長崎のむかし話/長崎県小学校教育研究会国語部会編/日本標準/1978年
腹をすかし、おまけに雨にあった旅人が歩いているうちに、道の地蔵さんの手元にみつけたのがにぎりめし。お地蔵さんに感謝して、口いっぱいほおばって食べると、お地蔵さんのかぶっていた傘をかぶり、そこで雨宿り。腹が太っていつのまにかうとうとしていた。
「おるがけち(しり)ほれ、おるがけちほれ」という声で、ひょいと目が覚めると、もう雨は小降りになっていた。また同じ声がしたので、あたりをみまわすと、どうも地蔵さんの下から聞こえてくる。そこで地蔵さんをひっくり返してほってみたら、うちでのこづちがでてきた。旅人は、それをなでまわしたり、たたいてみたりしていた。おもしろくなって、「出れつん」といって鼻をたたいてみると、そのひょうしに鼻が、「ビュー、ビュー」とながくなってとびでた。旅人は、あらこんなに長くなって困ったなと途方にくれていた。これをひっこめるにはどうしたものかと考えていて、ひょいと思いついたように「入れちん」といってみると、そのひょうしに、「ヒュルヒュル、ヒュルーッ」と音を立てて引っ込んだ。旅人が慌てて鼻の先をなでてみると、またもとの鼻。
うちでのこづちで、よか着物と銭をだし。宿屋にとまった旅人が、鼻がどこまでのびるかあそんでいると、鼻はのびるわにびるわ。もう日が暮れかかったので、あわてだした旅人は、「入れちん、入れちん」といって、取り込みはじめた。はじめは調子よく引っ込んでいたが、三会町と松尾町の境のところで、火事があった。あわてて、「入れちん、出れちん、入れちん、出れちん」と言っているうちに、鼻の先が赤く焦がれてしまった。それで三会町と松尾町の境を「鼻の埼」と名づけたという。
うちでのこづちで、鼻をのばすというと、長者の娘の鼻をのばして、婿におさまるとか、天までのぼるというのがほとんど。伝説にからめたものは少ない。