どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

あわれな あくま・・スウェーデン

2025年01月18日 | 昔話(北欧)

    こども世界の民話(下)/実業之日本社/1995年
    世界の民話 サヤエンドウじいさん/内田莉莎子ほか作 むらかみ ひとみ・絵/日本標準/2007年

 

 悪魔が人間の言うことを信用しなくなったのには、こんなことがあったようですよ!。

 

 ある村のお百姓が、雌牛を牧場につれていって「神さま。いつも、わしらをおまもりくださってありがとうございます。この雌牛に、草をたっぷり、たべさせてやってくださいまし。」といのりました。

 悪魔はそれを茂みの中から聞いていて、しゃくにさわりました。「人間ってやつは、何でも、うまくいくと、神さまにお礼をいう。ところがわるくいくと、きまって、おれのせいにするんだからな。ちくしょうめ、みていろ。」

 それからニ、三日たって、雌牛が沼に落ちてでられなくなると、お百姓は「ひどいことをしやがる。また、悪魔の奴のいたずらだな」と、おこりました。

 「やっぱり、俺の思っていたとおりだ。」悪魔は、お百姓が、雌牛をひっぱりだすために、手伝いの人をよびにいったあいだに、雌牛をひっぱりあげておきました。

 今度こそ、礼をいわれるだろうと思った悪魔でしたが、お百姓は「神さま。よく雌牛を、引っ張り上げてくださいました。お礼を申しあげます」と、おおよここびでいいます。

 

 短い話ですが、神さまも ときには残酷ですから、悪魔の悩みも もっとも。

 ”悪魔”ではなく、”あくま”という表現がよさそう。


魔法のビール・・デンマーク

2024年06月10日 | 昔話(北欧)

      子どもに聞かせる世界の民話/矢崎源九郎編/実業之日本社/1964年

 

 おなじゲルマン民族のドイツにも類似の話があるといいいます。

 ある日のこと、結婚式のお祝いで、あいにくビールがなくなったこびとたち。ひとりのこびとが、お百姓のところへいって、ビールをひと樽貸してくれるように頼みました。そのかわり、じぶんたちがビールを作ったら必ず返すという約束をしました。

 それから二晩か三晩たったとき、こびとはビールをかえしにいき、「魔法をかけたので、あなたが樽をのぞきこみしなければ、樽からは、いつでもあなたの欲しいだけ、ビールが出てきます。いつまでたっても、からっぽになりませんよ」と、言い残しました。

 ほんとうに、そのことばのとおりでした。いくらついでも、ついでもビールがでてくるのです。そのかわり、もちろん、だれひとり、樽の中を、のぞいてみるものはありませんでした。

 ところが、あるとき、この家に、新しい女中がきました。「どうして、いくらでも、ビールがでてくるのかしら?」とふしぎにおもった女中が、樽の中をのぞきました。すると、樽の中には・・・。

 

 このあと樽の中には、ビールは、ひとしずくもなくなるのですが、結末を想像させても面白いのかもしれません。


地主の花嫁・・ノルウエー

2024年03月18日 | 昔話(北欧)

   ノルウエーの昔話/アスビョルンセン ヨーレン・モー 米原まり子・訳/青土社・訳/1999年

 

 広大な領地をもっている地主だったが、一人暮らしで何か物足りなかった。ある日のこと、近くの農場から来ていた娘をみてすっかり気に入り、少女に「あんたをわしのよめさんにしようとかんがえておるんじゃよ!」と言った。

 少女は「いやですわ! でもまあ、ありがとうございます!」と答えたが、そんな日が来ることは決してないだろう思った。しかし、地主は「いやだ!」などという言葉を聞くのに慣れていなかった。そして少女が嫌がれば嫌がるほど、彼の方ではますます思いをつのらせていった。少女と話していたのではいっこうに事がはかどらないので、少女の父親を呼んで、もし娘と結婚できるように取り計らってくれたら貸した金のことはわすれてやろう、そのうえ、牧草地の横の土地もおまけにやろうと付け加えた。

 父親はその話を娘にしたものの、やさしく言おうと、きつく言おうとどちらにしてもなんの役にも立たなかった。少女は、たとえ地主さんがとほうもないほどの金持ちでも結婚しませんというばかり。

 地主は来る日も来る日もまっていた。けれどだんだん腹がたってきて、がまんしきれなくなって、約束を守るつもりがあるなら、さっさと一発殴りつけたほうがいいぞと、言ったのだ。父親はこう答えた。地主さんとしては、婚礼の支度をすべて整えて、牧師さんや結婚式の客たちが集まったところで、なにかしなければならないよう仕事があるようなふりをして娘を呼びつけるんです。娘がやってきたら、心を落ち着かせる時間を与えず、あっという間に結婚せにゃならんようにするんですな。

 地主は、これはとてもいい考えだと、召使に命じて、結婚式の準備を万端抜かりなく整えさせた。婚礼に招かれた客がやってくると、召使の少年に、急いで農場の隣人宅にいって、約束したものをよこすようにさせろ、と大声で命じた。少年が隣人宅にいくと、「あの子は、牧草地にいるから連れて行ってくれ」と言われ、牧草地にいた少女を連れて行こうとするが少女は騙されません。「約束したものって、あの小さい雌馬のことじゃなくて?あのこを連れていくことね」と答えます。

 召使の少年は、雌馬にのってもどり、地主から「あの子をつれてきたか?」と聞かれると「扉のそばにたっています」と答えました。母の部屋だったところへつれていけ!と地主からいわれ、とやかくいっても無駄だと悟った少年は、召使たちみんなと雌馬を階段を上らせ、寝室まで連れて行った。つぎに「女たちをいかせて、あの子に花嫁衣裳を着させるんだ」といわれ、「でも、そんな!」と言いますが、つべこべいうなといわれ、召使の少女たちに声をかけ、小さな雌馬に花嫁衣裳を着せ、準備が整いましたと、報告しました。

 地主がみずからで迎えようとすると、地主の花嫁は大広間にはいってきました。居並ぶ婚礼の客たちは全員こぞって、どっと笑いだした。

 地主はその花嫁のことがあんまり気に入ってしまったので、それ以来二度と求婚しようとはしなくなったのだということだよ!。

 

 少女の心のうち・・醜い年寄りなら、結婚なんかよりももっとふさわしいことを考えればいいのに・・


へダルの森でトロールに出会った少年たち

2024年03月14日 | 昔話(北欧)

     ノルウエーの昔話/アスビョルンセン ヨーレン・モー 米原まり子・訳/青土社・訳/1999年

 トロルは、北欧ではかかせない存在。ただ話によってイメージがかわってきます。

 

 兄弟が、鷹匠がどんなふうにし鳥を捕まえるか見てみたいとヘダルの森へ出かけた。ところが秋も終わって、兄弟は休む場所を見つけられず、森の中で道に迷ってしまった。二人は小枝を集め、火をおこして、松の枝で夜の宿にする仮小屋をこしらえた。

 横になっていると、くんくんというひどく大きな鼻息が聞こえてきた。兄弟は耳をそばだて、その音が動物たちなのか、話に聞いたことのあるトロルなのか一心に聞きとろうとした。すると、さっきよりも激しく鼻をならし、「ここはキリスト教徒の血の匂いがするぞ!」という。

 大地を踏みつけるひどく重そうな足あとが聞こえ、あらわれたのはトロル。トロルはモミの木のてっぺんにとどくほどで、三人で一つの目玉を持っていた。トロルの額にはそれぞれ目玉をいれる穴が一つづつで、先頭を行くトロルが目玉をつけ、あとの者は、しっかり前の者にしがみついていた。兄はトロルの最後尾にまわり、足首を手斧で切りつけたものだから、トロルはおそろしい悲鳴をあげた。すると先頭のトロルがびっくり仰天して跳びあがり、その拍子に目玉をすとんと落としてしまった。兄はすかさず目玉をひろいあげた。目玉を取られ、仲間のトロルが傷つけられてしまったトロルは、目玉を返さないなら、ありとあらゆる不幸がふりかかるぞと兄弟を脅しはじめた。

 兄弟が、そっとしてくれないなら、あんたたち三人ともきりつけてやると言い返すと、トロルはおびえ、目玉を返してくれるなら、金と銀、それにほしいものは何でもあげるからと、愛想よく言いました。兄弟は金と銀を荷物袋いっぱいにして、すばらしい鋼の弓二本くれるなら目玉を返そうといいます。トロルは目玉がないので歩くことができないと、トロルの一人が妻に大声でよびかけました。トロルたちは三人で一人の妻をもっていたのです。

 妻は事情を知ると魔法をかけてやると、兄弟を脅しますが、トロルのほうがもっとおびえてしまい、妻も自分の目玉を取られることが絶対にないとは思えなかったので、金銀と鋼の弓を兄弟に投げつけると山の家に帰っていった。

 その時以来、へダルの森でキリスト教徒の血を求めて鼻をならしてかぎまわるトロルたちのことを耳にする者は、絶えてなかった。

 

 妻も、一つの目玉も三人で共有するユニークなトロル。だれも目玉を占有しようと思わない信頼関係が素晴らしい。人間にはできそうもありません。


世の中のお返しなんて似たようなもの・・ノルウエー

2023年06月30日 | 昔話(北欧)

      ノルウエーの昔話/アスビョルンセンとモー編 大塚勇三・訳/福音館書店/2003年

 

 一枚の大きな板石に身動きできなかった竜を、一本の木を梃子にして助けた一人の男。竜はすぐに男を呑み込もうとします。「恥も恩も知らないやりかただ」と男はいい、はじめにここをとおりかかるものに、さばき手になってもらおうと竜と決めます。

 いちばんはじめにやってきたのは、年とった犬。犬は、「長い間、主人に真心こめてつくしてきたのに、目も見えなく、耳も聞こえなくなったら、鉄砲で撃とうとする。わたしは逃げ出すしかなくなった。なんとか食べ物をもらって歩き回り、しまいにはうえ死するのさ。世の中のお返しなんて似たようなもの! つめたいもんだよ!」

 竜は、すぐに男を呑み込もうとしますが、男は、なんとか、ご機嫌どりし、このつぎにやってくるひとを、さばき手にしようと話をつけます。

 年とった馬がとぼとぼと とおりかかりました。馬は、「長い間、車をひっぱたり、荷をはこんできたのに、年とって、動けなくなると、ものを食わせる値打ちもない。それだから弾を一発、ぶちこんでやるというのさ。世の中のお返しなんて似たようなもの! つめたいもんだよ!」

 竜は、すぐに男を呑み込もうとしますが、男は、「良いものはみんな、三つ揃い」というだろう。あそこにやってくるキツネが、ほかのふたりと、おなじ裁きをつけたら、あんたは、その場で、私を食っていいいよ」と、話をつけます。

 キツネがやってくると、男は、「毎週、木曜日の晩ごとに、うちのニワトリとガチョウを自分のものにすればいいよ。」と持ち掛けます。

 キツネは、「あんたのように大きくて、がっしりた獣が、この板石の下にいたというのが、よくのみこめない。」と竜に話しかけ、竜がもとの穴に入るようにさそい、竜が穴にはいると、梃子にしていた木を引き抜いたので、板石は、ドーンと、また竜の上にかぶさりました。

男とキツネは、「助けてくれ!」と、叫ぶ竜をそのままにして、めいめいのうちに帰ってしまいました。

 キツネが、男と約束したように、最初の木曜日、ニワトリとガチョウを食べに食べて、そこに寝転がり、いびきをかいていると、そこのおかみさんやむすめたちが、棒をもってキツネをさんざん叩きのめしました。みんながキツネは死んだだろうと思い込んでいたとき、キツネは 床の穴をひとつみつけ、やっとのことで逃げ出しました。

 キツネも、「ああ、ああ、まったく、世の中のお返しなんて似たようなもの! まったく、そのとおりだよ!」

 

 三人目が決着をつけるところでおわることがおおいのですが、男を救ったキツネも、同じような目にあうという おまけつきです。


男の子と悪魔・・ノルウエー

2023年06月25日 | 昔話(北欧)

     ノルウエーの昔話/アスビョルンセンとモー編 大塚勇三・訳/福音館書店/2003年

 

 ひとりの男の子が道を歩きながらクルミを割っていると、虫が食ったクルミを一つみつけました。そのとたん悪魔に出会いました。

 男の子が、「ねえ、ほんとうなの? 悪魔は、すきなだけ小さくなれて、針の穴でも通れるんだって?」ときくと、「そうとも!」と悪魔が答えました。

 男の子が、虫食いの穴に、悪魔をもぐりこませると、その穴に細い棒をきっちり差し込み、鍛冶屋のそばを通りかかると、クルミをわってくれるよう、頼みました。

 お安い御用と、鍛冶屋がいちばん小さなハンマーで、クルミをたたきましたが、クルミはこわれません。そこで、鍛冶屋はもうすこし大きいハンマーをつかいましたが、それでも、どうにもなりません。鍛冶屋はかっかと怒って、両手で使う大ハンマーをひっつかみ、あらんかぎりの力で、クルミにたたきつけると、クルミは粉みじんに砕け散って、鍛冶屋の屋根も半分ふっとびました。

 鍛冶屋が、「まるで、このクルミの中にゃ、悪魔がいるみたいな気がするぜ!」と、叫ぶと、男の子は 「ああ、ほんとうに、いたんだよ。」と答えます。

 

 あまり怖くない悪魔でした。


ビール樽をもっている若者・・ノルウエー

2023年06月20日 | 昔話(北欧)

   ノルウエーの昔話/アスビョルンセンとモー編 大塚勇三・訳/福音館書店/2003年

 

 グリムの死神がでてくる話(「死神の名付け親」または「名づけ親の死神」)とパターンは同じです。

 

 若者が、ビールづくりのところでの奉公がおわり、給金の代わりに小さいビール樽をもらって旅に出ます。

 歩けば歩くほど、樽は重たくなってきます。そこでビールをいっしょに飲めるような人がだれか来ないかと、探しはじめます。

 はじめにやってきたのは神さま。神さまと聞いた若者は、「あなたは、この世の人たちの間に、大きな差別をつけて、いろいろ変えるから、ある人は、とても金持ちになるのに、ある人は、ひどく貧乏になっている。いやです。あなたとは、いっしょに飲みたくありませんよ」と断ります。

 次に会ったのは悪魔。「あんたは、みんなをいじめたり、ひどい目にあわせたりするばっかりだ。どこかで、なにか、不幸があると、いつでも、みんなは、あんたのせいだ、って話している。いやだよ、あんたといっしょになんか飲みたくありませんよ」、若者は断ります。

 若者が死神にであうと「あなたは、りっぱなかたです。なにそろ、あなたは、貧乏人も金持ちも、みんな、おなじにあつかうんですから」と、いっしょにビールを飲みます。

  これまで、これほどおいしい飲み物を飲んだことがなかった死神は、ビールをなんでも治せる飲み物にし、病人のところにいって自分が、病人の足元に座っているときは、この樽からついだ飲み薬で治すことができる。ただ、病人のベッドの頭のほうに座っていたら、死ぬのをとめるような、どんな治療法も、薬もない、と話しました。

 ということで、それから若者は、もう助からないといわれた病人をたくさん助けて元気にしてやり、金もあり力のある人になっていきました。

 やがて、遠い国の死にそうなくらい重い病気のお姫さまをすくうため、若者がお姫さまの部屋に行ってみると、死神が、頭のほうにすわっていました。なんとか死神をだまそうと、死神が居眠りしている間に、ベッドの向きを反対にかえて、飲み薬を飲ませ、お姫さまの命は、救われますが・・・。

 若者が、アーメンと唱えない限り、命は助かるのですが、そこは死神、「主の祈り」を書きつけた大きな板を、若者のベッドの上にかけておき、若者に「アーメン」と、唱えさせたので、若者の時間は、永久におわりました。

 

 頭と足を反対側にするのは、グリムは、一度は大目にみてくれます。が、ノルウエー版では 大目にみてくれません。


よくばり牧師・・ノルウエー

2020年12月01日 | 昔話(北欧)

      世界むかし話12 フィンランド・ノルウエー/坂井玲子・山内清子:編訳/ほるぷ出版/1990年

 

 農場を持っている牧師が、草刈りの手伝いをふやそうと、あらたに若い男を一人雇いました。牧師はどけちで、草刈りたちは懸命に働いていましたが、若い男はいっこうに仕事をするようすはありません。一日中なにもせずぶらぶらしていました。

 夜になると若い男は大きな巾着をもって町に出かけ、とちゅうで、スズメバチの巣を見つけると、巾着がいっぱいになるまでスズメバチを詰め込みます。そして草刈りは二日分の仕事を一日でしあげたといい、それから橋をわたったところで、銀貨のいっぱいはいった巾着をひろったといいながら巾着を牧師にみせました。

 よくばりの牧師が、おおいそぎで「ああ、それは、わたしの巾着だよと」いうと、「おや、そうでしたか。それではおわたしましょう。でも、もしも牧師さまが嘘をついているのなら、巾着のなかの銀貨がすべてスズメバチになりますように。そして、おれたちがきょうかりとった草が、あしたの朝には、また頭をもたげて、のびていますように。」というと、男は巾着をテーブルの上において、かえっていきました。

 牧師が巾着の口をひらいたとたん・・・。

 

 ところで、牧師はプロテスタント、神父はカトリックという違いがありますが、調べてみると興味深い違いがあるようです。牧師、神父さまは、欲張りとは縁がなさそうですが、昔話の世界では、なぜか尊敬できない存在というのはなぜでしょうか?


トロルとりこう者のヘッリ・・フィンランド

2020年11月29日 | 昔話(北欧)

       世界むかし話12 フィンランド・ノルウエー/坂井玲子・山内清子:編訳/ほるぷ出版/1990年

 

 トロルを追い払おうと、三人の兄弟がトロルの家をめざしてでかけます。

 トロルは宿を提供してくれますが、その夜、ヘッリたちには赤いずきん、三人のむすめたちには白いずきんで、ねむることになりました。

 三人の兄弟はころされそうになりますが、ヘッリがずきんをとりかえてしまい、トロルは自分のむすめとも知らず殺してしまいます。

 それからヘッリは、トロルの家で見た金色と銀色の毛の馬をいただきにでかけます。それだけではありません。お金、金糸で織った羽根布団、金のベルと、四度もトロルの家に出かけます。

 いずれもヘッリは巧みにトロルのおかみさんをうまくだますのですが、四度ともなると、さすがにやりすぎ。

 金のベルをとろうとすると、トロルにつかまって食べられそうになりますが、おかみさんからオーブンの中にはいるようにいわれ、「どんなふうにして、そこの中へはいるかわからないよ。おかみさんが先に入ってみせておくれよ」といい、おかみさんがオーブンの前で、かがみこむと、ヘッリは力いっぱいにおくへおしこみ、オーブンの口をしめてしまいます。

 ヘッリは、おかみさんのまるやきがすっかりできあがると、オーブンからとりだし、テーブルの上におき、おかみさんの服を人のかたちに見えるようにしてベッドの上におくと家にかえりました。おかげで、おかみさんはトロルのお客さんに食べられてしまいます。

 お客たちがおいしいまるやきをたべはじめると、中からは、おかみさんの首かざりがでてきて、みんなはびっくりぎょうてん。

 それでもトロルは「ぜんぶたいらげてくだせえ。せっかくたべはじめたものは、のこすことはありませんや!」。(笑っていいものか?)

 ヘッリをおいかけたトロルが、ヘッリの大声で太陽のほうをちらっと見てしまうと、パーンとはじけてしまいます。

 トロルが太陽を見てはいけないというのは、はじめて。

 トロルもそのおかみさんも気の毒になってしまいました。


銅のなべ・・デンマーク、まほうのつぼ・・スウエーデン

2020年03月04日 | 昔話(北欧)

銅のなべ(子どもに語る北欧の昔話/福井信子・湯沢朱美:編・訳/こぐま社/2001年)

 いかにも昔話らしい話です。

 昔は金持ちで大きな農場をもっていましましたが、夫に先立たれ不孝が続き息子と小作人小屋でほそぼそとくらしていた女がいました。

 地主にも借金があり、明日返すようにいわれ、払えないなら小屋からでていくようにせまられ、息子に友だちからお金をかりてきてくれないか、と頼みます。

 息子は友だちを訪ね歩きましたが、人にお金をかせるような友だちは、ひとりもいませんでした。

 息子が、帰りの道をとぼとぼあるいて、川のところまでくると、小さなみすぼらしい男から川を渡る手伝いをしてくれないかと頼まれます。息子が男の手をとって石の上を歩かせ、ちゃんと向こう岸に渡してやると、男は小さな銅のなべをとりだし、お礼にあげるといいだします。うちには料理するものがなく鍋をもらってもしかたがないと息子が言うと、「そんなことは、心配しなくていい。かまどに少しでも火があれば、その上になべをかければいいんだ。そうすれば、役に立つなべだとわかるから」と、男にいわれなべをもちかえります。

 息子が男の言ったことが本当かどうか試してみようと思い、なべの下に種火をおくと、なべが大声で「おいらの出番だ、でかけるぞ!」といいます。「それじゃ、おかゆを少しもってきておくれ。地主さんのかまどにのっているのをね」と、おっかさんがいうと、なべは台所の戸口から飛び出し、またすぐにもどってきました。中にはおかゆがいっぱい。

 食べ物じゃなくても持ってこられるか知りたかった息子は、もういちど、なべの下に種火をおきました。なべが「おいらの出番だ、でかけるぞ!」と、さけぶと、息子は「地主さんの金庫から、うちの借金分の十ダーラーをもってきておくれ」と、いいました。なべがもどってきたときには、なべのそこにぴかぴかの銀貨が。

 その後も必要なものが手に入ります。

 けちな地主は、しょっちゅうお金をかぞえていましたが、金庫のお金が毎日少しづつなくなっているのに気がつきます。

 地主がねむらずに番をして、金庫からお金をかき集めたなべの上に、どっかりとすわりこむと、なべは地主をのせたまま、煙突の上でとまります。

 おろしてくれるようはげしくののしる地主に、息子はさまざまな要求をします。

 ちょっとやりすぎな要求。地主の娘さんをよめに欲しいという要求まで。若い二人が結婚すると、なべは どこかへいってしまいます。

 

まほうのつぼ(世界のメルヒェン図書館②/巨人シュットンペ=ピルト/小澤俊夫:編・訳/ぎょうせい/1981年)

 昔話のでだしは、登場人物が貧しいということ。

 貧しい夫婦が、唯一の財産であるめうしを売ることにしました。夫がめうしのかわりに、手に入れたのが、おじいさんのもっているつぼ。

 おかみさんは、夫がつぼしか持って帰らなかったので、このろくでなし、まぬけといって、さんざんののしります。

 小屋のすみっこにおかれたつぼが「では、わたしはいこうかな」としゃべるのを聞いたおかみさんは、どこにでもいってしまえと、どなります。

 つぼが歩いて、近くの狩の館の台所口の前でとまります。きれいなつぼをみたコックたちは、つぼに肉やベーコンを詰め込みます。つぼはぎっしりつめこまれると「さあ、わたしはいくかな」と、また歩き出し貧しい夫婦のもとへ。ふたりはたらふく肉を食べ、何日も満足にくらしました。

 ある晩、女房は「さあ、わたしは行くかな。」と、つぼが話すのをききました。「行ってきておくれ、行ってきておくれ。わたしたちのしあわせのつぼよ!」と、女房がいうと、つぼは、こんどは町の大ホールへ。銀の食器をみがく台所女たちは、美しいつぼをホールの中へ持ち込むと、銀の食器類をみんなそのつぼのなかにいれます。それから「さあ、わたしは行こうかな。」というと、また貧しい夫婦のもとへ。

 それからというもの、つぼは長い間、二人の家にいました。

 ところがある晩「さあ、わたしは行こうかな」と、でかけたのは王さまの部屋でした。ダンスを楽しんでいた王さまが部屋に戻って見慣れないつぼを見て、トイレ用のつぼと思います。王さまがつぼに腰掛けると、つぼは王さまをのせたまま夫婦のもとへ。

 王さまは「きょうの奇妙な訪問のことは、だれにもいわないでおくれ。そうすれば、お前たちに、新しく美しい家をたててあげよう」と、ふたりに約束し、二人はそのとおりに、美しい家を手にいれます。

 ところで、まほうのつぼ どうなったでしょう。王さまを連れ帰ったとき、つぼは割れて小さなかけらに なってしまったのです。

 鍋も壺も擬人化されているのは共通です。壺は食物の保存だけでなく、トイレとしても利用されていたのでしょう。

 魔法の力をもつものが、いつまでも存在するのは気になりますが、鍋も壺もなくなる最後は、ほっとします。


木の皮のくつをはいた男・・フィンランド

2020年03月02日 | 昔話(北欧)

       世界のメルヒェン図書館②/巨人シュットンペ=ピルト/小澤俊夫:編・訳/ぎょうせい/1981年

 

 旅の途中で木の皮のくつをひろった男。

 村の宿屋で、木の皮のくつを、今夜どこにおいたらいいかたずねると、暖炉の前のニワトリのそばにおくよう宿屋の主人はいいます。

 旅人が、ニワトリが、くつをかじったらどうしようと聞き返すと、宿の主人は、そんな心配はいらないと声をそろえて いいます。

 この旅人、はじめから宿屋を騙すつもり。夜中に木の皮のくつを、どこかに隠してしまいます。翌朝、難癖をつけニワトリを手に入れます。

 次の宿屋でも、ニワトリのかわりにヒツジを手に入れ、めうし、馬と順番にかえていきます。

 ここまでは、韓国の「ごまひとつぶで」という絵本と おなじ出だし。

 「ごまひとつぶで」は、貧乏な若者が大臣の娘と結婚するというサクセスストーリーですが、この話は、人生そんなに楽にいきませんよと皮肉っぽい。

 旅人は馬ぞりと馬具を買い、手に入れた馬につないでまた旅を続けます。

 このあと急にものわかりがよくなった旅人が、キツネ、イヌ、クマをそりに乗せてあげて走らせます。

 ところが馬ぞりの軸が折れてしまい、旅人が軸をさがすにでかけているうちに、 キツネ、イヌ、クマは、馬を食べてしまい、馬の皮に土をつめて、逃げていってしまいます。

 木の軸をさがしてきた旅人が、軸をそりにつけ馬を走らせようとすると、馬はちっともうごかず、地面にたおれてしまいます。

 宿屋を騙した旅人が、親切にそりにのせてあげたキツネ、イヌ、クマから裏切られるのは納得いく結末です。

 木の皮でつくられたくつは、どんな履き心地でしょうか。


チモとかしこいおひめさま・・フィンランド

2019年09月03日 | 昔話(北欧)

       雨のち晴/愛蔵版おはなしのろうそく7/東京子ども図書館・編/2005年

 

 じまんやの王さまが、有名な先生たちを呼び集め、ひとりむすめのおひめさまに世界中の言葉を教えるように命じます。

 おひめさまが、ありとあらゆる国の言葉を話せるようになると、王さまは自慢したくなったのでしょうか「ひめのしらないめずらしい言葉を話すことができる者に、ひめを花嫁としてつかわそう。ただし、そんな言葉をしりもしないくせに、ひめを嫁にほしがるような図々しい奴は、バルト海にほうりこむぞ」と、おふれをだします。

 こうしたはじまりでは、大勢の人がやってくるというのが相場ですが、この話では、すぐに羊飼いのチモが登場します。チモは森の中をあるきまわり、小鳥や動物とはなしをして、鳥やけもののことばがわかるようになっていました。

 おひめさまの城にむかう途中、チモといっしょになったのはスズメ、リス、カラス。

 おひめさまのまえで、スズメ、リス、カラスがなきますが、おひめさまはわかりません。

 じまんやの王さまが「おまえは、世界一学問のある女とおもっておったが、こんないなかものに、われわれをばかにさせるのか!」と、おこりだします。

 けれども、チモは「本当の知恵は、人間は、なんでもかんでも知ってるもんじゃないってことを知っていることなんです」と、こたえます。

 もちろん、チモとおひめさまは、結婚することになります。

 チモとスズメ、リス、カラスのやりとり、城での兵隊たちとのやりとり、王さまとのやりとりも、軽妙です。

 ときに残酷な?ところもでてくるのが昔話ですが、そういったところがまったくなく、さわやかなフィンランドの昔話です。


ヴァイノと白鳥ひめ・・フィンランド

2019年08月01日 | 昔話(北欧)

     ヴァイノと白鳥ひめ/愛蔵版おはなしのろうそく6/東京子ども図書館編/2002年

 

 天涯孤独なヴァイノが、小屋のそばの湖で九羽の白鳥をみます。

 白鳥が次に飛んできたときは、羽の衣を岸にぬぎすてると、美しいおとめにかわり、水からあがると、また羽の衣を身につけ飛びさります。

 ヴァイノは魔女の魔法にかかっているにちがいないと、森のはずれにすんでいる占い女のところへでかけました。

 次に白鳥がやってきたとき、占い女のいうように、衣を燃やしてしまいます。

 一人残された九人目のおとめは、「もしあなたが わたしより年上ならな 父上に、年下ならば 弟に。わたしと同じ年ならば、あなたを 夫にいたしましょう。」と唱えます。

 結婚を承知したおとめは、魔女が父王をにくんでいたので白鳥にされたのですが、この魔法がとけたのでした。

 王さまは、むすめが人間の姿でもどってきたのを見て、たいそうよろこびました。

 テンポよくすすみ、あっというまに魔法がとけてしまいますが、ここからが本番でしょうか。

 王さまは、ヴァイノのことは喜びません。ヴァイノがいやしい生まれだったからです。

 「天へのぼって、雲にかかっているという金の鎖をとってまいれ。むすめとの結婚の話は、それからのことじゃ」。

 ヴァイノは、占い女から馬をもらい、それにのって目をつむり、馬が体の下からするりとぬけたとき、両腕を伸ばして空をつかむと、金の鎖が手ににぎられていました。

 どんどんと下に落ちたヴァイノがついたのは、死の国でした。

 ヴァイノはここで、借金のやりとりで争っている骸骨、土地争いで争っている骸骨、どっちの妻がかしこく、より美しいかあらそっている骸骨にであいます。

 死んでいるのだから、争うことになんの意味もないと、いさかいをおさめたヴァイノは、冷たい灰色の石を三つ手に入れます。

 死の国から、どうしてぬけだせる? ヴァイノがなんの気なしに、握っていた金の鎖をガチャガチャならすと、あらゆる海の生き物があらわれます。しかし海の生き物はヴァイノを助けられません。もういちど金の鎖をガチャガチャならすと、森の動物たちがあらわれますが、やはりヴァイノを助けることはできません。

 三度目には空飛ぶ鳥たちがぜんぶ、ヴァイノのそばにおりてきました。今度は一羽の大ワシがヴァイノをのせて、とびたちます。

 広い海の上で、大ワシがつかれると、灰色の石を順番に海に落としてできた高い山で休みながら、王さまのもとへ。

 じつは、この金の鎖は八人のむすめをしばっている魔女の魔法をとくためのものでした。

 八羽の白鳥がどうなると心配していると、ラストになってようやく魔法がとけるので、ほっとします。

 なぜ、魔法をかけられたのかはでてきません。

 日本の羽衣伝説とはやや違っています。


お屋敷の七番目の父・・ノルウエー、ティム一家・・ファージョン

2019年03月30日 | 昔話(北欧)

お屋敷の七番目の父(ノルウエーの民話/アスビヨルンセン&モー 米原まり子・訳/青土社/1999年初版)

 いろいろ分類されている昔話ですが、この話に類似するものはあるのでしょうか。

 旅をしていた男がすばらしいお屋敷にたどりついて、こんなところで休めたらいいなと、薪を割っていた老人に、一晩とめてくれるように頼むと、台所にいって、おやじに話してごらんといわれます。

 台所に行ってみると、先の老人よりもっと年老いた老人。その老人に泊めてくれるよう頼むと、テーブルのそばに座っているおやじさまに話すようにいわれます。

 おなじようなやりとりが続き、六番目の老人の答えは、だいぶ時間がたってから。六番目の老人は、壁にかかっている角のなかにいるおやじに話すようにいいます。

 七番目目の老人は、なにやら人間の顔めいた小さな白っぽい灰色の形をしたものがあるばかり。それでも旅の男が大声で、今晩泊めてくださいと頼むと、壁の角のなかから、「かまわんよ、ぼうや」という声。

 男は豪華な料理と酒もごちそうになるという、これだけで終わる不思議な話です。

 こんな話が子どもに語られたのでしょうか。七番目の父の年齢が気になります。


ティム一家(天国を出ていく/ファージョン作/岩波少年文庫/2001年)

 ファージョン(1881-1965)の「ティム一家」は、「お屋敷の七番目の父」のパロディでしょうか。年齢が逆転していきます。

 

 ある村にみんな名前がティムという五人が住んでいました。この村では何事かおこるとか、こまったことがあるとティムの家にいって相談していました。ティム一家はうまれつき賢かったのです。

 ある日、ジョンの家の納屋に、ジプシーたちが許可もうけずに、一晩ねたことがありました。
 どうしたらいいか、ジョンが八十になるティムのところにいくと、六十のティムにきいてみるようにいわれ、そこでは四十のティムにきくようにいわれ、最後は赤ん坊ティムのところへ。
 赤ん坊ですから何も言いません。
 結局ジョンはなにもしないことに。

 ジプシーたちが次の村のジョ-ジのところで断りなしに寝ると、ジョージは巡査を呼んできて、ジプシーに罰をくらわせました。すると一週間後ジョージの納屋と干し草山が焼けて、メンドリが一羽盗まれてしまいます。

 ティム一家のおかげで、村では何か事件があっても、おおさわぎにならないうちに、しずまりました。

 赤ん坊ティムは百歳になって亡くなりますが、後継者がいなかったため、この村もほかの村と同じように、何かに手だしをするようになりました。

 楽しいのはその理由です。八十のティムは知恵が減っている、六十のティムも知恵が減っている、四十のティムは、二十のティムの知恵のほうが生きがいい、若いティムは、赤ん坊に聞くと泉からくみたてのいい知恵で教えてくれるというもの。

 創作らしくちゃんと理由がついています。このあたりが昔話と創作の違いです。


ドブレ山のねこ・・ノルウエー

2018年09月21日 | 昔話(北欧)

      子どもに語る北欧の昔話/福井信子・湯沢朱美:編訳/こぐま社/2001年初版


 気が早いですが、クリスマス時期の昔話でしょうか。

 それまで、クリスマスを普通にすごせなかった一家が、ふとしたことで、何の心配もなく、クリスマスを楽しめるようになった話です。

 クリスマスイブの日、ハルヴォルさんのところに、泊めてくれとやってきた男。男は白熊をつれていました。

 ハルヴォルさんの家には、クリスマスには、いつもトロルがやってきて、大騒ぎ。自分の寝るところもありません。
 ハルヴォルさんは事情を話してことわりますが、どうしてもと頼まれて、男は壁の寝台、白熊はストーブの下にねむることになります。
 その夜トロルの集団がやってきて、食べたり飲んだりします。
 トロルのこどもが、白熊をねことおもって、ソーセージを鼻先につきだすと、白熊は鼻をやけどしてしまいます。
 おこった白熊は、トロルたちを家から追い出してしまいます。

 次の年、ハルヴォルが木をきっていると、森のおくから「お前の大きなねこは、まだいるかい?」と声がします。 ハルヴォルが「いるよ、7匹子どもが生まれ、親ねこより大きくて乱暴だ」と答えると、声は「なんだって!それじゃあもう、おまえのところには、こんりんざい行かないよ!」といって、それからはハルヴォルの家にトロルは来なくなり、何の心配もなくクリスマスを楽しめるようになります。

 男が白熊をつれていたのはデンマーク王にさしあげるためでした。ノルウエーの昔話ですが、デンマーク王がでてきます。この結末からいうと、どうやら白熊はハルヴォルのところに居ついたようです。

 物語にあまり起伏がないので、子どもからはどううけとめられるでしょうか。

 -オックスフォード 世界の民話と伝説 北欧編ーに「ドーブル山のネコ」として、おなじものがあり、こぐま社版より、もう少し具体的ですが、語りにくそうです。