銀のかんざし/世界むかし話 中国/エド・ヤング・絵 なたぎりすすむ・訳/ほるぷ出版/1979年
鼻が長くなるといえば、空に上るというイメージですが、ここでは、二人の兄弟がでてきて、兄が大金持ちになり、弟も同じように試みるが、ひどい目に合うという昔話のパターンです。
年とった母親と暮らす二人の兄弟。とても貧乏で食べるものにも困るほど。隣の家から十両を借り、二両の金は、兄弟がいないあいだにつかう分として母親の手元にのこしておき、八両を八千文の銅貨にかえ、兄弟は世間にでてみることに。
銅貨の入った巾着が重いだろうと、兄が持っている巾着と風呂敷づつみの荷物をとりかえて、旅を続けます。そして弟は病気をよそおって、よくなったらすぐに追いつくよといいますが、心配した兄が、お前えを置いていけないというので熱い湯をもらってくるようたのみます。
ところが兄が村でお湯をもらってかえってくると、弟がいません。もちろん荷物もありませんでした。弟は良心のかけらもない悪いやつで、銅貨を独り占めしていなくなったのでした。
兄の方は性格が素直で、弟がいないのは、腹痛がなおっても、おれが戻らないから、先に行ったんだろうと独り合点して、がむしゃらに先をいそぎます。
夜になって遊仙亭というあずまやに泊まることにした兄。うとうととねむりかけたとき、ふいに何人かで話す声が聞こえてきました。このあずまやは、毎年8月15日には、仙人がよりあつまって宴会をひらくのでした。
仙人の一人が、たたけばごちそうがでてくるこん棒で、ごちそうをだし、酒をのんだり、楽し気な笑い声がしました。
もう一人の仙人は、東の村にある苦泉の苦い水は、泉のそばのマツの木を掘り起こして、下にいる青ヘビを殺せば、泉の水は真水に変わることを話します。
もう一人の仙人も、西の村の橋がつくりはじめてから12年にもなるのにできあがらないのは、橋の下に金貨のつまったかめが4つに銀貨のつまったかめが4つもあるからだと話します。
翌日、仙人が忘れていったこん棒をみつけ、ごちそうを食べた後、兄は東の村で、泉の水を真水に変える方法を、西の村では、橋を完成させるため橋の下を掘るように言って、家にもどります。この際、兄は名前と住所を村人にのこしておきます。
二か月たったころ、 東の村の苦泉が真水に変わり、西の村の橋が完成したのを知った皇帝が、金銀財宝を兄におくります。さらに東の村、西の村からも、たくさんの金銀財宝がおくられてきました。
ある日、こじきが家の前をとおりかかりますが、それは弟でした。兄の話を聞いた弟は、自分もと遊仙亭にでかけますが、仙人に見つかってめちゃくちゃになぐられ、さらに鼻が二尺もの長さにされてしまいます。
兄がもういちど遊仙亭にでかけ、こん棒をひとうちして、名前をよび、それに「はい」と返事するのを12回繰り返せば、鼻がもとどおりになることを知って、弟の名前を12回よび、弟は12回「はい」とこたえます。ところが弟がもう一度たたいてくれといったことから、弟の鼻は顔の中にへこんでしまいます。
兄弟がでてくると、だいたい悪いのは兄で、弟が活躍するパターンが多いのですが、長子である兄が善良というのが中国の昔話らしいところです。