岐阜のむかし話/岐阜児童文学研究会編/日本標準/1978年
川へ洗濯にいったばっさまが見つけたのがドンブラコ ドンブラコとながれてくるモモ。ここまでは「桃太郎」のでだし。
ばっさまがさっそくひとくち食べてみると、そのうまいことうまいこと。じっさまにもあげようと、残りの半分を懐にしまい込んで、きれいな谷水をすこし手にすくって飲んだ。これが騒動のはじまり。六十あまりのばっさまの姿が、十七、八のむすめにかわってしまった。
シバを背負ってかえってきたじっさまが、いえにはいると、ひとりのわかいむすめが、ばっさまとそっくりの着物を着て、庭のかまどのところにいた。ばっさまが、「まあまあ、おじいさん。おそかったなも。さあさあ、どうぞ足を洗いなされや」と、せきたてるので、じっさまは、まるでキツネにつままれた。
どうもふしぎでならんとおもったが、なにかわけがあるのじゃろうと、ひとまず家の中にはいった。「どこのどなたじゃ、あまり見かけないむすめさんじゃが」といわれれ、こんどは、ばっさまがへんにおもい、「おかしなこというな、アッハッハ アッハッハ・・」と、大声をあげてわらいだしてしまった。
ばけものだろうと、つめよったじっさま。近所の衆が集まってきて、じっさまが若いむすめを取り押さえ、脇差をかまえて、ことばもあらあらしくののしっているのをみて。みんなあきれかえってしまった。村の衆がよく見てみると、この若いむすめは、顔かたちから身のこなしまでも、なんとばっさまにそっくり。そのうち、だれかが手かがみを持ってきた。「むすめさん、いっぺんじぶんの姿をみてみなんさい」といって、さしだした。ばっさまは、鏡を見て、びっくり仰天。さてさてどうしたことかと考えておったが、ふと思ついた。
わけをはなし、もってかえったモモもじっさまにさしだした。とても信じられないと、モモを一口食べたじっさまは、みるみるうちに二十歳ほどのりっぱな若者にかわってしまった。村の衆は、目の前で、世にも珍しいありさまを見聞きして、なんだか若い二人が姿がありがたいと思った。やがて、ふたりのあいだに男の子が生まれた。モモから生まれたようなもんじゃて、桃太郎という名前をつけたという。
語り手の方が、「若返りの水」と「桃太郎」の出だしをうまく組み合わせ、楽しんで語った様子が浮かんできます。