どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

天よ 水をおくれ・・インド

2020年11月30日 | 昔話(アジア)

       語りつぐ人々 インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年

 

 母親と息子、娘、息子の嫁の四人暮らし。息子は遠く出稼ぎに行って留守でした。母親は体が弱っていて、働き手は嫁と娘で、仕事はいつも張り合っていました。

 ある日、嫁と娘は籾摺りにでかけましたが、なかなか仕事は進みません。灼けつく陽ざしの中で、牛は汗にまみれあえいでいました。娘は牛にあたりちらしましたが、嫁はだまってみるだけでした。百姓の家では、嫁は牛と同じでした。

 母親は牛を休ませるようにいい、牛に水を飲ませて早く帰った方に、おいしいキール(乳粥)を用意するといいました。

 二人は村のはずれの水飲み場にでかけますが、娘の牛はなかなか走りません。嫁の牛がさきに水を飲むと、自分はキールを食べられません。娘は嫁がキールを食べてしまうのに我慢ができず、牛に水をやらないまま小屋につないでしまいました。

 嫁は娘がキールを食べているのをみても、だまっていました。けれども娘の牛は、のどがかわいて死にかかっていました。牛の体は震え目には涙。そして娘に向かって「おまえは死んだら鳥になれ。そして一生、水で苦しむがいい!」というと、娘は死んで鳥になり、いつもあの牛のようにのどをからしています。

 

 百姓の家では、嫁は牛と同じというのは過去のものと思うと、世界を見るとそうでもないのかもしれません。

 鳥の目には、大地の水は、牛の血に見えるというのもインドらしい話でしょうか。


トロルとりこう者のヘッリ・・フィンランド

2020年11月29日 | 昔話(北欧)

       世界むかし話12 フィンランド・ノルウエー/坂井玲子・山内清子:編訳/ほるぷ出版/1990年

 

 トロルを追い払おうと、三人の兄弟がトロルの家をめざしてでかけます。

 トロルは宿を提供してくれますが、その夜、ヘッリたちには赤いずきん、三人のむすめたちには白いずきんで、ねむることになりました。

 三人の兄弟はころされそうになりますが、ヘッリがずきんをとりかえてしまい、トロルは自分のむすめとも知らず殺してしまいます。

 それからヘッリは、トロルの家で見た金色と銀色の毛の馬をいただきにでかけます。それだけではありません。お金、金糸で織った羽根布団、金のベルと、四度もトロルの家に出かけます。

 いずれもヘッリは巧みにトロルのおかみさんをうまくだますのですが、四度ともなると、さすがにやりすぎ。

 金のベルをとろうとすると、トロルにつかまって食べられそうになりますが、おかみさんからオーブンの中にはいるようにいわれ、「どんなふうにして、そこの中へはいるかわからないよ。おかみさんが先に入ってみせておくれよ」といい、おかみさんがオーブンの前で、かがみこむと、ヘッリは力いっぱいにおくへおしこみ、オーブンの口をしめてしまいます。

 ヘッリは、おかみさんのまるやきがすっかりできあがると、オーブンからとりだし、テーブルの上におき、おかみさんの服を人のかたちに見えるようにしてベッドの上におくと家にかえりました。おかげで、おかみさんはトロルのお客さんに食べられてしまいます。

 お客たちがおいしいまるやきをたべはじめると、中からは、おかみさんの首かざりがでてきて、みんなはびっくりぎょうてん。

 それでもトロルは「ぜんぶたいらげてくだせえ。せっかくたべはじめたものは、のこすことはありませんや!」。(笑っていいものか?)

 ヘッリをおいかけたトロルが、ヘッリの大声で太陽のほうをちらっと見てしまうと、パーンとはじけてしまいます。

 トロルが太陽を見てはいけないというのは、はじめて。

 トロルもそのおかみさんも気の毒になってしまいました。


ぼくはイスです

2020年11月28日 | 絵本(日本)

      ぼくはイスです/長 新太/亜紀書房/2016年

 

「みんな ぼくのうえに こしかけるけど ぼくもなにかに こしかけてみたいな」

イスが腰かける?

とんがった 石に こしかけると おしりがいたい。

川にすわってみると流される

山にこしかけてみようと 山の頂上へ。

山は火山でした。溶岩が流れ落ちて 逃げろ逃げろ

溶岩が人間の格好になって おいかけてきました。

イスはどんどん逃げて、穴の中。

でもすぐにみつかって 海のなかへ。

どろどろにんげんが 海に はいると?

 

いつもこしかけられるイスの大冒険。

こしかけるのも大変。ご主人?の頭の上でお休みなさいというのは 眠れたでしょうか。


わたしのおかあさんは世界一びじん

2020年11月27日 | 創作(外国)

   わたしのおかあさんは世界一びじん/ベッキー・ライアー・文/ルース・ガネット・絵 光吉郁子・訳/大日本図書/2010年

 

 六歳のワーリャは麦の刈り入れのお手伝いをすることもありました。ワーリャは、お母さんのマーフィーのそばを離れることはほとんどありません。それでも、あつい日などには、ついていくのを わすれることがありました。

 夏のさいごの取入れの日、ワーリャは、いつのまにか小麦畑の中で、すやすやねむってしまいました。やがて目を覚まし、おきてみると おかあさんは どこにもいません。大声で呼んでも返事はありません。あっちこっち 走り回っても やはりお母さんはいませんでした。

 それでも どんどんかけていくと たちばなししている 人たちがいました。

 そのままじっとして、女の人から声をかけられ、お父さん、お母さんの名前を聞かれますが、ワーリャは悲しくて、声も出ませんでした。しまいにやっと「わたしのおかあさんは、世界一びじん!」と言います。

 それを聞いた村長さんらしい人は、村中の 美人の お母さんを呼んでくることにしました。村中の美人のお母さんがやってきますが、ワーリャのお母さんはいません。また悲しくなって、しくしくやりはじめると、そこへ一人の 女の人が いきせききってやってきました。顔は大きくて まんまるで、ずんぐりした 鼻の上に、ほそい 目が ちょこんと ついていました。ふたりは、おたがいの うでの なかに とびこみました。

 「これが、あたしの おかあさんよ。だから、いったでしょ。わたしの お母さんは、世界一美人だって!」というワーリャに、村長さんは、ウクライナの有名な ことわざを くりかえしました。

 「きれいだから、すきなのじゃない。すきだからこそ、きれいにみえるのだ!」

 お母さんのマーファも いいました。「世の中には、目でしかみない 人も いるのよ。ワーリャが 目だけで なく、心でもみて くれるには とても、うれしいわ」

 「私のお母さんは世界一美人」だといってもらえるお母さんは素敵です。

 ともすれば外見で判断しがちですが、そうじゃないというのを教えてもらいました。


ひなげしのおうじ

2020年11月26日 | 絵本(外国)

      ひなげしの おうじ/エリザベス・イワノフスキー・作 ふしみみさお・訳/岩波書店/2018年

 

 ひなげしの王子がこむぎの馬にのって、森へ散歩です。森を抜け、小川をひらりと ひとっとび。

 迷子のひばりの子を巣にもどして。

 クモおばさんの巣に とつげきして クモおばさんに おいかけられ、ひばりの おかあさんの 背中に乗って、脱出。

 パラシュートから、落ちそうになってマルハナバチにたすけられます。

 アリやネズミさんに きいて こむぎの馬が みつかると、家にかえることができました。

 

 でてくるのは昆虫、鳥、植物。ひなげしの王子は、昆虫と等身大。

 びっくりするのは、ひなげしの王子が じつは、パパだったというオチ。

 戦時中にベルギーで出版されたといいます。作者は旧ロシア出身で1932年にベルギーに移住、紙を手に入れるのも困難で、絵本のサイズも小さくしたとありました。岩波書店がそれを踏襲しています。70年以上も前の出版ですが、古さは感じません。

 

ぶたばんのおうじ

2020年11月25日 | 絵本(外国)

      ぶたばんのおうじ/アンデルセン・作 ビョーン・ウインブラード・絵 やまのうち きよこ・訳/ほるぷ出版/1978年

 

 貧しい王子が、皇帝のお姫さまに二つの素敵な贈り物をそえて結婚を申し込みました。

 一つは五年に一度たった一輪だけ咲くかおりのいいバラ。もう一つは美しい声で鳴くナイチンゲール。しかし、お姫さまは、作りものでないほんもののバラとほんもののナイチンゲールがどうしても気にいりません。

 あきらめきれない王子は顔にどろやすみをぬり、帽子をかぶってお城に行き、ぶたばんになります。ぶたばんの王子は豚小屋のとなりのおんぼろ部屋で暮らしはじめ、一日かけて、しゃれた鍋をつくりました。

 その鍋は、中身が煮えるとまわりの鈴がなって歌をかなで、おまけにこの鍋のゆげにゆびをかざすと、町中の家のごちそうのにおいをかぎわけるというもの。散歩をしていたお姫さまは鍋のすずが歌うのを聞いて、それをほしがりますが、ぶたばんの王子は、お姫さまのキス10回と引き換えでゆずるといます。おひめさまは女官たちに隠させて、キス10回と引き換えにその鍋を手に入れます。

 次にぶたばんの王子がつくったのは、振ると踊りの曲が聞こえるガラガラ。お姫さまはそれも欲しくなりますが、王子は、お姫さまのキス100回と引き換えだと言う。お姫さまはなんとか10回のキスと女官たちのキスとでゆずりうけようとしますが、王子はどうして受け入れません。

 しぶしぶ前のように女官たちに隠させてキスをしはじめ、そして86回目のキスの時、皇帝がそれを見咎めてふたりを国から追い出します。お姫さまは、素敵な王子をむかいいれておけばこんなことになかったと反省します。そこに、ぶたばんの王子が、どろやすみをおとし、ぼろをぬいで、王子のすがたになってあらわれて言いいます。

 「あなたは礼儀を尽くした王子にあおうともしなかった。バラやナイチンゲールのねうちもわからなかった。音の出る機械を手に入れるためなら、誰とでもキスする人なのだ。思い知るがよい」。

 そして王子は自分の国に入り、戸を閉めてかんぬきをおろしてしました。

 一人残されたお姫さまは 歌いだします。

 「いとしの アウグスチン なにもかにも どこかへ いっちゃった きえちゃった」

 ハッピーエンドではなく、お姫さまをつきはなして物語が終わりますが、このお姫さま、その後どうしたのか気になるところ。

 本当の値打ちはどのようなものか まわりの人は何も教えず、皇帝もまた父親の役割を果たしもせず、追い出してしまいます。

 王子も5年に一度しか咲かないバラやナイチンゲールの素晴らしい歌の本当の価値をお姫さまがわからなかった時点であきらめればよかったのに、お姫さまをまどわすようなものを作りだし、最後にさよならというのも酷なところ。 

 女官や皇帝がとてもコミカルに描かれているのは、喜劇としたかったのでしょうか。


ノガモのうた

2020年11月24日 | 絵本(昔話・外国)

       ノガモのうた/木島 始・文 スズキ コージ・絵/ほるぷ社/1992年

 

 アメリカのお話ですが、不思議といえば不思議、奇妙といえば奇妙。

 撃たれて落ちるときも、羽をむしられても、料理にされても「ぎゃあっくっ ぎゃあっくっ ぎゃあっ! るっ ぐるっるっ ぎょぇーっ ぎゃあっ!」と楽しそうに歌うノガモ。

 男がナイフとフォークを ノガモにつきさそうとすると、ノガモの集団が、一枚一枚の羽を、料理されたノガモに さしこんでもちあげ、窓から外へ 飛び出していってしまいます。

 ノガモだって、料理されるのはごめん。それいらい男がノガモにあえなくなっても同情することはありません。

 何度も繰り返されるノガモのうたは、作者がコクガンやマガン、ヒシクイの鳴き声を、繰り返し聞いて表現していて、自分で発声しやすい、発声したいノガモの鳴き声を自分でつくってくださいと、あとがきにありました。

 おくさんがノガモの羽をむしると、羽が窓からとびだし、空いっぱいにとんでいくさまは、圧巻。鉄砲うちの男、料理している奥さん、ログハウスの家、広い大地の風景なども見どころです。

 背景には黒人民謡や黒人の昔話があって、どんな逆境にあっても生き延びようとする逞しさを表したかったかのかもしれません。


ほうさんちゅう

2020年11月23日 | 絵本(自然)

      ほうさんちゅう/ちいさな ふしぎな 生きものの かたち/監修・松岡 篤 文・かんちく たかこ/アリス館/2019年

 

 ほうさんちゅう? 漢字だと放散虫ですが虫ではありません。人の目には見えないほどの小さな生き物。

 驚きの連続です。

 五億年もの長い間進化し続け、新しい種類がどんどん誕生し、種類がいれかわっているといいますが、細胞は、たったの一つ。人間は37兆個の細胞。

 骨格はガラス質で、大きさは0.1~1mm。

 仮足をもっている放散虫もあって、この足で植物プランクトンをとりこんで栄養にします。

 つのをもったもの、とげとげがあるもの、七階建ての建物、巻貝、蜂の巣、めがね、花のようなものなど、全ページそれも一ページにいくつもの多様な形が、骨を拡大した写真で紹介されています。

 文章の表現も適切。苦労がしのばれます。


らくごえほん ごんべいだぬき

2020年11月22日 | 絵本(日本)

      らくごえほん ごんべいだぬき/川端 誠/KADOKAWA/2020年

 

 タヌキが出てくると、威勢のいい若者が退治?にでかけ、逆にタヌキに化かされ、坊主にされてしまうというのが多い。

 この絵本では逆で、ごんべいさんがカミソリでタヌキの頭をきれいに剃ってしまい、さらに、もうひとつオチが まっています。

 タヌキがごんべいさんのところへやってきたのは、たえまない笑い声が聞こえてきたからでしょうか。その日は近所の若者があつまって、ごんべいさんの家で酒盛り。

 集まりがお開きになって、ごんべいさんが寝ようとすると、ドン、ドンと戸を叩く音。「ははあ、たぬきだな」と気がついたごんべいさん、しっぽをつかんで、ぐるぐる巻き。

 次の日、昨日のお礼に、若者たちが 畑仕事のでがけに、ごんべいさんの家によるとそこにはタヌキ。

「こりゃいい。今晩はたぬき汁だあ」「子だぬきは、肉がやわらかいぞ」「毛皮はオラがもらう」と、大盛りあがり。

 しかし、ごんべいさん、そうもいくまいとカミソリをもちだし・・・。

 

 タヌキがやってきたときの、ごんべいさんとのやりとりや、頭を剃るときのショリショリという音が絶妙です。

 それにしてもなんともやさしい ごんべいさん。裏表紙のタヌキも必見です。


万次郎さんとすいか

2020年11月21日 | 絵本(日本)
      万次郎さんとすいか/文・本田/いづみ/絵・北村 人/福音館書店/2015年初出2020年
 
 
 万次郎さんの育てたすいかは おおきくて まんまる
 みんなにご馳走しようともちあげようとしても いくらがんばっても すいかは びくともしません。
 そのとき、すいかが ぽーんと はねあがり、はたけを ごろごろ ころがりはじめました。
 すいかは はたけを とおりぬけ のみちを ころがって 川に 飛び込みました。
 おいかけてきた万次郎さんも すいかを つかまえようと 川に飛び込みましたが、万次郎さんは泳げません。そこへ、すいかが スイーとよってきたので、万次郎さんは、おもわず しがみつきました。
 すいかは 大きな声でうたいはじめ、いっしょに どんぶら どんぶら 流れていくと、お百姓さんがとおりかかりました。
 お百姓さんが万次郎さんをたすけようとすると、お百姓さんも どぼんと 川に落ちてしまいました。
 お百姓さんが、万次郎さんにつかまって、万次郎さんがすいかにつかまって、どんぶらながれていくと さかなつりをしていた おじさんも どぼんと、川におちてしまい、どんぶらながれていくと、川で遊んでいた子どもたちも おもしろそうと 川に飛びこみました。
みんなで、どんぶらながれていくと すいかは、ますます 上機嫌で 歌います。
 「青い空 白い雲 おてんとうさまは カッカと てらす すいか すいか あーまい すいか よーく ひえたら たべごろよ」
 すいかは、川の浅瀬で とまると もうそれっきり だまってしまいました。
 
 「さあさ、みんな、わしの すいかを たべておくれ」。万次郎さんが声をかけると、みんなは 河原に座って 万次郎さんの すいかを 食べました。
 
 
 みんながすいかのあとに つらなるようすは「おおきなかぶ」、すいかが 川を泳いでいくのは、「ホットケーキ」「パンはころころ」など、昔話に親しんでいる子どもたちには、おなじみのパターンです。
 
 川を流れて すっかり冷えた すいかは おいしそう。すいかは 食べる人のことまで考えていたんですね!。
 
 夏に読みたい絵本です。

イラザーデひめのベール

2020年11月20日 | ファージョン

      年とったばあやのお話かご/ファージョン作品集/エリナ・ファージョン・作 石井桃子・訳/岩波書店/1970年

 

 それはそれは美しかったイラザーデひめ。世界中の女王を全部一つにしたより、もっと美しかったのです。

 世界中のひとが、美しいといううわさをし、鳥はそのことを歌い、空の風はそのことをささやき、海の波は、そのことをつぶやきながら、津々浦々の岸に打ち寄せていたのです。

 ある日、さまざまな国の王や王子が、ひめを花嫁にほしいとやってきましたが、ひめの目が、ある一人の王の上にとまるやいなや、となりの王が、その人を殺しました。ひめがそのひとをすきになるようなことがあってはならないからです。やってきた全員が死んでしまいました。

 こころを悩ました王さまは、ひめの顔をベールでかくしておき、ひめの夫になるひとさえも、それは見ていけないことにきめました。

 こうして、王さまたちが、ひめを花嫁にほしいといってやってきても、だれも、ひめの顔をみることができませんでした。

 やってきた王たちは、ほんとうにひめであるか、わからないと思いはじめました。

 「うつくしいかどうかは、どうしたら、わかるか?」「魔女のようにみにくいかもしれんぞ」

 王さまたちは、次々に去っていきました。ペルシャ王の申し出が世間に知れわたると、だれもひめを妻にほしいといってくるひとはいなくなりました。

 ペルシャの王も女王もなくなり、新しい支配者ができても、イラザーデひめは、ごてんのひめの部屋に住んでいました。あまり美しかったので、ひめは死ぬことができなかったのです。

 ペルシャが滅ぼされたとき、征服者は、すべてのペルシャ人を国の外に追い出しました。この時、イラザーデ姫もでていきました。どこへいったのかは誰も知りません。

 

 美しさの形容詞はさまざま。しかしときには形容されない方が、想像をふくらませてくれるかもしれません。


よりみちせんべい

2020年11月19日 | 絵本(日本)

      よりみちせんべい/山崎克己/農村漁村文化協会/2008年

 

 おせんべい屋さんが、屋根に干していた おせんべいに ボールをぶつけて バラバラにしてしまい おおいそぎで 路地裏にある ばあちゃんちに 逃げ込んだぼく。

 おばあちゃんから かきもち しんこもちを ごちそうになり おせんべい屋さんに あやまりに いきました。忘れてきたボールをとってこなくちゃ。

 ところが、ほしてある おせんべいと おじさんをみたら あやまるのが こわくなって・・。

 ボールを とりもどそうと そーっと そーっと ちかづくと おきゃくさんならぬ かあさんに つかまって おせんべいを つくるはめに。

 カタ抜きしたり、屋根に干したり、醤油をぬったり。せんべい屋のおじさんは やさしく声をかけてくれました。「じぶんでつくったのを もっていきな それからボールも」

 ゆうごはんは だいすきな カレー。でもかあさんだけは おせんべいちゃづけ。ぼくがつくったせんべいは 最高というのですが・・・。

 

 干し餅はわかりますが、かきもち、しんこもちは?

 お茶漬けに おせんべいも どんな味?

 子どもたちが、家庭だけではなく、地域で見守られながら育つためには、地域のコミュニティが大事で、個人商店の役割も大きいと思いますが、そんな土壌もほとんどみられなくなりました。


皇帝の玉座でうたをうたったオンドリ

2020年11月18日 | 昔話(ヨーロッパ)

              世界むかし話 東欧/松岡享子・訳/ほるぷ出版/1989年

 

 タイトルは物語の入り口。「皇帝の玉座でうたをうたったオンドリ」は、読んでみようかと思わせてくれるタイトルですが、オンドリがうたうことはありません。

 わけあって「皇帝の玉座」にいくというオンドリが、キツネ、オオカミ、水のつまった皮ぶくろ、ハチとともに、皇帝のところにでかけます。

 「このオンドリめが玉座にのぼり、うたをひとふしきかせもうそう!」といわれた皇帝は、オンドリを気の荒いオンドリとけんかっぱい七面鳥のむれ、アラブ馬、火、自分のおしりで押しつぶそうとしますが、いずれも失敗。

 オンドリは羽根という羽根に金貨をつるして、おじいさんのところへ金貨を持ち帰ります。

 

 なぜ? そんなことができるの?といった疑問をもつと、昔話は理解しにくくなります。

 オンドリが皇帝のところにでかけるのは、じいさんから卵を持ってこないと殺すといわれたこと。それも、メンドリが生んだ卵を、おばあさんが じいさんに くれなかったことでした。

 「くたびれるよ」といわれても「いいや、くたびれんさ」と、同行したキツネも、オオカミも 皮ぶくろも すぐに くたびれて オンドリのつばさの下にはいって 歩いていきます。キツネやオオカミが つばさの下にはいるというのは、どんなイメージでしょうか。

 皇帝がおしりで、オンドリを押しつぶそうとしたのは、類似の昔話にはみられません。

 じいさまに 卵をあげることを断ったばあさまの末路は、メンドリが 小屋のひさしから落とした重い包丁で、あっというまに死んでしまうというものでした。


梨の子ペリーナ

2020年11月17日 | 絵本(昔話・外国)

      梨の子ペリーナ/イタロ・カルヴィーノ・再話 酒井駒子・絵 関口英子・訳/BL出版/2020年

 

 典型的な流れのイタリアの昔話。

 ある年、王さまに納める梨が足りなくなり、父にカゴに入れられ、王さまの倉に運ばれた女の子ペリーナ。ペリーナは台所で働くことになり、ほかの召使たちより、てきぱきと仕事をこなせるようになりました。賢く、やさしいペリーナは、だれからも好かれ、同じ年ごろの王子さまとも、それはそれは仲よしになりました。

 ところが、ほかの召使がやきもちをやき「ペリーナって、魔女の宝物をとってこられるんですって」という、ありもしない噂を流します。

 王さまは「身に覚えがない」というペリーナに、「宝物を持ってかえるまで、なかに入れない」と命令します

 しかたなく歩きはじめたペリーナは、梨の木の上で一晩過ごしました。朝になると、梨の木の下に、ひとりのおばあさんがたっていました。ペリーナに話を聞いたおばあさんは、肉のあぶら3ポンド、パン3ポンド、モロコシの穂3ポンド、そしてふしぎなおまじないをおしえてくれました。

 まっすぐ歩いていったペリーナは、三人の女が、髪の毛をむしっては、かまどをはいているのをみて、モロコシの穂でそうじするよう、女たちにあげました。

 ペリーナが次にであったのは、とうろうとする人に襲いかかる三頭の番犬。もっていたパンを3ポンドなげてやると、犬たちはとおしてくれました。

 さらに歩いていくと、血のように赤い水が流れている川がゆくてをさえぎっていました。ペリーナが、おばあさんがおしえてくれた まじないを となえると 川の水は すーっとひいて 道があらわれ 川をわたることができました。

 やがて、この世のものとはおもえないほど美しくて立派なお城につきますが、門の扉がすぐに閉じてしまうので、なかに入ることはできませんでした。そこであぶらを3ポンドぬって、ちょうちがいのすべりをよくすると、門はゆっくりとひらき、なかにはいこむことができました。

 ペリーナが城のなかに入り、小さなテーブルの上の宝箱をみつけ、うでにかかえて もってかえろうとすると、宝箱がしゃべりだしました。

 「扉よ、この子をはさんでおしまい。扉よ、この子をはさんでおしまい。!」。しかし扉は「いやだね、だれがはさんだりするもんか。ながいこと、だれもおいらにぬってくれなかったあぶらを、この子はぬってくれたんだ」

 川までやってくると、宝箱は、おぼれさせるよういいますが、川もペリーナを通してくれ、番犬も、かまどの女たちも ペリーナをとおしてくれました。

 宝箱をもってお城にかえると、王さまから望みのものをあたえようといわれ、おばあさんから助言されたとおり、地下室の大きな炭箱をくださいなと こたえたペリーナ。

 炭箱をあけると、なかには王子さま。王さまは、二人が結婚の約束をすることを 機嫌よくみとめてくれました。

 

 ペリーナは梨の子という意味ですが、イタリア語では果物はみんな女性名詞といいます。

 魔女が出てくるのかと思ったら、しゃべる宝箱でした。宝箱の中身は、宝石ではなくメンドリと金のヒヨコ。梨が税というのもはじめてでした。


もみの木のねがい

2020年11月16日 | 絵本(外国)

      もみの木のねがい/エステル・ブライヤー ジャニイ・ニコル・再話 こみね ゆら・絵 おびか ゆうこ・訳/福音館書店/2016年

 

 クリスマス時期には、もみの木のお話がかかせません。

 「ぼくの はっぱは、どうして こんなに ちくちくとがって、はりみたいなんだろう」と、もみの木が泣いていると、妖精があらわれて、やわらかくて、すてきな 葉っぱに かえてくれました。そこへヤギがやってきて、葉っぱを むしゃむしゃ。いちまいのこらず たいらげてしまいました。

 まるはだかの もみの木がないていると あの妖精がまたあらわれ、銀の葉っぱにかえてくれました。でも、子どもたちが、大喜びで、銀の葉っぱを ぜんぶ つみとってしまいました。

 金でできた葉っぱに かえてもらうと まずしいみなりの男が、金の葉っぱを のこらず袋につめて、森をあとにしました。

 最後のねがいで、もとの姿にもどったもみの木は、荷車にのせられて、男の人の家で おけに うえかえられ、大きな部屋のなかに、運び込まれました。

 そこで・・・。

 淡い感じの色合いで、イメージをかえてくれる妖精、もみの木にかざられた幻想的なロウソクが印象的です。

 

 少し大きい子には、アンデルセンの「モミの木」も おすすめです。