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Photo by Ume氏
ここにいると、本を読む気などあまり起きない。何か集中力のようなものが欠落してしまうのか、テレビなどはもっと見たくない。意識を散漫させたままでいても時間は過ぎていくし、過ぎていかなくても構わないような気もする。しかし、こればかりはそうもいかない。何もしないでただ呆けているだけかというと、そうでもなくて、考えるというよりか漠々とした思いを次々と感じている。
今午前3時半、先程までしていた雨音が止んで、その後しばらくは無音の中にいたが、突然かすかな小鳥の声がした。一度だけで、また音のない世界に戻ってしまったと思ったら、しばらくしてまた聞えてきた。ホトトギスのようだったが、それっきりもうしない。寝言のような鳴き声だったが、それで外界を意識させられた。
それにしても、空の青さは説明できても、あの仄かに聞えてきた小鳥の囀りが、何故あれほど可憐であるかを問われても答えることができないできない。我々はそれを楽しみ、喜ぶだけだ。
こんな人里から離れた山の牧場で暮らしてみたいと、若いころはずっと思っていた。その思いが60歳近くにもなってから実現して、今感じていることは若いころでなくて良かったということである。あんな破天荒で混乱していたころでは、たとえ希望通りの仕事に就けたとしても、恐らくまた別のことを考えて長くは続けられなかったと思う。
冬期小屋の管理人募集に応募した時は、都会を嫌って山に逃げてきた者で、一冬の孤独に耐えられた例はないと言われてあえなく断られた。そうかも知れないと、春先その小屋を訪ねてみて納得した。一人の男が、暗い山小屋の中でぼさぼさの頭をして、粗末な布団の中でまるで冬眠でもしているようだった。「今何時ですか」その声だけをまだ覚えている。
平凡な生活やありきたりな日々を嫌い、随分色々と突拍子もないことを考えたものだが、実行力に乏しかったことが今になってみれば幸いした、と言ってもいいだろう。そしていつの間にかそういう熱狂からも醒めて、時も過ぎていった。
少し風が強いが青空が見えている。もう1杯茶を飲んだら、昨日に立ち上げた小入笠の頭までの電牧の点検と調整に出掛けよう。本日はこの辺で。