<日本>
昔話の登場人物が何をなりわいとして生活していたかを探ろうとしても意外にもこうした点はさらっと流されているのは、話の進行上あまり重要なものとして考えられなかったのが原因でしょうか。
日本昔話百選/稲田浩二・稲田和子 編著/三省堂/2003年改訂版から狐や狼など動物の話や、お百姓、山に薪とりに行ったなどを除くとかなり限定されている。
茶屋(うぐいすの里、手なし娘)
呉服屋(犬ッコと猫とうろこ玉、手なし娘)
魚屋(狐と狼)
大工(大工と鬼六)
炭焼き(味噌買橋、炭焼長者、運定めの話)
鍛冶屋(力太郎)
猟師(鴨とりごんべえ、黄金の爪)
床屋(糠福と米福)
豆腐屋(味噌買橋)
うらない(はっけ見)(聞耳頭巾、猿の生肝)
飯屋(天狗とかくれみの)
馬喰、馬子(水乞い鳥、馬子どんと山んばばあ)
ばくちうち(天狗とかくれみの)
面白いのでは、北前船の船方(鼻きき五左衛門)、ほうろく売り(天人女房)
昔話では、お百姓が一般的かというと、必ずしもそうではなく、「貧しい、おじいさん、おばあさんがいました」と、何を生業としていたのかははっきりしない。
<外国>
昔話は成立が古ければふるいほど、農業や牧畜、狩猟が主だった時代を反映したものが多いことはうなずけますが、中には日本の昔話にはあまりでてこないものも。
インドの昔話に床屋がでてくるものがありますが、他の国ではあまり読んだことがありません。
「床屋と幽霊」(インドの民話/長 弘毅/福音館書店)は床屋の夫婦の物語。食べるに精いっぱいの床屋の女房が、床屋をなぐりつけるが、これに嫌気がさした床屋は家をとびだしてしまう。途中幽霊にであい、食べられそうになるが、鏡をうまく利用して、金貨と籾米でいっぱいの倉庫をせしめてしまう。叔父の幽霊が「やつはずるい人間だ。お前はだまされたんだよ」と床屋のところにでかけていくが・・・・。
「かいば入れから生まれたおよめさん」(大人と子どものための世界のむかし話 インドのむかし話/坂田貞二 編訳/偕成社/1989年初版)の中にも、おべっかつかいの床屋がでてきます。
村の人に何か連絡する場合、インドではこうした役割をもっていたのが、床屋だったといいいます。この昔話のほかの人々のなりわいは、ヒツジつかい、村長、坊さん(なりわいといえるかは疑問ですが)など。
岩波少年文庫のグリム童話集(上下)(佐々木田鶴子・訳 出久根 育・絵)から「なりわい」を拾ってみると、面白いのが水車小屋というもの。これを仕事にした人がいたんでしょうね(ひょろひょろ足のガタガタこぞう)(テーブルとロバとこん棒)(三本の金の毛のある悪魔)など。
仕立て屋・・・(テーブルとロバとこん棒)(ワラと炭とそら豆)(名人の四人兄弟)(ゆうかんな仕立て屋さん)。
猟師(狩人)やきこり・・・(漁師とおかみさん)(ヘンゼルとグレーテル)(ふたりの兄弟)。
職人(金細工師やほうきづくりなど)・・・(しあわせハンス)(テーブルとロバとこん棒)(ガラスびんの中のばけもの)。
泥棒・・・(親指こぞう)(三本の金の毛のある悪魔)(名人の四人兄弟)。
そのほか、宿屋、居酒屋、肉屋、牧師、楽師、コックなど。
職業不明の昔話も多いが、思ったほど多くはない。