大人と子どものための世界むかし話5/ポリネシア・メラネシアのむかし話/ダイクストラ好子・編訳/偕成社/1989年
ある朝早く、イースター島の首長のトウコイフは、高い崖の上にある<ゴキブリのやかた>といわれるなかまの家にでかけていきました。そのとちゅうトウコイフは、崖の下でふたりのゆうれいがねむっているのを見かけました。トウコイフはそれをみると、ゆうれいをおこさないように、そーっとそのそばをとおりぬけていきました。
トウコイフがしばらくいくと、またしてもハウリウリという幽霊に出会ってしまいました。
ハウリウリは、トウコイフをみると、みんなを起こし あとをおいかけました。はじめに目を覚ましたゆうれいが、けわしい崖道をあがってきたトウコイフにたちふさがり、「おまえは何か知っているかね?」とたずねました。トウコイフが、「いやなにもしらない」と答えると、ゆうれいは姿をけしてしまいます。
しばらくいくと、こんどはうしろからおいかけてきたゆうれいが、「おまえはわれわれについて、なにか知っていることがあるだろう」と聞いたので、またトウコイフが、何も知らないと答えて、崖をのぼっていきます。
トウコイフは、ゆうれいたちについて知っていることを話すと、かならずころされてしまうことをしっていたのです。
崖の上につくと、またゆうれいたちが、三度目に、何を知っているんだと聞くので、トウコイフが、「何も知らない」と、こたえると、ゆうれいたちはまたしても姿をけしました。
やっと崖の上の<ゴキブリのやかた>についたトウコイフは、友だちが、かまどからトロミロとよばれている木のもえさしをとりのぞいていたのをみて、二本もらうと、ナイフで、さいしょにみたゆうれいとそっくりの人の形をほりあげました。それはトウコイフが、最初に見た男のゆうれいにそっくりでした。トウコイフは、自分が見たことを一言も口にしなかったので、ゆうれいはどうすることもできませんでした。
夜が明けると、トウコイフは、夢に出てきた女の人のゆうれいの人形をつくり、さきにほった男のゆうれいの人形といっしょに、<ゴキブリのやかた>の前に立てかけ、じぶんの家へとかえっていきました。しばらくすると対の人形をみたひとたちがやってきて、じぶんたちにもおなじような人形をつくってほしいというのです。
トウコイフは、人形の材料になるトロミロの木やおくりものをもってきた人にはすぐに人形をほってあげましたが、そうでない人びとからは、トロミロの木だけうけとって、人形はなかなかつくってやりませんでした。
ある日、トロミロの木だけとられた人びとが、はやく人形を作ってほしいと催促しました。するとトウコイフは、「ちょっとまっているように。」というと、ほりあげて家の中にならべておいた人形全部にむかって、「さあ、おまえたち、あるくんだ」と よびかけました。すると、人形たちは、カラリ、カラリと音を立てながら歩きだし、家の中をぐるぐるまわりだしました。人形が動き出したのをみた人びとは、このような不思議な人形は、トウコイフの家にのこしておくのがふさわしいといって、めいめいの家にかえっていきました。
こうしてトウコイフは、人形をてばなすこともなく、いつまでもじぶんの家においておきました。それから人びとは、トウコイフの家のことを<あるく人形の家>とよんだということです。
ちょっとかわったイースター島の昔話です。これに類した昔話をみたことがありません。
さっぱりイメージがわかないのが<ゴキブリのやかた>です。まあなくても成り立ちますが・・・。