■昨年12月8日に当会が取材を受けていた大同有毒スラグ問題について、1月22日発売の週刊誌に記事が掲載されました。取材記者は、三重県で石原産業が2001年から土壌補強材、土壌埋戻材として生産、販売していたフェロシルトが、実は環境基準を超える六価クロムやフッ素、放射性物質などが含まれている産業廃棄物であることを明らかにしたジャーナリストで、大同有毒スラグ問題がフェロシルト事件と酷似していることから関心を抱いたとして当会にコンタクトしてきたものです。さっそく記事の内容を見てみましょう。
**********週刊金曜日2016年1月22日号
20160122_shukan_kinyobi_p26.pdf
20160122_shukan_kinyobi_p27.pdf
大同特殊鋼スラグ偽造事件 汚染された地が残された
<不法投棄は問えない!?>
昨年9月に始まった群馬県警による大同特殊鋼の有害スラグ・リサイクル偽造事件の捜査は年を超えた。
最終的に不法投棄は間われない見込みだ。
この事件で自主規制を強化した鉄鋼業界だが、他方でスラグ輸出の規制緩和を国に働きかけている。
群馬県東吾妻町の住宅地の一角。佐藤建設工業(渋川市)の敷地に油圧ショベル「ユンボ」が5台。ダンプカーが山の砕石を運び込む。かつて大同特殊鋼(本社・名古屋市)渋川工場(群馬県渋川市)が、有害スラグ(鉄鋼製造の過程で副産物としてでるカス)と天然砕石をユンボで混ぜ、再生路盤材を製造、工事現場に出荷していた。
★自濁したスラグが家まで迫った
近所の女性(60歳)が言う。「騒音と振動がすごかった。飛来したスラグで換気一扇が詰まり、大雨で白濁したスラグが庭に流れ込み、家に迫った。セメントみたいに固まり怖かった」。住民の苦情で同社は四方を鉄板で覆い、暮れには佐藤建設工業の社長がお歳暮を抱え家々を回ったが、スラグの素性は明かさなかった。その後、事件が顕在化し、女性は報道でスラグと知った。2014年にスラグは撤去された。
渋川工場では戦前からスラグを土地の造成材に使い、01年にフッ素の土壌環境基準(溶出基準、1リツトル当たり0.8ミリグラム)、03年に土壌汚染対策法の土壌含有量指定基準(1キロ当たり4000ミリグラム)が設定された後も、基準を超えたスラグを出荷し続けた。
フッ素が多いのは、電気炉で鉄スクラップから製鋼する際、フッ素化合物を投入するため。環境基準ができて他の電気炉メーカーや大同特殊鋼の知多工場も使用をやめたが、渋川工場は「廃止を検討したが、特殊な製品の製造に不可欠でやめられずにいた」(同社関係者)。
公共事業に最初に使ったのがお膝元の渋川市。田中市郎建設部長は「工場の働きかけもあったが、水と混ざると固まる性質が、坂道の多い市に適合していた」と言うが、安全性は確認しなかった。
しかし09年、鉄鋼メーカーでつくる鐵鋼スラグ協会が第三者機関による審査証明制度を導入、会員に遵守を求めたことで、環境基準を上回るスラグを出荷できなくなった。渋川工場が天然砕石と混合して薄め、審査をすり抜けたのはそれからだ。
群馬県も応援した。10年6月、県土整備部が、混合した路盤材がフッ素などの基準を満たせば使うように促す通知を出すと、公共工事に一気に広がった。何しろ天然砕石の路盤材がトン3000円もするのに1300円と格安なのだから。
だが、製法はずさん極まりなかった。市民オンブズマン群馬が入手した工場の内部資料(13年6月の管理表)によると、ロットごとに原料のスラグと砕石を混ぜた「混合再生材」のフッ素含有量が記されている。たとえば1キロ2万2100ミリグラム含有のスラグは、砕石と混ぜると1600ミリグラム。1万600ミリグラムのスラグは1400ミリグラム。再生材の数値はまちまちだ。
市民オンブズマン群馬の小川賢事務局長は「混合比率を決めても実際にはユンボでスラグと砕石の山を崩してこねるだけだから均一製品ができるわけがない。リサイクル製品とは名ばかりだった」と指摘する。
製法を記した同社のマニュアルは鐵鋼スラグ協会に提出されていた。協会は有害スラグの混入を知っていたのか。内田靖人常務理事は「マニュアルに測定値の記載はなかった。基準超えのスラグを原料に使うなんて予想もつかなかった」と言う。昨年1月ガイドラインを改定、原料段階から基準以下とし、販売価格を運送費などの費用が上回るいわゆる「逆有償」取引を認めないと会員に通知した。
★産廃の判断に苦労した群馬県
県は、有害スラグと再生路盤材を産業廃棄物と断定するのに1年半以上費やした。環境省は廃棄物の判断材料として5項目を挙げるが、中でも県が重視したのは性状と逆有償だった。
契約書によると、大同特殊鋼は子会社の大同エコメットにトン10円で販売、大同エコメットは佐藤建設工業にトン100円で販売。一方、大同特殊鋼はエコメットに処理費としてトン数千円、佐藤建設工業に同数百円払っていた。明らかな逆有償で、委託先の2社は産廃業の許可がなく、大同特殊鋼と共に委託基準違反も明白だ。
一方、性状による判断は難航を極めた。土壌の環境基準が「道路用等の路盤材として利用される場合には、再利用物自体は土壌と区別できることから適用しない」(中央環境審議会答申)と適用除外だったからだ。
当時の審議会委員は「鉄鋼業界が『フッ素は自然界にあり、基準適用なら路盤材に使えなくなる』と猛反対した」と明かす。
困った県を救ったのが周辺土壌の汚染の存在。廃棄物・リサイクル課の松井利光次長は「スラグの安全基準を定めているのはJIS(日本工業規格、13年改定)だけ。JIS違反では県警に告発するのは難しかった。だが、国土交通省の調査が進み、周辺土壌の汚染が幾つも見つかり、廃棄物断定の決め手となった」。
昨年9月、群馬県警が廃棄物処理法違反の疑いで大同特殊鋼に家宅捜索に入った。結局、不法投棄は間われず、同社などの委託基準違反(無許可業者への産廃処理の委託)にとどまる見込みだ。廃棄物処理法の「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」(16条)の適用を検討したが、「1300円で販売・施工されていたから『みだりに』と言えない」(松井次長)。
昨年1月国と県、渋川市の公共事業担当部局の協議で原状回復策を決めた。工事をした195カ所のうち77カ所の基準超えについて民有地の19カ所を撤去、残りは被覆に。廃棄物を埋めたにもかかわらず、基準以下はそのままとなった。工場の出荷量は計76万トンあるが、撤去量は一部にとどまる。群馬県県土整備部の岩下勝則建設企画課長は「生活環境への影響はないので撤去の必要はないとなった」。これに対し大同特殊鋼は「(逆有償について)取引の対価や金額決定の合理性を十分説明できると考えている。県のルールに従っており、違法行為を行なったと認識していない」(総務部)としている。
かつてリサイクル偽装事件を起こした石原産業(大阪市)は、各地に埋めた産廃72万トンと汚染土を約486億円かけて全量撤去した。今回は行政側三者が自ら利用したのに加え、国の規制もリサイクル優先の趨勢の中で曖味だった。結局公共事業部局が、責任問題に発展するのを嫌い、幕引きを図ったとも言える。
昨年10月、東京都内で環境省の「廃棄物の越境移動等の適正化に関する検討会」があった。日本鉄鋼連盟の北野吉幸(きたのよしゆき)鉄鋼スラグ委員会委員長が、資料を手に訴えた。
「海外の需要があってもFOB価格(貨物を積み地の港で本船に積み込んだ時点の価格)がマイナスの輸出になった際、環境省から『廃棄物の輸出に当たる恐れがある』と言われる。廃棄物輸出に当たらないと明確化してほしい」。
鉄鋼業界が毎年排出するスラグは約4000万トン。輸出の多くを占める高炉スラグはほぼ無害だが、電気炉のスラグも含め、スラグ全体の国内需要が将来減る可能性がある。連盟には運賃が高い遠方の国への輸出を増やす狙いがある。環境省は「使い道が明確なら逆有償と判断しない。同様の事件が海外で起きないよう判断基準をつくりたい」と言うが、環境基準設定の時のように業界の意向がそっくり反映される心配もある。
今回の事件もオンブズマンの調査・告発活動なしにここまでこれなかったろう。一層の国民の監視が必要だ。
撮影/杉本裕明
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すぎもと ひろあき・ジャーナリスト。著書に『ルポ にっぼんのごみ』(岩波新書)など。
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■この記事の冒頭に、「不法投棄は問えない!?」というタイトルが付けられていますが、これは正確に言うと「不法投棄は問われない!?」という意味だと思われます。
当会の考え方としては、大同有毒スラグは明らかに不法投棄であることは確かですが、群馬県廃棄物・リサイクル課が群馬県警に出したとされる告発状の内容は、公表されていません。したがって、どのような罰条なのかがわからないため、ひょっとしたら「大山鳴動して鼠一匹」という可能性が否定しきれません。
そのため、不法投棄は問われず、この記事が指摘するように、委託基準違反のみで幕引きされてしまうのではないか、という懸念が頭をもたげるのです。
■この記事では、当会の他にも国、県、渋川市、そして大同特殊鋼にも関係者の取材を行っています。その分、記事の内容に深みを増しています。
「不法投棄は問われない」とするこの記事の根拠として、「性状による判断は難航を極めた」ということが挙げられています。その理由は、「道路用等の路盤材として利用される場合には、再利用物自体は土壌と区別できることから適用しない」とする中央環境審議会答申を引用しています。
また、告発の決め手について、この記事では群馬県廃棄物・リサイクル課の次長が語った理由を挙げています。それによると「スラグの安全基準を定めているのはJIS(日本工業規格、13年改定)だけ。JIS違反では県警に告発するのは難しかった。だが、国土交通省の調査が進み、周辺土壌の汚染が幾つも見つかり、廃棄物断定の決め手となった」としつつも、「廃棄物処理法の『何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない』という条項の適用については、1300円で販売・施工されていたから『みだりに』と言えない」と結論付けています。
群馬県では、環境森林部よりも県土整備部のほうがはるかに権勢を誇っているため、立ち入り調査から告発まで20カ月も要したのは、県土整備部から環境森林部にプレッシャーがかけられたものと、当会は考えています。
ジャーナリストの取材に対して、廃棄物・リサイクル課次長が不法投棄について、上記のような見解を語ったということは、やはり県土整備部からの圧力を窺わせます。
確かに路盤材にリサイクル製品を使用することは、一般土壌と隔離されているから、「みだり」に捨てたということにならない、と行政が穏便な処分を念頭にしたがるのは、容易に想像できます。
しかし、1300円で販売・施工されていたから、「みだり」に捨てたということにならない、というのはどうしても理解できません。逆有償取引があったのですから、1300円で販売・施工されようとされまいと、サンパイを投棄したのは間違いないからです。
しかも、路盤材のみならず盛土材としても、大同有毒スラグが野放図に公共事業に使われていたのですから、明らかに不法に、というか、違法に投棄されていたことになります。
■当会では、群馬県廃棄物・リサイクル課に対して、2015年9月7日に県警に提出した告発状の内容について開示するように再三求めていますが、同課では、かたくなに開示を拒んでいます。
こうした現況を見ると、また群馬県という二重基準がまかりとおる行政体質の自治体であることを勘案すると、大同スラグ問題の今後の展開についても、三重県のフェロシルト事件とは異なる展開になる懸念は、払しょくしきれないのです。
なお、記事の中に当会の代表の写真が掲載されていますが、その写真説明文として、「小川賢事務局長」とあるのは間違いで「小川賢代表」が正しいことを、最後に付け加えさせていただきます。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
**********週刊金曜日2016年1月22日号
20160122_shukan_kinyobi_p26.pdf
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大同特殊鋼スラグ偽造事件 汚染された地が残された
<不法投棄は問えない!?>
昨年9月に始まった群馬県警による大同特殊鋼の有害スラグ・リサイクル偽造事件の捜査は年を超えた。
最終的に不法投棄は間われない見込みだ。
この事件で自主規制を強化した鉄鋼業界だが、他方でスラグ輸出の規制緩和を国に働きかけている。
群馬県東吾妻町の住宅地の一角。佐藤建設工業(渋川市)の敷地に油圧ショベル「ユンボ」が5台。ダンプカーが山の砕石を運び込む。かつて大同特殊鋼(本社・名古屋市)渋川工場(群馬県渋川市)が、有害スラグ(鉄鋼製造の過程で副産物としてでるカス)と天然砕石をユンボで混ぜ、再生路盤材を製造、工事現場に出荷していた。
★自濁したスラグが家まで迫った
近所の女性(60歳)が言う。「騒音と振動がすごかった。飛来したスラグで換気一扇が詰まり、大雨で白濁したスラグが庭に流れ込み、家に迫った。セメントみたいに固まり怖かった」。住民の苦情で同社は四方を鉄板で覆い、暮れには佐藤建設工業の社長がお歳暮を抱え家々を回ったが、スラグの素性は明かさなかった。その後、事件が顕在化し、女性は報道でスラグと知った。2014年にスラグは撤去された。
渋川工場では戦前からスラグを土地の造成材に使い、01年にフッ素の土壌環境基準(溶出基準、1リツトル当たり0.8ミリグラム)、03年に土壌汚染対策法の土壌含有量指定基準(1キロ当たり4000ミリグラム)が設定された後も、基準を超えたスラグを出荷し続けた。
フッ素が多いのは、電気炉で鉄スクラップから製鋼する際、フッ素化合物を投入するため。環境基準ができて他の電気炉メーカーや大同特殊鋼の知多工場も使用をやめたが、渋川工場は「廃止を検討したが、特殊な製品の製造に不可欠でやめられずにいた」(同社関係者)。
公共事業に最初に使ったのがお膝元の渋川市。田中市郎建設部長は「工場の働きかけもあったが、水と混ざると固まる性質が、坂道の多い市に適合していた」と言うが、安全性は確認しなかった。
しかし09年、鉄鋼メーカーでつくる鐵鋼スラグ協会が第三者機関による審査証明制度を導入、会員に遵守を求めたことで、環境基準を上回るスラグを出荷できなくなった。渋川工場が天然砕石と混合して薄め、審査をすり抜けたのはそれからだ。
群馬県も応援した。10年6月、県土整備部が、混合した路盤材がフッ素などの基準を満たせば使うように促す通知を出すと、公共工事に一気に広がった。何しろ天然砕石の路盤材がトン3000円もするのに1300円と格安なのだから。
だが、製法はずさん極まりなかった。市民オンブズマン群馬が入手した工場の内部資料(13年6月の管理表)によると、ロットごとに原料のスラグと砕石を混ぜた「混合再生材」のフッ素含有量が記されている。たとえば1キロ2万2100ミリグラム含有のスラグは、砕石と混ぜると1600ミリグラム。1万600ミリグラムのスラグは1400ミリグラム。再生材の数値はまちまちだ。
市民オンブズマン群馬の小川賢事務局長は「混合比率を決めても実際にはユンボでスラグと砕石の山を崩してこねるだけだから均一製品ができるわけがない。リサイクル製品とは名ばかりだった」と指摘する。
製法を記した同社のマニュアルは鐵鋼スラグ協会に提出されていた。協会は有害スラグの混入を知っていたのか。内田靖人常務理事は「マニュアルに測定値の記載はなかった。基準超えのスラグを原料に使うなんて予想もつかなかった」と言う。昨年1月ガイドラインを改定、原料段階から基準以下とし、販売価格を運送費などの費用が上回るいわゆる「逆有償」取引を認めないと会員に通知した。
★産廃の判断に苦労した群馬県
県は、有害スラグと再生路盤材を産業廃棄物と断定するのに1年半以上費やした。環境省は廃棄物の判断材料として5項目を挙げるが、中でも県が重視したのは性状と逆有償だった。
契約書によると、大同特殊鋼は子会社の大同エコメットにトン10円で販売、大同エコメットは佐藤建設工業にトン100円で販売。一方、大同特殊鋼はエコメットに処理費としてトン数千円、佐藤建設工業に同数百円払っていた。明らかな逆有償で、委託先の2社は産廃業の許可がなく、大同特殊鋼と共に委託基準違反も明白だ。
一方、性状による判断は難航を極めた。土壌の環境基準が「道路用等の路盤材として利用される場合には、再利用物自体は土壌と区別できることから適用しない」(中央環境審議会答申)と適用除外だったからだ。
当時の審議会委員は「鉄鋼業界が『フッ素は自然界にあり、基準適用なら路盤材に使えなくなる』と猛反対した」と明かす。
困った県を救ったのが周辺土壌の汚染の存在。廃棄物・リサイクル課の松井利光次長は「スラグの安全基準を定めているのはJIS(日本工業規格、13年改定)だけ。JIS違反では県警に告発するのは難しかった。だが、国土交通省の調査が進み、周辺土壌の汚染が幾つも見つかり、廃棄物断定の決め手となった」。
昨年9月、群馬県警が廃棄物処理法違反の疑いで大同特殊鋼に家宅捜索に入った。結局、不法投棄は間われず、同社などの委託基準違反(無許可業者への産廃処理の委託)にとどまる見込みだ。廃棄物処理法の「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」(16条)の適用を検討したが、「1300円で販売・施工されていたから『みだりに』と言えない」(松井次長)。
昨年1月国と県、渋川市の公共事業担当部局の協議で原状回復策を決めた。工事をした195カ所のうち77カ所の基準超えについて民有地の19カ所を撤去、残りは被覆に。廃棄物を埋めたにもかかわらず、基準以下はそのままとなった。工場の出荷量は計76万トンあるが、撤去量は一部にとどまる。群馬県県土整備部の岩下勝則建設企画課長は「生活環境への影響はないので撤去の必要はないとなった」。これに対し大同特殊鋼は「(逆有償について)取引の対価や金額決定の合理性を十分説明できると考えている。県のルールに従っており、違法行為を行なったと認識していない」(総務部)としている。
かつてリサイクル偽装事件を起こした石原産業(大阪市)は、各地に埋めた産廃72万トンと汚染土を約486億円かけて全量撤去した。今回は行政側三者が自ら利用したのに加え、国の規制もリサイクル優先の趨勢の中で曖味だった。結局公共事業部局が、責任問題に発展するのを嫌い、幕引きを図ったとも言える。
昨年10月、東京都内で環境省の「廃棄物の越境移動等の適正化に関する検討会」があった。日本鉄鋼連盟の北野吉幸(きたのよしゆき)鉄鋼スラグ委員会委員長が、資料を手に訴えた。
「海外の需要があってもFOB価格(貨物を積み地の港で本船に積み込んだ時点の価格)がマイナスの輸出になった際、環境省から『廃棄物の輸出に当たる恐れがある』と言われる。廃棄物輸出に当たらないと明確化してほしい」。
鉄鋼業界が毎年排出するスラグは約4000万トン。輸出の多くを占める高炉スラグはほぼ無害だが、電気炉のスラグも含め、スラグ全体の国内需要が将来減る可能性がある。連盟には運賃が高い遠方の国への輸出を増やす狙いがある。環境省は「使い道が明確なら逆有償と判断しない。同様の事件が海外で起きないよう判断基準をつくりたい」と言うが、環境基準設定の時のように業界の意向がそっくり反映される心配もある。
今回の事件もオンブズマンの調査・告発活動なしにここまでこれなかったろう。一層の国民の監視が必要だ。
撮影/杉本裕明
==========
すぎもと ひろあき・ジャーナリスト。著書に『ルポ にっぼんのごみ』(岩波新書)など。
**********
■この記事の冒頭に、「不法投棄は問えない!?」というタイトルが付けられていますが、これは正確に言うと「不法投棄は問われない!?」という意味だと思われます。
当会の考え方としては、大同有毒スラグは明らかに不法投棄であることは確かですが、群馬県廃棄物・リサイクル課が群馬県警に出したとされる告発状の内容は、公表されていません。したがって、どのような罰条なのかがわからないため、ひょっとしたら「大山鳴動して鼠一匹」という可能性が否定しきれません。
そのため、不法投棄は問われず、この記事が指摘するように、委託基準違反のみで幕引きされてしまうのではないか、という懸念が頭をもたげるのです。
■この記事では、当会の他にも国、県、渋川市、そして大同特殊鋼にも関係者の取材を行っています。その分、記事の内容に深みを増しています。
「不法投棄は問われない」とするこの記事の根拠として、「性状による判断は難航を極めた」ということが挙げられています。その理由は、「道路用等の路盤材として利用される場合には、再利用物自体は土壌と区別できることから適用しない」とする中央環境審議会答申を引用しています。
また、告発の決め手について、この記事では群馬県廃棄物・リサイクル課の次長が語った理由を挙げています。それによると「スラグの安全基準を定めているのはJIS(日本工業規格、13年改定)だけ。JIS違反では県警に告発するのは難しかった。だが、国土交通省の調査が進み、周辺土壌の汚染が幾つも見つかり、廃棄物断定の決め手となった」としつつも、「廃棄物処理法の『何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない』という条項の適用については、1300円で販売・施工されていたから『みだりに』と言えない」と結論付けています。
群馬県では、環境森林部よりも県土整備部のほうがはるかに権勢を誇っているため、立ち入り調査から告発まで20カ月も要したのは、県土整備部から環境森林部にプレッシャーがかけられたものと、当会は考えています。
ジャーナリストの取材に対して、廃棄物・リサイクル課次長が不法投棄について、上記のような見解を語ったということは、やはり県土整備部からの圧力を窺わせます。
確かに路盤材にリサイクル製品を使用することは、一般土壌と隔離されているから、「みだり」に捨てたということにならない、と行政が穏便な処分を念頭にしたがるのは、容易に想像できます。
しかし、1300円で販売・施工されていたから、「みだり」に捨てたということにならない、というのはどうしても理解できません。逆有償取引があったのですから、1300円で販売・施工されようとされまいと、サンパイを投棄したのは間違いないからです。
しかも、路盤材のみならず盛土材としても、大同有毒スラグが野放図に公共事業に使われていたのですから、明らかに不法に、というか、違法に投棄されていたことになります。
■当会では、群馬県廃棄物・リサイクル課に対して、2015年9月7日に県警に提出した告発状の内容について開示するように再三求めていますが、同課では、かたくなに開示を拒んでいます。
こうした現況を見ると、また群馬県という二重基準がまかりとおる行政体質の自治体であることを勘案すると、大同スラグ問題の今後の展開についても、三重県のフェロシルト事件とは異なる展開になる懸念は、払しょくしきれないのです。
なお、記事の中に当会の代表の写真が掲載されていますが、その写真説明文として、「小川賢事務局長」とあるのは間違いで「小川賢代表」が正しいことを、最後に付け加えさせていただきます。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】