どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

みにくいアヒルの子

2013年03月29日 | 創作(外国)

    みにくいアヒルの子/アンデルセン童話集1/大畑末吉・訳/岩波少年文庫/1986年初版

 

 小さいときに誰かに読んでもらった記憶はないし、本も読んだ記憶もさだかでないが、何十年たってもこんな話の中身といえるのは「はだかのおうさま」と「みにくいアヒルの子」の二つでしょうか。多分どこかで何かの機会に紹介されたものを覚えているという程度のものでしかなかったかも。

 しかし今回初めて読んでみて、絵本や子ども向けの簡略化されているものでは、アンデルセンの情景描写のたくみさが伝わってこないので、一度は全文を読みたいもの。

 「みにくいアヒルの子」の生まれたところはどんなとこと聞かれても、うまく応えられるだろうか。
 岩波版でいうと

 そのいなかはとてもすばらしいところでした。小麦は黄色く、カラス麦はあおあおとそだち、向こうの牧草地では、干し草がうずたかくつみあげられていました

 リンゴの木が花ざかりで、リラ(ライラック?)がいいにおいにかおっていました

 長いみどりの枝は、入り江になっている掘割の上にたれていました。ああ、なんて美しい、春らしいさわやかさでしょう。

 秋になりました。森の木の葉は黄色く茶色になりました。そして風にふかれてくるくる舞いをさせられました。空はいかにもさむざむとして、あられと雪をふくんだ雲がどんよりとたれさがっていました
 リラは、水の上の白鳥のほうへ枝を低くくたらしました。太陽はあたたかに、そしてやさしく照っています。


 お話の内容だけでなく、こうした情景描写についても、じっくりと子どもたちに読んであげたいもの。
 
 ところで「お話し会」でアンデルセンの話を聞くことが少ないのは、長いというのが原因でしょうか。「エンドウ豆の上のお姫さま」のように短いお話を聞いたことはあるのですが・・・・。         


アンデルセン童話のなかの花と樹木

2013年03月28日 | 創作(外国)

   アンデルセン童話集1,2,3/大畑末吉 訳/岩波少年文庫/1986年初版

 

 世界一幸福に暮らせるというより、アンデルセンの名前のほうがとおりがいいのではないかと思われるデンマーク。作家の名前で、日本がイメージされるようになってくれるといいなと思うが・・・。
 
 名前だけで、実はアンデルセンの童話を読んだことがなかった。今回、岩波少年文庫のアンデルセン童話1~3を読んでみた。
 小さいころ(数十年前になるが!)のイメージと大分違っていた。多分その原因は簡略化された児童向けに書き直されたものをアンデルセンの童話と思っていたことだと思う。一つ一つの話の骨格が実はずいぶんと太く、さらっと読み流すというわけにはいかないものばかりであった。

 宮沢賢治の「花の童話集」で、賢治が読んだ本の中に、アンデルセン童話集があったことが紹介されていた。そこで、花の季節にちなんで、アンデルセンの童話に登場する花や樹木を、比喩的に使用されているものも含めてあげてみた。

「おやゆび姫」
  チューリップ、バラ、スミレ、スイレン、ヒナギク、
「パラダイスの園」
  シュロ、イチジク、ザクロ、リンゴ、バラ、ユリ
「モミの木」
  シラカバ、バラ、ボダイジュ
「天使」
  マリーゴールド、パンジー、ブナ、
「人魚姫」
  白ユリ、バラ、スミレ、
「ヒナギク」
  シャクヤク、バラ、チューリップ
「ナイチンゲール」
  バラ、ニワトコ
「野の白鳥」
  バラ、リンゴ、キイチゴ、ヒマラヤスギ、イラクサ
「雪の女王」
  バラ、サクランボ、オニユリ。ヒルガオ、ツルニチニチソウ、リンゴ、ヒヤシンス、スイセン
「古い家」
  チューリップ、セキチク
「鐘」
  ヤナギ、クルマバソウ、アネモネ、ヒルガオ、
「年の話」
  リンゴ、モモ、サクランボ、アネモネ、タンポポ、サクラソウ、クローバー、スミレ、バラ

 ここにあげていないものでも、バラはよく出てくる。現物を知らない花も多いが、こうして列挙するだけで、色彩豊かなアンデルセンの世界がかいま見られるようである。         


くつやのドラテフカ・・ポーランドの童話

2013年03月25日 | 創作(外国)

     くつやのドラテフカ/千びきのうさぎと牧童/ポラジンスカ・文 内田莉莎子・訳/岩波書店/1972年初版

 

 「くつやのドラテフカ」は、ポーランドの現代作家ポラジンスカ(1888-1971)の創作。

 前段は、ひどく貧乏なくつやのドラテフカが、アリ、ミツバツを助け、野がもにはパンをごちそうします。

 後段は、ドラテフカが、まほうつかいに塔にとじこめられたお姫さまを助け出すために、アリ、ミツバチ、野がもの助けをかりて、魔法つかいがだす難題をみごとに解決し、おひめさまと結婚します。

 ぼろぼろのシャツ、ぼろぼろの皮ズボン、かたくなったパンの耳しかはいっていない袋だけというひどい貧乏なドラテフカが、最後にお姫さまと結婚するという対照が生きています。

 前段と後段の三つが対応していて、主人公がしあわせになるという結末は昔話のパターン。現代の作家が書いていますが、昔話のイメージが大切にされています。

 外国には、現在進行形で終わる話もみられますが、この話も「いまでもしあわせにくらしています」と現在進行形で終わっています。

 登場人物がセリフをいうシーンが多くを占めている話では、どうしても語りで表現することが難しく感じます。       


花の童話集

2013年03月19日 | 宮沢賢治

 庭に植えたヒヤシンスがピンク、紫、赤とコントラストをしめせば、クロッカスは小さく黄色に咲いており、梅が見ごろで、ぼけも蕾が大分おおきくなってまもなくチューリップも出番。
このところの暖かさで花が一斉に眼をさましたかのようなこの頃。
 
 引っ越しの際、積読だけだった本を大分処分したが、なぜか捨てきれなくて残った本に宮沢賢治の「花の童話集」がある。岩崎ちひろの画が印象ぶかいが、このなかの作品に

 「まなづるとダァリヤ」には、赤、黄色、白のダァリヤ
 「めくらぶどうと虹」には、おおばこ、赤つめ草、すすき、月見草、百合
 「ひのきとひなげし」には、ひなげし、
 「黄いろのトマト」には、ボンデローザ、レッドチェリイというトマトが
 「おきなぐさ」には、ねこやなぎ、アネモネ、きみかげそう、かたくりが
 「いちょうのみ」には、桔梗,杏

 花に寄せて「童話」をつくりあげる賢治さんの世界には脱帽・・・・。

 そしてこんな表現は賢治さんならでは
 「山々にパラフィンの雲が白く澱み、夜が明けました。」
 「藍晶石のさわやかな夜がまいりました」
 「日光は、今朝はかがやく琥珀の波です」
 (「まなづるとダァリヤ」のなかから)


 こうした例はいくらでもあげられるが、こうした賢治さんの感性を感じる表現は、これまで読んだものではおめにかかれない。

 じつは宮沢賢治の「童話」を素話でとずっとおもっているが、何回読んでもみてもものになりそうにありません。

 宮沢賢治については、本人が使ったというチェロについて一冊の本が書かれたり、精神科医が賢治の一生を時期を区切って分析、さらに作品について書かれた星座などについて天文学者が、地質学者が地学的な視点でなど、さまざまな切り口で語られている。文学、宗教、教育の面からも賢治の人となりが語られているが、日本人だけでなく外国人にも研究者が多いというのは、それだけ魅力ある人ということだろうか。 
 

          花の童話集/宮沢賢治 岩崎ちひろ画/童心社/1969年初版


なんでも見える鏡・・ロマの昔話

2013年03月11日 | 絵本(昔話・外国)


    なんでも見える鏡/フィツォフスキ再話 内田莉莎子訳 スズキコージ画/福音館書店/1985年

 

 副題に「ジプシ-の昔話」とあって手にとってみました。

 けちんぼうでろくに食事もたべられなく、むちでたたく主人のもとから旅に出た若者の物語。

 旅のなかで若者は、砂にうちあげられていた銀色の魚をすくい、キツネにねらわれていたワシの子どもを助け、さらに、半分人間で半分が大きなアリが、ハチに刺されて苦しんでいるところから、ほっぺたのハチの針をぬいてあげます。
 このことが伏線となって主人公が王女さまと結婚するのを助けることに。
 
 ロシアの「マーシャと白い鳥」でも、弟を救いだすマーシャが弟を探しにいって、つれもどす前段で、ミルクの小川、リンゴの木、ペチカの願いにこたえるのが伏線となっています。

 話の前段で三度の繰り返しがあって、後段で三度応えるというのは、他の話にもよくみられます。一度では印象が薄いが、そうかといって四度以上だと煩くなります。

 若者は、やがて美しい王女のいる国につき、「王女からかくれてみつからなかったものが、王女の夫になれる」というお触れに挑戦します。

 王女は「なんでも見える鏡」をもっていますが、最後には王女の心を映し出す役割もあります。

 画では、巨大な銀色の魚や半分人間で半分アリというイメージが伝わってきます。

 ところで、「ジプシー」は差別用語、放送禁止用語と見做され、「ロマ」と言い換えられる傾向にあるという。ジプシーは、一般にはヨーロッパで生活している移動型民族を指す民族名で、転じて、様々な地域や団体を渡り歩く者を比喩する言葉ともなっているという。
 民族的には家族単位での移動生活を旨としており、ジプシーも放浪者を指す語としてしばしば用いられてきました。ロマの場合、独特の外見的特徴を持つ閉鎖的な小集団で移動しており、かつ、定住者との接触機会も多かったことから、しばしば差別や迫害の対象となってきたといいます。
 言語学の進歩によって彼らの言語であるロマニー語が分析された結果、ジプシーはインド北西部が発祥の地であり、6世紀頃から移動を開始し、14世紀頃にはヨーロッパに到達して、その後全欧州的に広がったとされているようである。

 だとすると、昔話にヨーロッパからアジアまで似たような話があるというのは、ジプシーが各地を放浪して伝播者となったと考えることもできそうだ。

 おなじ福音館文庫の「太陽の木の枝」にイラストがあり大分印象が違っていました。(2014.7.25)


マーシャと白い鳥・・ロシア

2013年03月09日 | 絵本(昔話・外国)


    マーシャと白い鳥/M・プラートフ再話 出久根育児・文・絵/偕成社/2005年初版


 ロシアの昔話によく出てくるバーバヤガーが登場する絵本。
 
 両親はマーシャに弟の面倒をみてねとたのんで町のいちばにでかけます。マーシャがともだちのところに遊びにいっているうちに、弟は白い鳥につれさられます。

 マーシャは、弟をさがしにいく途中で

 土でできたペチカにまきをほおり込んであげ、
 赤い実をつけたリンゴの木の実をふりおとしてかるくしてあげ、
 さらにミルクの小川のながれをとめていた石をどかしてあげます。
 
 マーシャはバーバーヤガーのところにいる弟をかかえて逃げ出すが、途中でミルクの小川、リンゴの木、ペチカの助けをかりて、弟を無事に助け出します。

 チーズの岸をミルクがながれていたり、お話の中にはでてこないフクロウが描かれたり、バーバヤガーのイメージが伝わってきます。

 幻想的ですが、もう少し明るいイメージがあってもよさそう。
 
 昔話のリズムが感じられる絵本。