(鳥取)<地方を生きる> 介護疲れに助け舟
2010年6月4日 提供:読売新聞
「お父さんを預かってもらえんでしょうか」
国保日南病院(鳥取県日南町)の往診先である板本ヤス子さん(70)から入院の依頼の電話があったのは昨年4月だった。
ヤス子さんの夫、清雪さん(71)は20年前に脳梗塞(こうそく)で倒れ、寝たきりが続く。ひとりではトイレにも行けず、腸につながるチューブで流動食を流し込む。
ところが、介護するヤス子さんの方にも、米子市の鳥取大病院に入院する必要が出た。心臓病の手術のためだった。
電話を受け、日南病院のケアマネジャー、田辺妙子さん(57)が動いた。病院の車もよこし、清雪さんを11日間入院させた。
スムーズに受け入れられたのは、病院のベッド管理の方針による。ヤス子さんのように介護者が家を空けざるを得ない時や介護に疲れた時のため、空きベッド5床を常に用意している。
経営を考えると、ベッドは満床にする方がいい。が、「老老介護」が珍しくない町の現状を知る高見徹院長(61)は言う。
「往診の時、家の人が疲れていないかも診る。いつもと違うなと思うと、患者さんを病院で預かるから、その間、休んで下さいって声をかけます」
空きベッドは、「共倒れ」の悲劇を防ぐ安全弁なのだ。ヤス子さんは「私の都合で入院させてくれて」と感謝する。
空きベッドを生み出すために取り組むのは、入院日数の短縮だ。毎週月曜日、病院の隣の町健康福祉センターでケース検討会を開き、病状が落ち着いた入院患者の在宅復帰を準備する。
集まるのは主治医や看護師ら病院のスタッフだけではない。町の介護担当職員、福祉法人のヘルパーら約20人に及ぶ。
「1週間おきにショートステイを利用しては」「家の中の段差に注意してあげないと」
それぞれの立場から、患者の状態を踏まえ、退院後の支援について意見を交わす。たんの吸引や食事の補助など介護の方法を家族に教えることもある。
日南病院の平均入院日数は15・9日。全国平均より2・9日短い。小さくとも、病院外の人たちとの地道な連携の成果である。
<メモ>
在宅支援 施行10年の介護保険制度は、長期入院患者を減らし、在宅介護を促す狙いもあった。在宅介護を支援する方法は、各市町村の地域包括支援センターが医療、福祉、保健を総合的に考える。09年4月末現在、全国の要介護・要支援認定者数は469万人。