第5波に島根県西部の医療現場危機感 「現場はぎりぎり」
今春の新型コロナウイルス感染拡大第4波で、クラスター(感染者集団)が頻発した島根県益田圏域の益田赤十字病院(益田市乙吉町)が感染者受け入れのため100床もの一般病床閉鎖に追い込まれていたことが6日、分かった。益田圏域の感染者を受け入れた浜田医療センター(浜田市浅井町)でも病床使用率が一時90%を超していた。
多発した感染者は全県的にカバーしていたが、態勢が脆弱(ぜいじゃく)な県西部の医療現場が窮地に立たされていたことが浮き彫りになった。
益田圏域(益田市、津和野町、吉賀町)では5月の大型連休明けから新規感染者が増え、13日以降、高齢者がよく使うカラオケ喫茶などで3件のクラスターが発生。5月の感染者数は60人を超えた。
益田赤十字病院では、もともと新型コロナ専用病床は、5階西病棟の一角の6床のみ。感染者急増に合わせ、17日には5階西病棟を丸ごと専用病床に転換し計48床を確保する一方、対応する医療スタッフ確保のため、病院全体の3分の1に当たる計100床の一般病床の閉鎖を迫られた。
一部患者には急きょ転院してもらい、整形外科やがんなどの手術を大幅に制限。救急患者の受け入れも、山口県や浜田市からの搬送は断る対応を取らざるを得なかった。受け入れた新型コロナ患者は一時20人を超したといい、新型コロナ対応の指揮を執る岡本栄祐総合診療科部長(46)は「あと2週間続いていたら、益田の地域医療は崩壊していた」と語る。
医療現場の窮状は浜田や江津、大田各市の病院にも及んだ。浜田医療センターは、5月中旬に専用病床19床のうち、18床が埋まり、病床使用率が90%を超した。一歩違えば患者があふれた状況に、飯田博院長は「現場は本当にぎりぎりだった」と強調する。
益田圏域で多発した感染者には県東部の医療機関も対応。島根大医学部付属病院や県立中央病院(ともに出雲市)が重症患者を受け持つ態勢を取り、県西部の脆弱な医療提供態勢を県全域でカバーした。県を中心とした入院の広域調整がうまく機能した格好だ。
一方、全域で対応するがゆえに医療現場からは「個々の病院の窮状が住民には伝わりにくい」との声が上がる。病床使用率などひっ迫の度合いを示す指標について、県は県全体の数値は公表するものの、各圏域や病院の状況を明かしていないことも一因だ。患者の特定を防ぐためという。
ただ、感染拡大やクラスターを防ぐには、状況に応じた危機意識の醸成が欠かせない。益田赤十字病院の岡本部長は「医療崩壊の寸前だった状況は、本当に伝わっていたのか。第5波は必ず来る。住民一人一人の行動が非常に重要になる」と指摘する。
(勝部浩文)