大人と子どものための世界のむかし話11 モロッコのむかし話/クナッパート・編 さくまゆみこ・訳/偕成社/1990年初版
リビアの水害で目立たなくなったモロッコの地震(2023.9.8)ですが、100年あまりで最大の規模になったといわれています。早い復旧ができますように。
まずしい漁師が、むすこのアリーと漁に出かけ、おおきな魚を網でひきあげました。大きな魚で、魚を運ぶため荷車をもってこようと、アリーに魚の番をするよう言い残し漁師は家に向かいます。
アリーが見張りをしていると、魚はまるで人間のように涙を流しています。アリーは魚がかわいそうになって海へ戻しますが、そうしてから両親や弟、妹がおなかをすかし食べ物をまっていることにきづき、じぶんのようなやくだたない者は、どこか遠くへいってしまったほうがいいとおもい、どこまでもどこまでもあるいていきました。
大きな岩山のかげで一人の男とあい、いっしょに都へ向かいます。都について宿屋に部屋を取りますが、アリーはお金を持っていません。いっしょになった男は、「お金はわたしが持っているよ。身寄りのないわたしには、きみがいっしょにいてくれるだけでも、たのしいのさ。」というのでした。
都をあるきまわり、アリーが布地を売っている店を見て、じぶんもこんな店をもって、にしき織や、インドの絹や、そんなものを売って暮らすことができたらすばらしいだろうなと、つぶやくと、男は空き家になっているところで店をはじめようといいます。アリーの店は有名になって、おおぜいの客でごった返しになり、荷車も通れないほどこみあうようになりました。
ある日、スルタンが、姫にあたらしい衣装をこしらえてやろうと、アリーの店から品物を持ってこさせました。姫は、一番高い布地をえらび、この商人をつぎの日もよんでほしいと、スルタンにねだりました。つぎの日、昨日よりさらに上等な品々を見せると、姫はふかい青色の生地にダイヤモンドをぬいつけた布地をえらびました。姫が選んだのは夜会服で、つぎの日、誕生日の宴会にきるドレスの布地をえらぶことにします。恋におちたアリーが、お姫さまの誕生日の宴会に、よんでもらいたいとつぶやくと、いつかアリーが助けた魚が、「姫がえらんだ布地を、誕生日の贈り物としておまえからさしあげたら、姫の宴会に招待されるだろう。」というと、すがたをけしました。
アリーへ宴会場の招待状がとどきますが、アリーは、「ああ、ぼくは、あのお姫さまがすきになってしまったんだ。けれども、ぼくにはたかい身分がない、いったいどうしたらいいんだろう。」と、うかない顔をしています。そんなアリーを見て、男が、「人間というものは、ひとつ望むがかなうと、つぎの望みがわいてくるものだよ。きみはたしかに、良家の生まれではない。でもりっぱな商人だ。だいじょうぶ、スルタンに、姫をくれるようにたのんでみてごらん。」と、いいました。
アリーがスルタンにじぶんのねがいをつたえると、スルタンのおきさきが、じぶんのもっている大きな真珠よりも美しさおいても、値打ちにおいても これにおとらない真珠を持ってきたら、姫の夫としてふさわしい。そうした力がああるかためしてみるようにいいます。
アリーが、いまはともだちになった男に相談すると、「スルタンのおきさきは、それとおなじ真珠がないことを知っているのだろう。そうだな、今夜、浜へ行ってごらん。またあのかしこい魚にあえるかもしれからね。」
魚にあえると思っていると、意外な展開。魚には会えず、いつも相談にのってもらっていた友だちの男があらわれ、「わたしはさかな。そしてきみの友だちだよ。きみはわたしのいのちをすくってくれた。そこでわたしは、人間にすがたをかえて、きみをたすけてあげたのだ。わたしには、きみのさがしている真珠を見つけることができる。でもそれは、わたしのいのちとひきかえのしごとになる。そこでわたしは、きみにさよならをいいにやってきたというわけなのだ。」
海の王がもっているという真珠を手に入れることができればお姫さまと結婚できるが、そのためには、友だちを失うことになるアリーの選択は?。
創作を思わせますが、友だちを選択したアリーの目の前に、ひとりのむすめが、あらわれるのは昔話でしょうか。