どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

バラモンの若者とゆうれい・・インド

2025年01月22日 | 昔話(アジア)

  りこうな子ども/アジアの昔話/松岡享子:編訳/こぐまのどんどんぶんこ/2016年

 

 ゆうれいが 木の上に住んでいるというのは!

 

 年老いた母親から「はやくよめを もらうよう」いわれていた、ひとりの若者が、おもいきって町へ行くことにしました。というのは、この家には、小さな小屋が一つと、ネコの額ほどの畑があるきりで、結婚式を挙げるお金もなかったのです。

 母親は、お金より、息子が いっしょにいてくれるほうがいいと、話しましたが、息子は、よめをもらうためと、母親に別れを告げました。

 ふたりがすんでいる小屋のすぐわきのボダイジュの木に、ゆうれいがひとり、すみついていて、母親と息子の話を.聞いていました。ゆうれいは、「若者が出かけたら、若者にばけてみがわりになってやろう。そうすりゃ、あの小屋でぬくぬくとくらせるし、あいつの母親が料理したものが、くえるってわけだ。木の上でさむいおもいをしてくらすのは、もうあきあきした。ゆうれいでいるのも、もうたくさんって気分だ。」

 夜、ゆうれいが、若者にそっくりの姿で小屋の戸を叩くと母親が出てきて、不審がりますが、「貧乏でも、やっぱり、かあさんを一人にしておくことはできない」というので、母親は喜びました。こういうわけで、ゆうれいは、母親の息子として、小屋でくらすようになりました。

 さて、一年が過ぎて、バラモンの若者が村に帰ってきました。ところが小屋には、自分とそっくりの若者がいて、口論になりました。母親もバラモンの若者より、ゆうれいの若者が じぶんの息子だといいはり、息子を、うちから おいだしてしまいました。

 悩んだバラモンの息子は、王さまに訴えますが、ふたりがそっくりだったため王さまも判断できませんでした。

 助け舟を出したのは、とある原っぱであそんでいた子どもたちでした。子どもたちは、少し土の盛り上がったところにすわっている、かしこそうな顔をした少年のところにつれていきました。バラモンの若者は、自分がからかわれているのかと思い、不機嫌になりましたが、はなしても むだかもしれないが、すくなくとも悪いことにはなるまい。若者はそう考えて、これまでのことをのこらず話しました。

 土の上に座っている少年は、「おまえのもんだいを かいけつできる」が、それには、さばきの場に、王さまも大臣も、村びとも、一人残らず たちあわねばならんと、条件を付けました。
 バラモンの若者は、そうするよりほかに道はないだろうと、勇気をしぼって、王さまのところへ行くと、なんと、王さまは、でかけることを約束してくれました。王さまは、自分が解決できなかったことを、解決してみせるというから わざわざ でむいてきたといい、うまくいかなかったら おもい罰をうけるぞ ともうしわたしました。

 土の上にすわっていた少年は、首のところがほそいビンをだすと、こういいました。「このビンの中に入ることのできるものが、この女の息子であり、小屋の正当なもちぬしである。」

 バラモンの若者は、そのような奇妙なやりかたでことをきめるとは、と抗議しようとしました。ところがゆうれいの若者は、かちほこったように、ニヤリとわらって、たちまち 小さな虫ほどになって、ビンの中にとびこんでしまいました。少年は、ビンを海へ投げ捨てるようにめいじ、母親もダマされていたことを王さまに言いました。

 王さまは、そのような若さで、どうして、それほどの知恵を身につけたか尋ねました。少年は、「力は、すべて、ふしぎな土まんじゅうの中から でてくる」とこたえました。王さまが、そこをほらせると、土の中から世にも美しい玉座がでてきました。玉座は、たくさんの宝石でかざられた台座の上にのっていて、台座には三十二人の天女のぞうがささえていました。天女は、玉座のいわれを話すと、玉座を空中に持ち上げ、そのまま どこか遠くへ 運び去っていきました。

 

 ”バラモン”は、子どもにはわかりにくいので、ほかの表現か、つかわないようにしたほうがよさそう。


空飛ぶ木馬・・インド

2025年01月15日 | 昔話(アジア)

      北インドの昔語り/坂田貞二・編訳/平河出版社/1981年

 

 三つの話がつながっていくあまり見ない構成です。

 王子と商人の息子、木工の息子、金細工師の息子の仲良しの四人が、家を追われ森の中で見つけたのはレンガほどの大きさの金塊。誰かに盗られたら大変と、四人が交代で不審番をすることになった。四人のうち三人は、突然、金塊が魔物になり、食べてしまった。金塊をもって逃げたのではないかと疑ったが、金塊はそのまま。

 四晩目に不審番するはずだった木工の息子(カーティー)が、三晩目の商人の息子が食べられる様子を見て、逃げ出すと、女の衣装をつけた魔物が追いすがってきて、「冷たい人ね。あたしひとりをおいてどこへいっちゃうの。いっしょにつれていって」という声。走り続けて、道端の木にのぼると、女の姿をした魔物は木のまわりをぐるぐるまわりながら、泣いたりわめいたり。(あーら、魔物は木に登れないんだ!)
 そこへ、花嫁を迎えに行く王さまの行列が通りかかり、カーティーから事情を聴くと魔物を捕まえてしまった。(王さまは、大人数の行列だから幾日も人間を食っていられると魔物をだました知恵の働く人)。

 さて魔物から解放されたカーティーが、おなかをすかせて歩いていくと。道端に粟を見つけました。おそらく家畜のえさの食べ残しだとおもったカーティーは、それを拾うと、器用な手先で米のように作りかえました。そして町の木工の寄合所(同業者の)にすわっていた老カーティーに、作りかえた米でご飯を炊いて食べさせてくるよう頼みました。

 老カーティーが、米を炊くように一人娘にいうと、娘は、なかなか賢く、それが米でないことを見破り、<すごい腕をもった人がいるものだわ。粟をお米みたいに作りかえるなんて、並大抵のことではないわ>と感心しました。娘はすぐに、木を切り刻んで胡麻をつくり、それを預かってきた布につつんで、<御飯ができました>と、父親に渡しました。若いカーティーは、包みのなかをみて<わたしよりはるかに腕のよい人がいる!>と不思議に思って父親に尋ねました。そしていっしょに家にいくと、娘は、「あなたが、さきに細工をしたから、そのお返しです。粟でご飯を炊けというから、木の胡麻をさしあげたのです。これでおあいこです」と答え、食事がすむと、カーティーと結婚すると父親にいいました。

 結婚したものの、カーティーはなにひとつ仕事をしないで、ただ食べては寝るだけ。暮らしが立ち行かなくなり、妻からしりをたたかれ、カーティーがつくったのは寝台。金貨十万枚で売ろうとしますが、誰も買いません。都合がいいことに、この国は、朝から晩まで市においても売れない品は、王さまが買い取ってくれることになっていました。

 王さまから、特別の寝台かと問われ、「幾日かお使いになれば、それだけの値打ちがあることがかならずわかります」とカーティー。「もし値打ちがないとしたら、おまえを油しぼりの機械にかけてすりつぶすぞ」と、王さまは念を押し、寝台を使うことにしました。
 (ここからは、寝台の脚が代わりばんこに散歩に出かける楽しい場面)

 真夜中になると、寝台の脚の一本が、散歩に出かけ! 宮殿の壁に穴をあけて忍び込もうとしていた七人の盗賊を倒した。二本目の脚は、王さまが朝起きて靴をはこうとすると毒蛇が噛んで王さまが死ぬことをなげいていた老婆の話を、ほかの脚にはなしました。三本目の脚は、盗賊をたたいて倒したことを、四本目の脚は、盗賊の後をついていき、隠し場所をみてきたことを、ほかの脚にはなしました。

 王さまは、寝台の脚の話を一部始終書き取っていて、話が本当だったことを知ると、カーティーに国の半分を与えました。カーティーは妻も呼びよせて宮殿に暮らすようになりました。

 ここから別の国の王子が主役。王子とカーティーはなかよくなり、カーティーは王子のために機械仕掛けの木馬をつくって、狩りをすすめ、三つの方角へいくのはよいが、四つ目の方角にはいかないよう忠告します。

 ダメと言われて、いくのがお話しの世界。四つの目の方角を進んでいくと、ある国につきました。宿屋に泊まっていたが、夜になっても明かりがつかず。食事も出てきません。

 宿のおかみさんの言うことには、「この国には王女さまがひとりいるのですが、その王女が宮殿に戻られてはじめて、町中の明かりを灯すことになっている。それから日が暮れないとご飯を食べられません。王女さまが宮殿に戻って食事をしたあとでないと、町の者は食べてはいけないのです」

 この王女はどんな人物か見てみたいと思った王子は、木馬にのって、なんどか宮殿にしのびこむ展開。

 

 外国の昔話には長いものがありますが、これはさすがに長すぎるでしょうか。 


あばかれた悪だくみ・・インド

2025年01月11日 | 昔話(アジア)

     北インドの昔語り/坂田貞二・編訳/平河出版社/1981年

 

 ひどく貧しいバラモンが、妻に尻を叩かれ、王さまのところへ行ってお布施をもらうおうとしました。妻の言うには、途中で見たことをうまくまとめて王さまに話せばいいというものでした。

 途中の道端に水たまりがあって、水牛が水たまりにごしごし体をこすりつけ、からだについた水をあちこち跳ね飛ばしていました。まわりに水をかければ涼しくなるからです。お城につくと、バラモンが、「ごしごしやって水をはねかえすは、なにが狙いかよくわかる。」と王さまに話すと、王さまは、その文句を書きとめ、金貨二枚をバラモンに、あげました。

 さて、王さまには七人の王妃がいましたが、なかの一人は、床屋とただならぬなかになっていました。この王妃は、床屋に、「髪の手入れをするとき、かみそりで王さまの首を掻き切ってしまうよう」そそのかしました。

 つぎの日、髪と髭の手入れをする時間になり、床屋が剃刀をよくきれるように、水をかけてごしごしと砥石にかけはじめました。それを待つ間、王さまはそばの手控えをごらんになっていました。そこにバラモンのいった文句が書いてあったので、王さまは声を出してお読みになりました。

 「ごしごしやって水をはねかえすは、なにが狙いかよくわかる。」
 それを聞くと、床屋は、王さまが、なにもかも知っているのだと思い、「王さまの首を剃刀で掻き切れば、王妃様たちも国もみんな私のものになる」という王妃のたくらみを白状しました。

 王さまは、「命が助かったのはあのバラモンのおかげだ。あの文句を聞かなかったら、命も国もなくなっていた」と、もういちどバラモンを招いてもっと礼をすることにしました。


象とフクロウ・・ネパール

2025年01月04日 | 昔話(アジア)

      アジアの昔話6/松岡享子・訳/福音館書店/1981年

 

 象が食べ物を探して森の中へ入っていくと、とつぜん鬼どもがおおぜい集まっているところへでてしまいました。鬼の王は、ちょうど象を一頭たいらげた夢からさめたばかりでした。そこへ象があらわれたので、夢がほんとうになったにちがいないと、すぐに象を食べようとしました。

 象が、最後のたのみとして、殺される前に、親しいともに相談させてほしいというと、鬼どもはよかろうといいました。みちみち象は会うひとごとにたずねました。「夢の中で何かを食べたら、さめたあともそれを食べなければならないなんて、そんなことが道理にあっているでしょうか?」。するとだれもかれも、それは道理にあっているといいます。やっと仲の良いフクロウのところへたどりつき相談すると、フクロウもいっしょに行こうといってくれました。

 フクロウは鬼どものところへつくと、ふかいねむりからさめたふりをして「ああ、今、驚くべき夢を見た。鬼の女王と結婚した夢だ。されば、すぐにも女王と結婚しなければならぬ。して、女王はどこにいる?」

 すると鬼どもは、おこって、声高にさけびました。「ばかばかしい。夢を見たからといって、わしらの女王と貴様を結婚させるわけにはゆかぬわ。」

 するとすかさずフクロウはいいました。「わたしの夢がほんとうにならぬというなら、夢を見たからといって、あなたがたの王が象を食べるというのは、どういうことですかな。あくまでわたしに親友を食うといわれるなら、わたしも、どうあっても、あなたがたの女王と結婚しますぞ。」

 鬼どもはあきれかえって、なんといっていいやらわかりませんでした。そこで象とフクロウは、無事家にかえりました。

 

 象とフクロウ、鬼の組み合わせが微妙です。


お父さんの遺言・・ウズベキスタン

2024年12月15日 | 昔話(アジア)

   ウズベクのむかしばなし/シェルゾッド・ザヒドフ・編訳 落合かこ ほか訳/新読書社/2000年

 

 余命がないことを悟った一人の男が、三人の息子に、死んだら三日の間、墓でねずのばんができるか たずねました。上の二人は、できないとこたえますが、末の息子は、父親の墓にいき、見張りをはじめました。

 一日目の真夜中、彼の目の前にみごとな鎧と甲を背中につんだ白馬があらわれました。白馬は父親のもので、主のお墓におまいりにきたのです。そして、自分のたてがみの毛を何本か引き抜いて、助けが必要だったら、焼くようにいいました。

 二日目の夜、こんどは黒い馬があらわれ、おなじように、たてがみの毛を何本か抜いて、助けが必要な時、焼くように言いました。

 三日目は、赤茶色の馬があらわれ、四日以降は、もうなにもあらわれませんでした。

 三人兄弟は、牧童としてやとわれましたが、二人の兄が、家畜の群れからいっぴきをぬすんで、かくれて売り飛ばしたので、村からおいだされてしまいました。

 あるとき、兄たちが町へ出かけると、王さまが、「馬かラクダか、またはロバで、あずまやの階段をのぼり、そこに座っている王女の持っているコップの水を飲み、王女の指輪をとることができたものには、王女と結婚させる」というおふれをみました。階段は四十段ありました。たくさんの若者や大人たちがやってみましたが、おおぜいの人がころげおち、おおけがをするばかりで、王女のところへたどりついたものは、ひとりもいませんでした。

 ここから先は、昔話のパターンです。ただ馬が三頭いますから、その出番があります。白馬は、あと二段のところまでで、そのさきにはいけませんでした。赤茶色の馬は、三十九段まで。黒い馬は、王女のところまでのぼり、若者は、王女から水のはいったコップを受け取り、それを飲み干すと、王女の手から、指輪を抜き取りました。

 王さまは、若者をほめたたえ、すぐに結婚式の準備をはじめるよう、大臣に命じました。

 兄さんたちは、若い騎手が弟と知ってびっくりしました。どこで馬を手に入れたかたずねられた末の息子は、父親の遺言どおり、墓で見張りをしていた三日の間に、つぎつぎとあらわれたことを話しました。兄さんたちは、かなしく後悔するばかりでした。

 結びは、「父親のいうことを聞かなかったものは、こうしたかなしい結果になるのです。」

 

 三人兄弟が出てきても、上の二人は、弟に対して悪さをしません。

 さらに、「墓を見守る」、それも一昼夜というのは、日本の昔話にはみられない。


金の魚・・ウズベキスタン

2024年12月08日 | 昔話(アジア)

   ウズベクのむかしばなし/シェルゾッド・ザヒドフ・編訳 落合かこ ほか訳/新読書社/2000年

 おじいさんの漁師が、海に網をうちひきあげてみると、金の魚がかかっていました。領主さまへ知らせたら、ほうびをくれるかもしれないと、おじいさんはでかけました。一方、若い息子は金の魚が網にかかって苦しそうなので、かわいそうになり魚を海にそっと逃がしてやりました。

 領主が兵隊をつれてやってきましたが、金の魚がいないことがわかると、おこりだし、息子の手足を縛って海に流してしまいました。哀れな父親は、息子が、目の前で波にさらわれているのをみて、いじわるな領主をうらんで、うらんで、うらみぬきました。

 若い漁師をのせた小舟は、とある島にながれつきました。ほとんどどうじに、若い漁師にそっくりな若者がでてきました。まるで双子のようでした。このふたりの友だちが島を歩いていると、家畜の番をしている老人にであいました。老人は、「この島をでて、二、三日舟でいくと、ある国がある。そこの王さまの一人娘が、生まれてから一度もしゃべらない。王さまはおふれをだし、お姫さまをなおしたものには、たくさんのほうびと、よめにとらせる。だが、もしなおでなかったら、そのものの首を切る。そういうわけで、失敗した若者の首が、もうゴロゴロと、庭にころがっているしまつだ」と話しました。

 ふたりは、ともかくしあわせをもとめてやってみようと、まず若者が、運試しをし、うまくいったら、褒美は、山分けにすると宮殿にでかけました。

 ゆうかんな若者は、お姫さまのところへのりこむと、ふかくおじぎをして言いました。「三人の兄弟が薪をきりに森へ出かけ、一番上の兄は、木を削り、まるで生きているような きれいな鳥をつくりました。二番目の兄は、森中を駆け回って、非常に珍しい鳥の羽をあつめて、それを木ぼりの鳥にかざりつけました。末っ子はきせきの泉を見つけてきて、きれいにすんだ水にその鳥をひたしてみました。すると鳥は、ほうんとうに命をもって、ひとこえ高く叫ぶと、とんでいってしまいました。とんでいった鳥が、だれのものか喧嘩になり、おわりそうにありません。そこで、こうしてお姫さまのところへまいり、どうしたらよいかうかがいにきたのです。」

 お姫さまは、ほほえみをうかべ若者を見つめましたが、指で自分の舌をさし、首を横にふり、ひとことも発しませんでした。若者は、かっときていいました。「おまえさんのために、死ぬなんて、こうなれやぶれかぶれだ。いっしょに死んでもらうぞ」。若者が剣を大上段にかぶると、びっくりしたお姫さまは、地面にころげおち、助けてと、叫ぼうとしました。すると、そのしゅんかん、しゅるしゅると、お姫さまの口から、真っ白いヘビがでてきたではありませんか。若者がすかさず、長くつのかかとでヘビの頭をふみつぶしてしまいました。お姫さまは、目に涙をうかべて、若者を見つめ、うでわをとって若者にわたし、おれいをいいました。「ありがとう、とてもうれしいわ。お城へいって、父からほうびをもらってください」

 この若者は、金の魚でした。逃がしてくれたお礼に、舟が沈まないよう仲間の魚に声をかけ、自分は人間に変身したのでした。若者は、若い漁師がじぶんのかわりに褒美をもらうようはなし、自分は海へとびこんでいってしまいました。

 やがて、若い漁師が領主のところへいくと、さいしょの約束とはちがって、門は閉じてなかへはいれません。それでも、お姫さものうったえで、ふたりは結婚しましたが、領主はどうやっても自分の婿がすきになれず、どうやっておむこさんをおっぱろうかと、かんがえていました。若い漁師は、自由に息もできない城をでて、ふるさとへかえりたいと、お姫さまに相談すると、お姫さまは、あっさりと、同意します。しかし海をわたる方法がみつかりません。そこで若い漁師のむすこは、海辺にいって金の魚と相談すると、金の魚は、夜にむかえをよこすから、その魚の口にはいりこんで、家にかえるよういいました。むかえの魚というのはクジラでした。クジラは口をしめて海の中へもぐり、朝になると生まれ故郷についていました。

 小さな家のそばには、父の漁師がすわっており、三人はなかよく暮らすことになりました。

 

 ウズベキスタンは人口三千万、六つの独立したトルコ系の国家のひとつ。ウズベク人(総人口の八割強)ほか、タジク人、ロシア人、カザフ人、タタール人などの少数民族から構成されているという。

 主にウズベク語が話されているが、共通語としてロシア語使われている。ウズベク人の多くはイスラム教スンナ派というが、戒律などは緩いようである。


今日の怒りは、明日までがまん・・ウズベキスタン

2024年11月29日 | 昔話(アジア)

    ウズベクのむかしばなし/シェルゾッド・ザヒドフ・編訳 落合かこ ほか訳/新読書社/2000年

 

 妻と息子の三人暮らしの薪売りの男が、市場でお金三枚を手にして かえるとちゅうのことです。
 ひとりの老人が、「お金一枚をくれたら知恵のつく、いい話をしてやるよ」と言いましたので、貧乏な男は、その知恵のつく、いい話とやらを聞きたくなりました。その話にのった男がお金をあげると、「あいよ、それはな、”今日の怒りは明日までがまんせよ”だよと、老人がいったので、男はおこって老人に詰め寄りました。お金を返せと騒いでいると人々がかけよってきました。男が何かあったか訴えているうちに、老人は姿を消してしまいます。

 男はせっかく苦労して稼いだお金が無駄になったと考えながら歩いていると、まったく知らない土地にやってきたことに、きがつきませんでした。その町は、空が低くて手を伸ばせばとどくほどで、どんな星でも手でとれ、ポケットにいれると、それはもう星ではなく、宝石になっていました。男はここが気に入って、故郷の土地も、妻や小さい息子も忘れてしまい、この町で暮らしだしました。

 十五年すぎたころ、男は、妻や息子のことを思い出し、故郷目指して出かけました。男が帰ったのは、夜遅くでした。家のドアの隙間からのぞくと、妻が食卓に向かって、どこのだれか知らない男に夜食を食べさせているではありませんか。男がよくよく見ると、どもぎをぬかれるほど、びっくりさせられました。その男は、薪売りの男とうりふたつでした。旅をして腹をすかしていた男は、夜食を食べている男を殺そうと思いましたが、ここで知恵ものの老人の言葉を思い出しました。
 ”今日の怒りは明日までがまんせよ”。薪売りの男は、屋根にのぼって妻とその男の会話をききだしました。

 その男は、じつは、じぶんの息子。

 

 「話を買う」話は、日本にもありますが、格言?というのは三つ。ウズベキスタン版ではひとつといたってシンプルです。


青いハト

2024年11月20日 | 昔話(アジア)

    ねえねえ、きょうのおはなしは・・/大塚勇三:再話・訳/福音館書店/2024年

 

 大塚氏が朝鮮半島の話として紹介しています。分断されていますが、もともと同一民族。こんご一つになることはあるのでしょうか。

 村のだれよりも貧乏なお百姓が、いく道で、猟をしながら町へ行こうと、弓と十本の矢を作って町をめざしました。野ウサギなどをとったりしてすすんでいくと、いつの間にか六日たちました。矢は二本しか残っていませんでした。

 お百姓は、町までの道はまだ遠いというのに、矢が二本しかなくて、どうなるか心配になりました。木の下でひとやすみしながら、考えていると、ハトのなきさけぶ声がしました。上を見上げると、一羽の青いハトが、巣のまわりをバタバタと、とびまわっていました。一ぴきの大きな蛇が、木の幹をはいあがって、巣の中の小バトをのみこもうとしていました。お百姓がはねおきて、弓に矢をつがえ、キリキリとひきしぼり、ねらいをさだめて矢を放つと、矢はヘビの目にささり、木の下方ドサリと落ちて、死んでしまいました。青いハトは、うれしそうにお百姓の頭の上をぐるぐるとびまわりました。

 夜になってどこか洞穴でもないかとさがしていて、あかりをみつけ、そこへいってみると大きなお寺の前にでました。お寺で、藁の上によこになって寝ていると、へんな夢を見ました。ぱっと目をさますと大きなヘビがからだにまきついてしめころそうとしていました。

 ヘビは、ひるま殺したヘビの夫でした。お百姓が助けてくれるようたのみこむとヘビがいいました。「おれも、まえには人間だった。魔法使いにヘビにされた。でも、もしもちょうど真夜中に、この寺の塔にある、大きなかねを鳴らしたら、魔法はすぐにとける。だから、おまえがきょうの真夜中に、かねを鳴らしてくれたら、お前を許してやろう。だが、ならしそこなってみろ。すぐこの世とおさらばだぞ」

 ヘビの言うことにしたがうことにしたお百姓が、塔のかねをならそうとしますが、その塔はおそろしく高くて、とてものぼりようもありません。はしごひとつないので外側からのぼることもできません。しかもあのヘビが、じっとにらんでいます。おもいついて、一本だけ残った矢をはなって、かねを鳴らそうとしました。矢はビューンと音をてて、とんでいきましたが音はしませんでした。あたりが真っ暗で、よくねらえなかったのです。ヘビがお百姓を殺そうととびつこうとしたとき、ふいに、塔の上から、やっと聞こえるくらいに、かすかなかねの音がひびいてきました。このかねの音を聞くと、ヘビは、たちまちひとりの人にかわってしまいました。

 これで助かったということが、なかなかのみこめないくらいでしたが、それでもお百姓は、藁の上で、ぐっすりねこんでしまいました。やっと目をさまし、お寺を出発し、塔のそばまでくると、青いハトが一羽、地面におちて、死んでいました。p百姓は、自分の命をすくってくれたのがだれかをさとりました。青いハトが、じぶんのやわらかなむねをぶつけて、あのかねの音をひびかせてくれたのです。

 

 動物報恩譚は世界共通です。


床屋とバラモン・・インド

2024年10月10日 | 昔話(アジア)

      語りつぐ人びと*インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年

 

 貧しい床屋とバラモンが、どこかの町で仕事を見つけ金を稼ごうと旅に出ました。どんどん歩いているうちに、深い森にさしかかったところで日が暮れてしまった。「深い森の中を夜、歩くのは無茶だ。けものにおそわれるか、それとも追剥にやられるかのどっちかだ」と、床屋はバラモンをひとりおいて家に帰ってしまいました。

 バラモンは一軒の家を見つけ、今夜はとまって、また仕事をさがそうと、その家に行ってみましたがだれもいません。バラモンが、暗闇の部屋にいると、ライオン、オオカミ、コブラがつぎつぎに入ってきて話をはじめました。バラモンはけもののことばがわかる力を持っていたので、片隅でちいさくなってきいていました。

 ライオンは、「くる日もくる日も小塚の上で張り番ばかり。くたびれちゃったよ。小塚の下には、金と銀の延べ棒が埋めてあるんだが、それをだれかがもっていかない限り、おれはその番をしなきゃならない。その宝は、この国の王さまの先祖がうめたものなんだが、王さまはそれを知らない。もしだれかがそれをもっていってくれれば、おれもらくになるんだが・・・」
 オオカミは、「この国の王子がこの一年ずっとねたきりなんだ。八方手を尽くしても、王子の病気はよくならない。ヤギの肝を食わせればすぐ元気になるんだが。このぶんだと王子は死ぬよりほかない。それを思うと心配で心配で、ほれ、このとおりやせるいっぽうさ。」

 コブラは、「じつは、おれも王さまの先祖が残した宝の番をしているんだ。ところが、王さまはそれを知らない。もし王さまがこのことを知って宝を手に入れたら、おれの役目も終わるんだが・・・」

 この話を聞いたバラモンが、医者に身をやつして王さまの宮殿に出かけましたが・・・。

 

 どこの国にも、けだものの内緒話はあるようです。もちろんバラモンは宝物を手に入れ、バラモンを一人ぼっちにした床屋は、おなじ家に出かけ、命を失ってしまいます。
 床屋がでてくるのは、いかにもインドらしい話。


黄金の値打ち・・インド

2024年10月08日 | 昔話(アジア)

      語りつぐ人びと*インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年

 ご馳走をただでいただく話。

 小さな村にやってきた商人が、地主の旦那のところによばれたと、村びとに自慢話をはじめました。それを聞いた百姓のひとりがいいました。「それがどうだっていうだ。おらがその気になりゃあ、地主のところでたらふくご馳走ぐらい食うのは朝飯前だ」。
 商人が、むっとして、百姓が地主のところでご馳走になるはずはないと、「たぶん、この世じゃむりだな」というと、百姓は勢い込んでいいました。「それじゃあんた、なにをかけるかね?」。

 もし百姓が地主のところでご馳走を食べたら、商人は牝牛を二頭、百姓に買ってやる、そしてもし食べられなかったら、商人の畑をむこう三年間のあいだタダで耕す約束をしました。

 百姓は地主のところに出かけると、「旦那様!おらあないしょで話がしてえだが」「たまごぐれの大きさの黄金の値打ちはいくらだね?」と尋ねました。

 黄金と聞いて、地主の目がかがやきました。「まあ、すわんな。飯を食ってから、その話、ゆっくり聞こうじゃないか」。

 地主は自分と一緒に百姓の分も用意させました。そして食事が終わると百姓に尋ねました。「じゃ、見せてもらおうか。どこにあるんだい。おまえの黄金は? なあに、わしはおまえをだましたしやせん。安心しな」。
 百姓は小さな声でいいました。「おらあ黄金なんてもっちゃいねえだ。おらあ、ただ黄金てえのはいくらぐらいするもんか、聞いてみただけなんで」。
 地主が、「たわけ! とっとうせろ! このまぬけめ!」とどなつけると、百姓はいいました。「ご馳走をしてくれたのは旦那、牝牛を二頭くれるのは商人。旦那が息災なあいだは、おらあ まぬけといわれるすじあいはねえだ」。


遺産、アッパージーの裁き・・インド

2024年10月07日 | 昔話(アジア)

 インドの遺産相続のふたつの話。

・遺産(人になりそこねたロバ/インドの民話/タゴール瑛子:編訳/筑摩少年図書館/1982年)

 インドらしい数のマジックの昔話。単なる勘違いではありません。思わず?。

 三人の息子と十七頭のラクダに囲まれていた老人が、自分が亡くなったらラクダの半分は、長男が、次男は三分の一、三男は九分の一に分けるよう遺言を残して亡くなりました。

 三人兄弟はとても仲良く、近所の評判も上々。ところが遺産分割となると、洋の東西をとわず紛争の種です。

 十七頭のラクダの半分となると、どうしてもうまく分けられません。

 長男は九頭をよこすようにいいますが、弟たちは不公平と文句を言います。それではと長男が八頭をとり、残りはお金に換えて分けようとしますが、こんどは長男がだまっていません。

 一頭のラクダを殺して、父親の供養に親戚にふるまったらどうかという提案も納得されません。言い争いが続いているところにイスラム教の聖者がラクダに乗って通りかかりました。

 聖者は、自分のラクダを差し上げるから、はじめから分けなおすようにいいました。

 兄弟は、いったんは辞退しますが、どうしてもというので、もらったラクダの一頭を加え、全部で十八頭のラクダを遺言どうり分けることにしました。

 長男は十八頭の半分で九頭。

 次男は十八頭の三分の一で六頭。

 三男は十八頭の九分の一で二頭。

  (全部で十七頭!)

 不思議なことに聖者のラクダだけが残ってしまいます。聖者はラクダにまたがって去っていきました。

 

・アッパージーの裁き(語りつぐ人びと*インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年)

 もうすこしシンプルな遺産相続の話。

 四人の兄弟が、17頭のゾウをわけることになって、それぞれ理由をならべて、ゾウをもらおうと話し合いがつづけられますが、どうしても決まりません。そこでアッパージーに決めてもらうことにします。

 アッパージーは、17頭のゾウを一列にならべると、一番大きいゾウの背中にまたがり、のこりのゾウを、みんなでわけるようにいいます。四人はそれぞれ4頭づつのゾウを手に入れ、ここまでは文句がありません。

 アッパージーは、「余計なゾウで、けんかになったら、このゾウは、不吉だ。このゾウをこのままにしておくと、おまえたちの身に何が起こるか、わかったもんじゃない。これを四人の名前で寺に寄進することにしよう。おまえたちの名もあがり、喧嘩もなくなる。そのうえ、功徳が得られるとなれば、これにこしたことはなかろう」と、ゾウに乗って立ち去ります。

 昔話では、遺産相続の仕方も明快です。


王さまの難題・・インド

2024年10月04日 | 昔話(アジア)

      語りつぐ人びと*インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年

 

 王さまが、たいそうな金持ちの商人の財産をとりあげようと、手に入れてきたいものをいいだしました。

 「ひとつはどんどんへっていくもの、二つめは、どんどんふえていくもの、三つめはへりもせずふえもしないもの、最後はへってもまたふえるもの」。

 証文を書き、王さまの頼みごとをもとめるように手配し、八方手をつくしさがしますが、どうしても見あたりません。このままでは、財産は残らず王さまのものになると、すっかり気を落としてしまいました。商人が元気のないことを見た女房がわけを尋ねますが、商人はなにもいいません。女房がしつっこく尋ねると、とうとう商人はわけを話して聞かせました。話を聞くなり女房は、「そんなものだったら、あたしがお嫁にきたとき里からもってきたわよ。いまもちゃんとしまってあるわ」といい、「城にいって、おもとめになった四つのものは、女房が持っています。」というように商人にいいました。

 王さまは、女房をよぼうとしますが、女房は、信用のおける召使をよこし、召使からお妃、お妃から王さまに四つのものをわたそうとします。使いの者からそれを聞いた王さまは、それに耳を貸さず、また使いをだしました。同じことを四度目繰り返すと、商人の女房は、お盆に、牛乳のはいった器を一つ、ヒヨコ豆を一粒、ヤハズエンドウ豆を一粒、草を一本のせて宮廷に出かけました。

 こたえは、器に入ったものかと思うと・・。商人の女房のいうことには!

 へりつづけるものは、寿命

 ふえつづけるものは、人間の欲望

 へりもせずふえもしないものは、人の運命

 へってもまたふえるものは自然

 それでは、器に入ったものの意味は?

 「あなたにおつかえするものたちは、ロバか馬のいずれかでございます。大店の女房を人前によびだすことになっても、それをとめようとしないのは、畜生でございます。だからロバや馬が大好きなものを、こうして持ってまいったのです。それから王さま、あなたがご自分を子どもであると思いなら、その牛乳をお飲みくださいませ。もしわたしたちの王さまであるとおっしゃるなら、なにももうしあげることはございません」


大きな宝石を失った王さま・・チベット

2024年06月25日 | 昔話(アジア)

      チベットの昔話/アルバート・L・シェルトン 西村正身・訳/青土社/2021年

 

 <月すら見えないときに泥棒はヤクの子を盗む・・チベットのことわざ>

 むかし、大きなダイヤモンドをもっている王さまが、太陽の光にきらめいているのをみて楽しんでいた。不誠実な召使が、王さまから、疑いの目を向けられることのないように宝石を盗んでやろうと策をねった。

 王さまがいつものように宝石を外に持ち出し、離れたところにおいてみると、それはきらきら輝いていたが、そのきらめきがだんだんと弱くなっていき、ついには王さまの目の前で消えてしまった。王さまと召使がさがしまわったが、みつけることができなかった。こうして王さまは、かけがえのない宝石を失ってしまったのだ。

 召使たちが、王さまの目を欺くために氷を使っていたからである。王さまの目の前で消えたので、誰一人責任を問われることがなかった。

 

  <ところで、氷の調達は?>


三キロの銀塊はだれのものか・・チベット

2024年06月22日 | 昔話(アジア)

      チベットの昔話/アルバート・L・シェルトン 西村正身・訳/青土社/2021年

 

 目の見えない年老いた木こりの世話をよくしていた孝行息子が、薪を背負って険しい山道をくだっているとき、小さな皮の袋を見つけた。中には三百グラムの銀塊が十個はいっていた。それは莫大な財産で、彼と父親が残りの生涯を安楽に暮らせるほどのものであった。

 父親に、「誰にも言わないでおこう」というと、父親は、正直でなければならないと、村長に銀塊のことを話すようにいいます。

 ある日のこと、ひとりの男が銀塊の入った袋をなくしたと、役人にいいました。すぐに見つけてやれるとおもった役人は、礼の若者に袋を持ってくるようにいいました。あまりに簡単に銀塊の入った袋が見つかりそうだと思った男は、袋には二十個入っていたのであって、若者が十個盗んだと役人に申し立てた。村長は、召使いに、父親の話を聞き、なんていったかを聞かせてくれといいました。

 さて、召使は、父親の言うことは若者とおなじでしたと報告しました。銀塊に難癖つけた男は、十個だけでなくもう十個余計に手にはいるとわくわくしていましたが、役人がいったのはこうでした。

 「この袋はあなたのものではありません。あなたのは二十個入っていたものであり、これには十個しか入っていませんから、ご自分のものは、どこかほかのところで探してください。これは年老いた父親を支える手助けとして若者に与えることにします。」

 

 正直者には、福きたるの典型でしょうか。


頭のいい大工・・チベット

2024年06月19日 | 昔話(アジア)

      チベットの昔話/アルバート・L・シェルトン 西村正身・訳/青土社/2021年

 

 とにかく素晴らしい作品を描く画家、もうひとりは最高の仕事をする大工がいましたが、ふたりはいがみあっていた。

 画家が大工をおとしいれようと、天国から持ち帰ったという手紙を王さまに差し出しました。その手紙は、亡くなった王さまの父からの手紙で、「寺院を立てたいが、こちらには優れた大工がいないので、そなたの町に住む最高の大工を送り届けてほしい。」とありました。大工は、厄介払いをするため画家の思いついたたくらみに違いないと、どうして天国に行くかを画家にたずねました。画家は必要な道具類を地面に積み上げた薪の上に置き、そのうえにすわったら、そのまわりにさらに薪を積み上げて火をつけ、煙にのれば天国にいけるといいました。

 大工は、自分を殺すためのたくらみに違いないと、準備のための七日間のあいだに、家から焼かれる予定の畑までトンネルを掘りました。そして火が燃え上がる瞬間にトンネルにとびこみました。

 大工は三か月間家のなかにこもり、神々が着るような服をつくらせました。そいて、三か月が過ぎると、ユリのような白い肌をして家をあとにし、王さまのところへ出かけました。そして、「寺院が完成したので、こんどは最良の画家を天国に送り届けて、寺院に絵を描いてほしい」という手紙をさしだしました。画家を送り届けるには大工を送り届けたときとおなじやりかたをするようにとありました。大工は王さまに、父上がどんなに豊かな暮らしをしているか、天国でどんなすばらしい体験をしているかを語って聞かせました。

 王さまは画家をよんで、天国へいって絵を描くようにいいました。画家は大工が真っ白な肌をし、見慣れぬ服を身にまとい、首にサンゴのネックレスをかけているのを目にし、一方自分は相も変わらず着古した服を着ているのをみて、大工はほんとうに天国へ行っていたのだと信じるようになりました。

 火が画家に燃え移り、画家が焼け死にそうだと大声で叫びましたが、太鼓やラッパ、シンバルの大きな音で、声がかき消され、画家は本当に天国へ行ってしまいました。

 

 画家は素晴らしい絵を(・・天国か? 地獄か?・・)描き続けているでしょう。