Photo by Ume氏
郭公の声がするまき場の朝、牧草が朝露に濡れて光っている。きょうもいい天気だ。こういう平穏な朝を、ここでこれまで何度迎えたことだろう。上に暮らせば朝も夜も時間的余裕ができ、こんな気持ちの良い一日を始められるだけでなく、昨日呟いたような思いがけない事故もない。
毎日100㌔近くを、走行距離20万キロに近い軽トラで通勤するわけだから、何らかの事情で車を捨てて歩かざるを得ないようなことが起こることは覚悟していた。前任のMさんも車が動かなくなり、そのころは携帯電話もなかったから、オオダオ(芝平峠)から枯れ木の頭を越え千代田湖まで歩いて、ようやく千代田荘で電話を借りたことがあると話してくれた。それだってかなりの距離がある。
牧での仕事は歩くことから始まるから、10㌔程度がそれほど負担になるわけではないし、夕暮れの山道をあれこれ考えながら歩けば、別な角度から山室の谷が見えるような気持もして、15年間無視していた小さな橋の名前を改めて知ったりもした。
よく使えてくれた相棒の軽トラとは、あんな形で別れが来るとは思ってもいなかったが、7月が来れば車検を迎え、それを機に廃車にすることが決まっていた。エンジンは快調でも、その他の諸々の不備で車検を通すことは無理だろうということだった。特に最近は、ブレーキの機能がよぼよぼの老人の足のように踏ん張りが効かず、制動の加減ができず思いっきり踏み込むと、雨の日などは後輪がズルズルと滑るようなこともあった。
人との別れもそうだが、思いがけない形でそれが訪れることもある、と言い聞かせるしかない。
K氏から、昔の入笠の写真を借りた。まだ道路はできたばかりで山肌を削った跡が痛々しかったり、北門辺りにはバス停まであった。何よりも、コナシやダケカンバなどの樹木がまだまだ低木でそれを切り開いた様子も写っていた。昭和42年とあるから半世紀以上も前のことである。昭和39年に東京オリンピックが開催され、日本がいよいよ経済復興の緒に就いた影響が、こんな山間の牧にも現れたということだろう。そのうち、ここでも貴重なその写真の幾つかを紹介したい。
先日呟いた平澤真希さんの自然を舞台にしたピアノ演奏が好評です。https://youtu.be/pmcTtQRl0_Mでご覧ください。赤羽さん、rinrinさん、通信多謝。本日はこの辺で。