入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’20年「冬」(45)

2020年12月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 昨日あんなことを呟いたら、神棚が妙に気になる。小さな供え餅を用意したが、どうも中途半端な思いは拭えない。小太郎とHALの眠る林に松が植わっていたはずだと行ってみたが、それは昔の記憶に過ぎず、松飾にできるような木はなく諦めた。ただ、氏神様の正月用の飾り付けは済んだから、それだけでも良しとした。

 その日も夜の9時ごろ、いつもの散歩に出掛けた。広々とした開田に出ると中天に半月がかかり、仙丈岳がその薄い闇の奥からこっちを向いて、一言か二言もの言いたげに見えていた。新月のころなら、冬の銀河が夜空をもっと賑やかにしてくれたはずだが、月光に負けてすっかり消沈してしまっているようだった。
 いつもなら開田の端を北へと進み、1キロくらい歩いてから林の中に入っていくのだが、その日は反対の南に進んだ。その理由が嗤うしかないが、栗饅頭を急に食べたくなったのだ。
 何枚かの用済みの田を通り、果樹園も過ぎた。さらに100㍍も歩くと林に突き当たる。その辺りまでは、小太郎が生きていたころはよく連れてきた場所だった。夜目には、目の前の林をどれほど下ることになるかは分からなかったが、無理して下れば道路があって、そこを1キロも歩けば、近くの県道沿いに夜も営業している店があると分かっていた。
 林と言うよりか長いこと放置された灌木帯を闇雲に下っていった。思っていたよりも斜面は急で、灌木ばかりか棘のある木やツルが進行の邪魔をしてきた。着ていた値段だけは一丁前の羽毛服には、もうそれほど気遣いをする気は失せてしまっていたから、構わずに木々の間を縫うように、あるいは足場を拾うようにして歩き続けた。
 ようやく木の間から眼下に、街灯や舗装された道路が見えてきたと思ったら、傾斜はさらに強まった。それまでも小癪な抵抗にかなり苛立っていたが、最後の最期でまたしても太いツルに胴の辺りを絡みつかれた。苛立ち紛れにこの野郎とばかり、その障害物を思い切り引っ張った。と、まるでその通せん坊していたツルが呆気のないほどに抵抗を止め、引っこ抜け、その勢いで身体が前方に持っていかれた。こらえきれずに倒れ、そのまま3㍍ほどの高さのコンクリートの擁壁から側溝へ転落した。
 怪我を覚悟したが、毛糸の帽子と不信の羽毛服が身を守ってくれたようだった。栗饅頭は売っていなかったが、家に帰って破れた羽毛服から出てきた上質な羽毛を見て今までの不信感が消えた、気が変わった。すっかり見放していた相手だったが、もう一度気を取り直しこれからは懇ろにするからと、破れた箇所をガムテープで貼りながら言って詫びた。
 きょうも他愛のない話で、本日はここまでとします。

 
コメント
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