今年も、クリンソウの大群落は見られなかった。やはり、鹿にやられてしまっていた。殆どが根元から齧られ、いまいましいことには花の付いた茎が近くに捨てられていた。試食したが口に合わなかったのかも知れないが、それが分かったら、もうあの群落を荒らすのは止めてもいいはずなのに、後からあとから好奇心の強い腹をすかした鹿共が現れるようだ、あの森には。
流れに沿って少し歩くと、モミの倒木のまた一段と増えた湿地帯には、瀬の流れがちょっとした澱んだ場所をつくり、その傍らを囲むようにクリンソウが咲いていた。大群落は見事ではあるが、この花は誰にも知られずこんなふうにそっと咲いているのがいかにも相応しいと思って帰ってきた。
今年はこの牧区にも牛を出すことになりそうだが、そうなればあれだけ増えた倒木をどう処理したらよいのかと考え込んでしまう。一昨日も、落葉松の大木を処理し、倒木は立木よりも場合によっては厄介だということを痛感したばかりだった。何もしないで放置して、牛の好きにさせるのが一番容易な方法であるのだが、さてどうしたものか。
写真に写っている倒木の根は3,4年経つ。表土の薄い大地は成長の進んだ巨木を支えることができないからだが、これからもこういうことは続いていくだろう。そしてこの先もずっと人の手が入らなければ、自然は自らの力だけで森を、少しづつ新しい別の姿に変えていくはずだ。すでに、あの倒木の根もそうなりつつある。
クリンソウやコナシの花に気を執られていたら、この花のことをうっかり忘れていた。ミヤマザクラである。きょう北門を過ぎて少し来たら、雨に濡れて樹々の葉が重たく茂る緑の中、あまり目立たずに白い花を咲かせていた。以前にこの花の名前を間違えて、指摘され訂正したことがあった。今度は気を付け図鑑で確認しようとしたが分からず、Ume氏の手まで煩わせた。バラ科ミヤマザクラ、何故見付けられないのだろう。
驚いたことに、今気が付いた。また鹿が囲い罠の中に入っている。3,4頭だろうか。本日はこの辺で。