リスク取り受け入れる 「これは国難、断らない」 「ルポ」愛知の民間病院
2021年1月28日 (木)配信共同通信社
「これから何人来る? 入った時点で何人空いてる?」
「もう1人来ます。それで1床空きですね」
新型コロナウイルスの感染「第3波」を受け、昨年12月に入院患者の受け入れを始めた愛知県大口町の「さくら総合病院」(390床)。小林豊(こばやし・ゆたか)院長(47)が病床の空き具合を冷静な口調で確認する。返答した看護師が新しい配置をホワイトボードに書き込むと、ナースステーションの空気がぴんと張り詰めた。
病床逼迫(ひっぱく)で民間の入院受け入れの是非が議論される中、コロナ病床は満床状態で回転している。1月26日午後、新たに患者3人が入院し、20床のうち19床が埋まった。
「風評被害や院内感染、さまざまなリスクを取っている。相当頑張らないと民間での受け入れは厳しい」。小林院長はスマートフォンを取り出し、グループチャットに「19/20」と書き込んだ。
チャットで地域の公立、民間の6病院と入院情報を共有する。「うちだけ少ないと(新規入院患者を)取らなきゃと思うし、周りも少なければそういう状況なんだと思える」。枠を超過している病院には「引き取ろうか」と声を掛ける。
「断らない医療」が病院の理念。昨年11月に一般病棟の一部をコロナ病床に転換する決断をした。「1年も続く国難とも言える事態。手を挙げずにはいられなかった」。当初準備した10床は10日ほどで満床になり、すぐに倍増したと振り返る。
午後6時。カーテンで狭く仕切られた区域で帽子や手袋、防護ガウンを身に着け、慌ただしく回診に出た。この日入院した名古屋市の90代女性は全身の倦怠(けんたい)感が強く、ぐったりしている。「頑張っていきましょう」と声を掛け、年齢や食欲を考慮。点滴と抗ウイルス薬「レムデシビル」の投与を決めた。
公立に比べ、人材が不足し、診療報酬や助成金の使途が限られることが受け入れの壁だ。病院ではコロナ病棟に医師2人と看護師13人を充て、清掃も看護師が担う。コロナ患者受け入れが知られるようになり、外科外来は来院しなくて済む電話の再診が増えた。当然、診療報酬は対面診療より低い。
「今は理念やスピリットで埋め合わせをしているが、経営もシフトも無理をしないと患者を受け入れられない。病床を増やせと言うなら相応の穴埋めをしてほしい」
回診を終えたころ、車いすに乗った60代女性が約20キロ離れた県西部から運ばれてきた。ビニールのカーテン越しに荷物が看護師に手渡される。飛沫(ひまつ)を防ぐこのカーテンも、職員が半日がかりで自作したものだ。
名古屋市では自宅療養中だった高齢者が容体の急変で死亡した事例も発生した。「遠方の消防局がこの病院まではるばる搬送してくる。平時ではない。医療崩壊そのものだ」