青い花/安房直子・作 南塚直子・絵/小峰書店/2021年
岩崎書店から1983年に刊行された同作を南塚直子が銅版画で全面的に描き直したとありました。
裏通りに「かさのしゅうぜん」という大きな看板がかかった 小さいかさやがありました。
降り続いた雨が、やっとあがると、町中のこわれた傘の修理が、この店に舞い込みました。腕のいい傘屋の若者がいつもの三倍の傘を修理すると、いつになくたくさんのお金が残りました。
屋根の修理、新しいカーテン、油絵具、新しいギターと ほしいものは まだまだたくさんありました。
ほそいほそい雨がふるなか、街に買い物に行く途中、小さい女の子が 垣根にもたれてぽつんとたっているのをみつけました。傘もささずに 遠くを見つめてみていました。
傘のこととなると 人一倍夢中になる若者は、女の子に雨傘をつくってあげようと、傘に貼る布を探します。女の子が選んだのは とても高い値段がついた青いきれでした。
傘ができたら届けてあげようと、家の場所をきくと、女の子は「さっきのまがりかど」でいいといいます。
買い物の目的も忘れ、若者は、夜遅くまでかかって雨傘をつくりました。
「海の色に にているわ」水色の服の女の子は傘をさしてかえっていきました。
それから不思議なことがおこります。たくさんの女の子が青い雨傘をもとめてきたのです。その日から若者は眠る暇もないくらい青い傘をつくりつづけます。お客があとからあとからやってきて、十日もたたないうちに 若者は たいへんな お金持ちになりました。
新聞の記事にもなって青い傘を求める人がたえません。そのうち傘の修繕をことわるようになります。前に修繕を頼んだ人が、傘を取りに来ても壊れた傘は ひとつも直っていませんでした。
ところが、ある日、とつぜん 青い傘が見向きもされない日がやってきます。新聞に「雨の日には レモン色のかさをさしましょう。 ○○デパート」という広告がのったからでした。
裏通りの小さなかさやにやってくる人は、だあれもいなくなります。ほそい雨がふっていた日、店に 雨に濡れた小さいお客がやってきました。「あたしのかさ なおっていますか」といわれても、はじめは気がつきませんでしたが、さいしょに青い布をえらんだ女の子でした。
その夜、女の子の青い傘をていねいになおし、若者が 前のところへいくと水色の洋服がみえてきました。若者が雨の中を一目散にかけだし ちかづいてみると そこには だあれもいませんでした。曲がり角の 低い垣根には、いつの間にか、あじさいに花がまるで、大きな青いまりのように咲いて、雨にぬれていました。
安房作品にはかかせない小さなお店、職人、そして花。
お金持ちになって、いつのまにか傲慢になっていた若者におとずれた寂しさ。忘れてしまっていた大事なことに気がついた若者でした。
紫陽花の花言葉のひとつは「移り気」。町中の傘が、青からレモン色に変わるのに どきっとしました。
梅雨の時期に読みたい作品です。