遠い昔のことだし、しかもアラスカ州の中央から南部が中心になっている。念のために調べてみたら、驚いたことに、最初のアラスカ行に出たのは、新田次郎がアラスカへ行った翌年の昭和49年だった。
もちろん、作家の目に異をとなえるつもりなどないが、星野道夫の写真集「CARIBOU」を暇つぶしに開いてみた。「写真家が一冊の本をつくるために生きているのなら、僕の場合はこの一冊に違いない」と、彼の思い入れの強い言葉が添えられた写真集だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/07/5541b02a2977ff042497c5a64b04511d.jpg)
頁をめくていけばスプルースの林や森も写っているが、多くはツンドラと呼ばれるような凍原と、そこに生きる動物が大半であった。確かに森(forest)というほどの広い大森林は、もう1冊の「森と氷河とクジラ」の舞台、南東アラスカの多湿地帯にしか見られなかった。見られなかったが、それでも、入笠にまで名前を拝借したその森がどこであるかは忘れていない。今でも、地図の上で示すことだってできるだろう。牛のような巨体の野生のエルクを目近にして、仰天したあの森だ。
ただ、つらつらと思い返してみると、やはり大木よりか灌木の方が、そして灌木と同じくらい荒涼とした草原の方が、実際の景色だったような気がしてきた。いつの時も苦労した旅であったはずなのに、今では思い出すことのできる風景は、たった10枚そこそこの退色した絵葉書のようなものになってしまっている。その1枚があの森だったのか。
O澤さん、ご指摘の通りです。気を付けます。本日はこの辺で。