「命の水」というタイトルで、おなじようなパターンの昔
・若返りのリンゴと命の水の話(世界のむかし話 ロシア/田中泰子・訳/ほるぷ出版/1988年)
ひどく年をとって、目もよく見えなくなった王さまが、遠い遠い国にある若返りのリンゴと、水で目を洗うとみえるようになるという命の水のうわさをきいて、なんとか手に入れようとします。
王さまは、王国の半分をゆずるという条件をだしますが誰もなのりをあげる人はいませんでした。そこで三人の王子の一番上のフョードル王子が馬にのって出かけ、十字路にでますが、そこにおいてあった石版には「右に行けば自分が助かるが、馬は死ぬ。左へ行けば馬は助かるが、自分が死ぬ。まっすぐいけば結婚する」とかいてありました。
真ん中を進んでいった王子の前に、うつくしいむすめが。「楽しいことをしたほうがいいわ」という娘について城にいきますが、王子が眠ったとたん、地下の深い穴の中に落とされてしまいます。
二番目のワシーリイ王子もおなじ運命に。
二人の王子は地下の穴に落とされても、死ぬことはありません。娘の正体も、最後まで不明です。
三番目のイワン王子は、左の道、つまり「馬は助かるが、自分が死ぬ」の道を。するとニワトリの足の上にのっている小さな小屋に。
ニワトリの足といえばバーバ・ヤガーの家。このバーバ・ヤガーは三人姉妹の末。真ん中の姉、一番上のバーバ・ヤガーのところにいきますが、恐ろしく主人公を脅かすのがバーバ・ヤガーですが、ロシアのいつものバーバ・ヤガーとはちがっています。イワン王子は、どこでも親切にされ、リンゴと命の水を手に入れる方法まで教えてくれます。
リンゴと命の水は、青い目の女勇士シニョグラースカのところにあり、バーバー・ヤガーの姪でした。
城にでかけ、命の水と若返りのリンゴを手に入れたイワン王子でしたが、見てはいけないといわれたシニョグラースカをみてしまい、おまけにキスまで。
やがて、シニョグラースカと戦うことになったイワン王子が逃げ込んだ先は、バーバ・ヤガーのところ。三人のバーバ・ヤガーのところからも逃げ出し、今度は戦うことに。
シニョグラースカはイワン王子を倒し、刀で王子の白い胸をえぐろうとしますが、「殺さないでくれ、それより、ぼくの白い手をとってだきおこし、あまいくつびるにキスしておくれ」といわれて、すぐにイワン王子をだきおこし、あまいくちびるにキスし、三日三晩緑の草原で楽しく暮らし、結婚まで。
戦った相手と結婚するあたりが昔話らしいところ。
「本当は、長い間におこることも、お話のなかでは、あっというまにすぎてしまうのはしっていますね」というフレーズが何回かでてきます。
シニョグラースカがうんだ二人の息子は一時間ごとに大きくなります。
イワン王子は、二人の兄を助け出しますが、二人の兄から崖の下に投げ込まれてしまいます。
やがてイワン王子はひな鳥をたすけたことから、ナガイという鳥の背中にのって、王さまのところへむかうことに。
・命の水(チェコの民話集/カレル・ヤロミール・エルベン・編 阿部賢一・訳 出久根育・絵/西村書店/2017年)
出だしはロシア版とおなじで、目に痛みを感じ、よく見えなくなった王さまが、命の水で目を洗うと、すっかり回復するという夢を三日間続けてみて、三人の息子が命の水を探すにでかけます。
長男、次男は、旅の途中に出会った居酒屋の三人の娘と賭けをして、持参した金銀のみならず、自分の身も手放してしまいます。
三男は娘たちにひっからず、旅を続けますが、ある町で濠に半分腐っている遺体をみつけます。町の人にどうして埋葬しないのかきくと、借金を返済する前に、あの世にいったので、こういうやつがまたでてこないように、見せしめに濠に投げ込んだという。
三男の王子は、亡くなった人の借金を支払い、埋葬の手はずをととのえ旅を続けます。
すると森のなかで灰色の大きなオオカミがやってきて、助言したり手伝いもできるという。
オオカミの背に座ると、あっという間に水晶のような山につき、そこには銀でできた城が。
オオカミが「城には二つの泉と黄金の桶がある。左側は死の水、右側は命の水。ただ一時間をすこしでも過ぎようものなら、とんでもないことになるからな」というので、王子はすぐに命の水を桶ですくい、瓶に注ぎおえます。
寄り道するなといっても、寄り道するのが昔話のきまり。一つ目の部屋の番をしているのは頭が12もある恐ろしいドラゴン。二つ目の部屋には12人の美しい少女が銀色のベッドで眠っていました。三番目の部屋には一人の少女。王子は自分の銀のベルトをテーブルに置くと、代わりに少女のベルトを自分の体に巻きつけオオカミと舞い上がります。
オオカミは、王子が借金を肩代わりして埋葬してやった人物の霊でした。「旅の途中で、絞首台の肉には手を出さないこと。買ったら、ひどい目にあうよ」というと、一瞬にして姿を消してしまいます。
王子が先を急いでいると、二人の男が絞首台につれていかれるところでした。賭けで負け続き逃げようとした上の兄でした。支払いを肩代わりして二人をすくいだしますが、命の水を毒の水とすりかえられ、王さまから塔に閉じ込められてしまいます。
ここで再びオオカミが登場し、塔のなかの王子に食べ物を運んできます。
さらに銀の城の三番目の部屋にいた少女は、その後女王になり、王さまへ「わが城から命の水をもっていった息子をよこすこと」と手紙を書きます。
二人の兄は「嘘つきの詐欺師」と断定されてしまいます。
三番目の王子は、命の水をとりにきたとき城で目にしたのをこたえ、自分のベルトのかわりにもっていった女王のベルトをテーブルに置きます。
女王は晴れやかな祝宴を用意させ、国内でつかまっていた者たちをすべて解放し、若い王さま、はあらゆる借金を肩代わりしてあげます。
「これがとうの昔であるのは残念。もし今日こういうことがあったら、借金をしている人も、お金を貸した人も、気が晴れたでしょうに!」という結びが生きています。
死者を丁寧に埋葬してあげるというのもよくある導入部です。