入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

        Ume氏の入笠 「夏」 (24)

2015年07月19日 | 牧場その日その時

  Photo by Ume氏
 
  雨は止んだが、青空は見えない。こんな天気では、3連休でも誰も来ないだろう。今夜は帰るべきか否か迷っている。
                                        


  Photo by Ume氏

 結局泊まると決めたが、そうなると今夜は食べなくていいとしても、明日の朝と昼の用意はしなければならない。里でも同じことをするわけだが、何故かここでは料理がかなり面倒で、困っている。冷蔵庫の中には買い置きした肉や野菜が消費を叫んでいるが、さてさて。
 
 やっとご飯の炊けるいい匂いがしてきた。今日はどしゃぶりの雨の中で土木工事の真似事をしたから、酒も美味いが、炊き立てのほかほかの飯はさぞかしだろう。
 古いといってもそれほど昔のことではないが、とりあえず大正・昭和の初期としておこう。黒部川に職業としてイワアナ釣に入った釣師は、米と味噌とニンニクしか持たなかったと、何かの本で読んだ。
 小屋建てし、あるいは補修して、そうやって幾日も人里離れた奥山で不自由な暮らしを余儀なくされれば、炊き立てのご飯と味噌と、その日釣り上げたばかりのイワアナは・・・、いや待て、それも毎日だったら美味くもなければ、ご馳走にもならないかも知れない。仕方がないから長い夜はイワアナの燻製作りをしながら、焼酎でも飲んで気を紛らわすほかなかっただろう。
 それに比べれば、ここには一応文明がある。炊き立てのご飯と、冷蔵庫の中にはそれなりの食材もあれば、ビール、日本酒、ウイスキーと揃っている。風呂もある。PCという、黒部谷の住人には想像もつかない、厄介だが便利な通信・情報の手段も持っている。
 湿度の高い雨の夜だがもう少し起きていて、この小屋にあるささやかな平安を大切にしたい。

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        Ume氏の入笠 「夏」 (23)

2015年07月17日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

                                          Photo by Ume氏

  今ごろ台風はどこへ行ったのか、まだあの抜けるような夏の青空は見えてこず、頭上のぶ厚い雨雲は居座ったままだ。この台風が去れば梅雨も明けるかと期待しているが、こんな鬱陶しい天気がまだしばらくは続くのかも知れない。
 今日4頭上がってくるはずの牛は2頭に減ってしまった。そして足を痛めていたNo.75を下に戻したので、結局1頭増えただけだが、こういう突然の変更は何故かよくある。それでも新顔の2頭はトラックから広い草地に出ると、嬉しそうに走り回り、近くにいた群れに上手く合流できた。さすがと言うべきか種牛見習いのNo.222が早速やってきて、新顔たちの検分をやっていた。まだ見習いとはいうものの、まき牛牧区の将来はこの牛にかかっている。種牛のことを「まき牛」と呼び、まき牛のいる牧区のことを「まき牛牧区」とも言うが、いまだに正しい名前の由来は知らない。種を「撒く」からでも来ているのだろうか。


                    Photo by Ume氏

 明日から3連休。伊那の天気予報はなんと、雨になっている。まぁ、当たらないだろう。

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        Ume氏の入笠 「夏」 (22)

2015年07月16日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

  やはりこんな天気、古道の下見は中止することになった。来週の水曜日にもう一度やってみることにしたが、「伊那側から歩いて登る入笠」という構想に、この二つの古道が役立ち、利用されるようになり、その結果いまの時代に甦るなら、入笠は変わるだろう。そうなって欲しい。
 と言って別段、富士見側からゴンドラを利用して入笠へやってくるにぎやかな人たちを、とやかく言うわけではない。ゴンドラからの展望を楽しむだけで喜んで帰る人、お目当ての草花に出会えて満足する人、待望の頂上からの息をのむような眺望に歓喜する人、それはそれでいい。
 ただもう少し本格を目指す山好きには、言っておきたい。まだまだ知られていない入笠の良さをじっくりと味わうには、手軽な手段であるゴンドラではなく、煩瑣な交通規制のかかった富士見側の道路を車でもなく、伊那側から、人気のない静かな山道を汗を拭きふき登ってくることを、本当は勧めたいのだ、と。そうすれば、迎えた山の夜には、満天の星ぼしを眺めながら、広大な宇宙の「無窮の遠(おち)」へと旅立っていく幸運にも、きっと巡り合えるだろうから。
 古い入笠のパンフレットに写っている人たちは、気のせいかも知れないが、いまよりもっと明るく晴れやかに見え、何よりも躍動感に溢れている。笑顔には、歌声さえ聞こえてくるようだが、戦中戦後の暗くて貧しい時代をようやくにして抜け出た、それは解放された喜びだったろう。


              Photo by Ume氏

 小雨と霧の中、牛の見回りから戻った途端、また雨が本格的に降ってきた。上の写真のようにマーガレットがあちこちで草地のかなり広い一画を飾って、雨の匂いに混ざりいい花の香りを放っていた。前脚を負傷している第4牧区のNo.75は、明日また上がってくる4頭の牛と交代して里に下ろすつもりだが、今日はその牛も含め、群れの確認に大分手間取った。大沢山のJAXAの観測所裏に仕掛けた罠に、また鹿が1頭掛かっている。

 久し振りのコメント、ありがとう。もちろん君は冬の入笠の”同士見習い(失礼!)”の一人だから、テイ沢と言わずどこでも案内します。でも本当はそろそろ、鹿のランチャーステーキが食べたいのじゃないのかな、クク。

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        Ume氏の入笠 「夏」 (21)

2015年07月15日 | 牧場その日その時

Photo by Ume氏

 台風11号接近の影響だろう、午前中はあれほど天気がよかったのに、いつの間にかぶ厚い雲が空の大方を占めてしまい、放牧地に射していた日の光も薄れて勢いがない。明日は荊口から石堂越えを半対峠まで登り、半対峠からは尾根道を歩き、高座岩、本家・御所平峠を経て、法華道の栗田口へ下る登山道の調査を予定していたが、この天気の様子では延期した方がよいかも知れない。
 実は法華道には諏訪神社口と赤坂・栗田口の二つの登路があって、600余年という長い間には時代により、二つの道が盛衰を繰り返しながら利用されてきたに違いない。この古道にさらに遡ること300年以上も昔、西暦で言えば900年代、甲斐の牧から京の都へ馬を運ぶ際に使われたという伝説の道があり、それが石堂越えという、山室川の谷に残るもう一つの古道である。その一部が栗田から半対峠間の山中に、それらしき何らかの跡をまだ残しているのか以前から関心があり、今回の踏査で是非確認してみたいと考えていた。
 この調査は一人ではやらない。きっかけを作ってくれた人たちがいる。この人たちは山室に移り住んで、ある人は地域活性化を考え、ある人は馬で農林の作業をやろうとしたり、またある人は不登校問題に取り組んだりと、それぞれがそれなりに独自のやりがいを探し、見付けて頑張って生きている。その彼ら彼女らが今年の夏、3泊4日をかけて馬と子供を連れて入笠へやってくる計画を立てたのだが、どうもそのコースのうち二つの古道が不案内のため、お節介を焼く羽目になってしまったのだ。つまり、下見に同行するということに。(つづく)


  Photo by Ume氏
 
 この写真は何年も前に撮影されたもので、当時はこのようにヤナギランの群生を入笠のあちこちで見かけたっそうだが、今はもうそういう光景には出くわせなくなってしまった。


 「一番いい顔をしな」と言って撮ってあげた4日前の3人組


  テイ沢の下から6番目の丸太橋  Photo by Ms Shuhko

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        Ume氏の入笠 「夏」 (20)

2015年07月14日 | 牧場その日その時

Photo by Ume氏

 夏の一日が終わろうとしている。今日の最高気温は25度C、「日蔭に入ればもう1枚何か着る物が欲しくなる」と、濃い影を落としたダケカンバの太い根元に立って、その人は言った。真っ青い空や、日の光が照り付ける深緑の森を眺めていると、郷愁にも似た懐かしさとでも言えばよいのか、遠い時間の記憶が甦ってくる。夏休み、宿題、天竜川での水泳、向日葵、蝉の声・・・。


                                          Photo by Ms Shuhko

 昨日捕獲した鹿を殺処分しようと行ってみると、今日も小鹿が捕えられた母鹿のすぐそばまで来ていた。小鹿は最初われわれが救出に来てくれたとでも思ったか、近付いてこようとした。すると、われわれと小鹿の間にいた母鹿はたちまち逃げようとして暴れ、虚しい努力は罠の掛かった前脚の傷をさらに深めた。そして逃げ惑う中突然鋭い声を上げた。すると、事態のすべてを理解できないまでも、尋常でないことが母親の身に迫っていることがようやく分かったらしく、小鹿は母親を見捨てて、草むらの中に逃げ去った。
 こんな場面には滅多に出くわさないから、やりきれない気持ちが、次の行動を鈍らせた。

 長い影が目の前の草地に落ちてきた。山の夕暮れが、早く帰ろと言っている。今日はUme氏とShuhkoさんの競作となりました。山中さん、多謝。是非またおいでください。

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