世界の民話7/スペイン・ポルトガル編/三原幸久/家の光協会/1978年初版
同じ類型の話があちこちにあり、人間の身勝手さを皮肉っています。
石の下敷きになったヘビ。三日間もでられないで困っているところにペリコという男がやってきます。
一度はヘビを助けようと思ったペリコでしたが、自分が襲われるのではないかと思い考え直します。
しかし、ヘビは自由になってもかみつくことはしないと何度も何度も懇願します。
もともと、こころがやさしいペリコはヘビを助けますが、自由になったヘビは、ペリコにとびかかろうとします。
ヘビは三匹の動物にたずねてみようといいます。
犬の意見。
「昼は羊の群れをオオカミから守り、夜はねずに家を泥棒から守ったのに、年をとって役に立たなくなってしまったからといって家をほうりだされた。よいことをしたものが、どんなお返しを受けたかよくおわかりでしょう。ひどいのは動物でなく人間です。」
ロバ。
「何年も重い粉の入った袋を運び続けたのに、年をとってむかしほどの働きができなくなると、食べものの量を減らされ、おまけに家を追い出されたのです。」
最後にキツネに尋ねると、ヘビが石の下に下敷きになった状況を再現させ、ペリコを助けます。
ここで終わる話が多いのですが、このスペイン版には続きがあります。
助けられたペリコが、お礼にキツネにニワトリをあげる約束をします。ところがおかみさんは命の恩人であっても、キツネにニワトリをやることはないと、猟犬を袋にいれます。
キツネがよだれをたらして、袋のなかのものを食べようとすると・・・・。
最後、命の恩人にとんでもないお返し。やぱり人間というのは身勝手か?。
カナリア王子 イタリアのむかしばなし/イタロ・カルヴィーノ再話 安藤美紀夫・訳/福音館文庫/2008年初版
金のたまごをうむカニを手に入れた、貧乏な石工。
またたくまに金持ちに。
不思議に思った近所の仕立て屋が、こっそり石工の家をのぞいて、とうとう秘密をしります。
仕立て屋は娘を石工の息子と結婚させてやろうともちかけ、約束がととのうと、結納金にカニをくれるようにもちかけます。
どのみち、息子のものになるのだからと承知した石工。
ところがまちきれない仕立て屋は、こっそりカニを持ち出し、よく調べてみると、はらのところに字が書いてあるのをみつけます。
カニの甲羅の方を食べる者は、いつか王になり
あしのほうを食べる者は、毎朝、枕の下に、ぎっしりお金の入った財布が見つかる
このカニの甲羅を食べたのは、仕立て屋の兄。
あしをたべたのは弟。
カニを食べたので、大騒ぎになり石工と仕立て屋の息子、娘の結婚はとりやめになり、いずらくなった兄弟は旅に出ます。
宿屋に泊まり、朝起きてみると弟の枕の下からはお金の入った財布がでてきます。
宿屋のおかみさんが、じぶんたちをためすために財布を置いたと思った弟は、宿屋のおかみさんに、それを返しに行きます。
キツネにつままれたような顔をしたおかみさんでしたが、目先がきくおかみさんでしたから、わかっているふりをして、財布を受け取ります。
あくる日も同じようなやり取り。
宿屋を出発した兄弟が森のなかで一夜を過ごし、目を覚ますと枕がわりにしていた石のそばに財布がみつかります。
宿屋のおかみの仕業と考えた弟でしたが、毎朝、財布がでてくるので、これは自分のものだと知ります。
やがて二人は別々の道をゆくことになります。
弟は小さな刀を兄にやり、「もし曇ったら死んだものと思って、ぼくのためにないてくれ」といい、兄の方も水の入った瓶を弟にわたし「水が濁ったら、死んだものと思ってくれ」といいます。
別れの場面はよくでてくるシチュエーションです。
兄の方は、王さまが死んだ町で、「ハトが頭の上にとまった人を、王さまにしよう」という大臣のとりきめで、すぐに王さまになります。
弟はある町で王女と話すようになります。
この王女と結婚することなるのかと思いきや・・・。
王女とトランプをすることになった弟。昔も今も賭け事にはお金がつきもの。
弟はトランプに負け続けますが、お金がなくなることはありません。
不思議に思った王女が、魔女から体の中のものを全部はきだす薬を手に入れ、カニのあしを手に入れることに成功します。
また旅に出た弟は、はらがへって、草でも食べようと、手にさわった草を食べると、あっという間にロバの姿に変わります。
しかしキャベツに似た草を食べると、またもとの姿にもどります。
この先は想像どおりで、弟は、王女をロバの姿に変えてしまいます。
弟はロバに普通の二倍もある石をせおわせ、びしびしぼうでたたくなど酷使します。
かわいそうに思った人が、王さまに告げ口をしたので、弟は王さまから呼び出されますが・・・。
こうした展開だと弟と王女の結婚で万事めでたしとなりそうですが、ロバになった王女を酷使するなど、女性には受け入れにくいかもしれません。
カニですから漁師がでてきてもおかしくはないのですが、石工がでてきて、あれれと思うのですが、この石工もいつのまにかフェードアウトしてしまいます。
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ロージーのモンスターたいじ/作・絵:フィリップ・ヴェヒター 訳・酒寄進一/ひさかたチャイルド/2011年初版
このところ、ウサギのロージーの悩みは、毎晩恐ろしいモンスターの夢で目を覚ますこと。
目を覚ますと、からだはぶるぶるふるえ、汗でびっしょり。
ドクター・マウに相談すると「モンスター恐怖症」といわれ、「モンスターなんでもずかん」をよんで、まずは相手の研究。
じゅもんをかけ、せおいなげでたおし、それでもだめなら、すぐさまにげるなど、シュミレーションを繰り返し、いざ、遊園地のモンスターのところへ。
ロージーのとっておきのわざは「チュツ」
恐怖症を克服し、最後はモンスターと仲良くなるロージーですが・・・。
フロイトの精神分析では、夢が重要な要素です。
ロージーが怖い夢をみた原因は、なんだったのでしょう。
日本の民話9 太平の天下/瀬川拓男・松谷みよ子・編著/角川書店/1973年初版
アラビアンナイトの「背中にこぶのある男」は、人を殺したと思い込んだ仕立て屋が、死んだと思った男を医者の家に、医者は料理人へ、料理人は商人とたらいまわししていく。
人を殺した罪で商人が死刑になりそうになるが、かかわった者が正直に自分が殺したと次々に名乗り出て、実は死んでいなかったという落ち。
知恵の権六も、死体をたらいまわすところは、同じですが、この話は死体のままです。
ある村に同じ名の権六が6人。
頭のいいのが知恵の権六
田を作っている百姓権六
米屋をしている米屋権六
手癖のわるい、どろぼう権六
ならずもののばくち権六
一番年上の庄屋権六
知恵の権六が、かかあがどこかの男が一つ布団に寝ているのをみて、かっとして割り木で思い切り男をどやすと、当たり所が悪かったか、男は目を回して死んでしまう。よくみると男は庄屋の権六じじい。
こまった知恵の権六は、かかあに背負わせて、田の水口へ庄屋権六を置きます。
百姓権六が、田の水どろぼうと思って、鍬で黒い影を突き出すと、黒い影は水の中にころがり、よくみると庄屋権六。
百姓権六が、知恵の権六に銭はいくらでもだすからと相談すると、死体を米屋の権六の米俵に入れるようにいわれます。
次にこの米俵を盗んだのがどころぼう権六。あけてみると庄屋の死体が入っているのをみて、どろぼう権六も知恵の権六に相談に行きます。
今度はばくちの権六のところへ。
そして最後は庄屋のところへ。
庄屋のばあさんをうまくだまして、熱病で亡くなったことにおさめます。
みんなから、金でたのまれた権六。一夜のうちにたいそうな金もうけをします。
子どもには遠慮したい話ですが、大人のためのおはなし会だったら語ってみても楽しいかなと思わせます。
「背中にこぶのある男」のような結末も考えられそうです。
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ねこざかなのたまご/作・絵:渡辺 有一/フレーベル館/2010年初版
なかよしのねことさかながジャングルのバナナのにおいにさそわれて川をのぼっていきます。
なかなかバナナはみつかりません。
そのかわりみつけたのは4つのたまご。
ねこがさかなの口にはいって、ねこざかな。そしてたまごをあたためはじめます。
歌をうたいながら、なんのたまごか想像する場面が楽しい。
やがてうまれてきたのは?・・・・。
絵本の途中に、飛び出す仕掛けがあって、ねこざかなの顔がうごきます。
うまれた赤ちゃんワニが、ワニャワニャとお母さんワニの顔にうつったり、ワニのお母さんがジャングルのなかをワニッシ ワニッシとはしります。
なんともかわいらしいねこ、ワニの赤ちゃん、迫力あるワニのお母さん、そしてことばあそびも楽しめる絵本です。
語り手の方のお名前と実声が収録されています。
高校の美術部のかたが絵をかいていて雰囲気がよくでています。
図書館と高校美術部のコラボがどのように実現したか興味をひかれました。
土地の言葉で収録されているのですが、共通語の表示もあったりと楽しい動画になっています。
よくをいえば、テキストがのっていると便利なのですが・・・。
ブックマークにのせておきました。
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ブンブン ガタガタ ドンドンドン/作:神沢 利子 絵:田畑 精一/のら書店/2009年初版
「ブンブン」「ガタガタ」「ドンドン」というのは何かなと思ったら、ベッドで寝ていたカナちゃんが、寝付けなくて、お母さんに、うったえる音でした。
一度ならず起きてくるカナちゃんでしたが、おかあさんは、編み物をしながらやさしく相手をします。
怒らないところが素敵なおかあさんです。
カナちゃんがねむったあと、おみやげをかってきたお父さんがいうことには
「みつばちみたいに わがや めざして ブンブンとんできたんだ」
「ガタガタ でんしゃにゆられても、はこを しっかりかかえてさ」
「ドンドン かけて かえったのになあ」
カナちゃんにお父さんの思いがつたわっていたんですね。
ところで、おみやげは?・・・。
オー・ヘンリーショートストリーセレクション マディソン街の千一夜/千葉茂樹・訳 和田誠・絵/理論社/2007年
ロバート・ウオームズリーが結婚したのは、アリシアという由緒正しい家柄の娘で、高潔にして、冷涼、純白で近寄りがたい女性。
ロバートはニューヨークで大成功し、すっかり上流階級の一員として都会に暮らしていましたが、ニューヨーク州北部の田舎町の出身。
ある日、アリシアはロバートの母からの手紙をみて、ぜひ一度農場にいってみたいといいだします。
ロバートは乗り気ではありませんでしたが、田舎にいったとたん、彼の血の中に眠るむかしの生活がよみがえります。
弟と取っ組み合いをしたり、妹をキリギリスでおどろかせたり、草の上でとんぼ返りをうってみせたり。
ロバートは自分の本当の姿をアリシアにみせてしまったことから、非難を浴びせられるのを待ちますが・・・。
オー・ヘンリーのアリシアのえがきかたがなんともいえません。
夏の熱波の中でも北極の幽霊のごとく涼しげで、ノルウエーの雪女のように白く、うすいモスリンの服を身にまとっています。
田舎にいっても、うすいグレーの極上の夜会服姿。
ロバートが信じがたい荒々しいさわぎをしているときも、彼女は身じろぎもせずにいます。その姿はだれにも心の内をさとられることなどない、黄昏の細身の白い妖精のよう。
彼女が貴婦人のように描かれれば描かれるほど、最後のセリフがいきています。
ビルマのむかしばなし/中村祐子ほか訳/新読書社/1999年初版
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」のことわざどおりの昔話です。
頭のいいことを自慢していたウサギ。
道に寝そべって死んだふりをして、おばあさんがウサギを籠に入れると、籠に入っていたバナナをみんな食べてしまいます。
さらに泉に虎がいるぞと叫び、村人が泉にはしっていたすきに、バナナを食べてしまいます。
一人のおじいさんが籠を背負ってくるのをみたウサギは、おばあさんに使った手をつかいます。
ところが、おじいさんは死んだふりをしたウサギを、こん棒ではげしくたたき、焼き肉にして食べてしまいます。
うぬぼれは、ときとして命取りになることもあります。
うまくいっているときこそ、それに安住しないことが必要でしょう。
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じぶんだけの いろ/作・絵:レオ・レオニ 訳:谷川 俊太郎/好学社/2000年第15刷
周囲に同化するカメレオン。
「もし ずうっと はらっぱのうえで くらしたら いつまでも みどりいろ、ぼくも じぶんの いろをもてるって わけだ」
自分の色を持っていないカメレオンが、はっぱのうえによじのぼって考えたのは、よかったのですが・・。
秋になってはっぱがきいろにかわるとカメレオンも。はっぱがあかくなるとカメレオンもあかく。
カメレオンは、自分の色をもてないと悩んでいましたが、あるひ、年上のかしこいカメレオンに会っていっしょにくらしはじめます・・・。
やさしい感じの絵がとても素敵だと思いました。
色がかわるのが個性的だと思うのですが、ほかと比較すると悩みの種だったのが、仲間と一緒にくらすことで、すこし自信をとり戻します。
ビルマのむかしばなし/中村祐子ほか訳/新読書社/1999年初版
ある村の二人の男。
シャンソーは働くのがきらいで思いがけない幸運をあてにしています。
ブゾニューは毎日一生懸命働き、運などは信じてはいませんでした。
ブゾニューは竹を伐って高い値で売ったのでだんだん金持ちになります。
シャンソーの両親はブゾニューに見習えと、一緒に仕事にいくようにいいます。
やがて、シャンソンは不思議な水をみつけます。
透明な水を飲むと猿になり、濁った水を飲むと猿から人間にもどるという水でした。
シャンソンは、この水をつかって、王女を猿にかえることに成功します。
このあとの展開は想像の通りで、王女をもとの姿にかえ、王女と結婚することに。
怠け者と働き者が出てくると、働き者に分があるのですが、この話では逆で、怠け者が思いがけない幸運を手に入れます。
働き者は、さらに災難に見舞われ、お金は泥棒に盗まれ、家畜は死んでしまいます。
幸運にめぐまれたことはまったくないので、せめて夢のなかであっても幸せになりたいものです。
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みんなで!いえをたてる/作:竹下 文子 絵:鈴木 まもる/偕成社/2011年初版
なかなか手が届かないと思いつつも、建売住宅の見学をするのも楽しい時間です。
こんな家に住みたいと思っても、なかなか手が届きません。
空き地に、一軒の家が建つまでの様子が丁寧に描かれています。
基礎工事から、大工や左官屋、電気工事の人、植木屋さんなどさまざまな職種、シャベルカーやダンプカー、クレーン車、高所作業車などの乗り物がでてきます。
大人にとっては珍しくないのですが、子どもは大勢の人の協力で家が出来上がるというのが実感できるかもしれません。
引っ越しがおわり、はじめての夜のあかりのもとで、たのしそうな声がきこえるのですが、大人には別の苦労もあります。
日本の民話10 残酷の悲劇/瀬川拓男・松谷みよ子・編著/角川書店/1973年初版
ありそうで少ないのが悲劇の話。
子どもを対象とすると、すくいのない話はしにくいのかも。
しかし、さがせば悲劇的な話もあるようです。
「機の音」は、村一番の器量よしの”おのう”という娘と結婚した男の話。
しかしこの男、婚礼の前に草刈にいったとき、いつのまにか眠気におそわれます。目を無理に開いてみるとそこには大蛇。
婚礼をひかえていた男は、こんなところで殺されてたまるかと、なんとか大蛇を退治します。
しかしそれから奇妙なことがおこります。結婚し、眠っていた”おのう”の顔が大蛇の顔になっていたのです。
男は”おのう”に家をでるようにいいます。
なぜかわからず家をでた”おのう”はどこまでもどこまでもさまよいます。
山の中腹の池で、水を飲もうとすると、池の面に映っていたのは大蛇の姿。
”おのう”は、はじめて家をだされたわけを知り、池に身をなげてしまう。
山というのは駒が岳。長野の伝説とあります。