新型コロナ オミクロン感染細胞、融合しにくく 重症化リスク低く 体内での広がり、限定か
2022年1月8日 (土)配信毎日新聞社
国内各地で市中感染が相次ぐ新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」は、昨年夏に感染拡大の第5波をもたらしたデルタ株に比べ、重症化しにくい可能性が高まっている。ワクチンの効果なのか、それとも別の原因があるのか。細胞実験などでウイルスの特性に迫る最新の研究から、謎の一端が見えてきた。
英国の研究チームがオミクロン株感染者約5万6000人をデルタ株の26万9000人と比較した結果、オミクロン株の場合は1晩以上入院するリスクが40~45%低かった。世界保健機関(WHO)の幹部は4日、デルタ株に比べオミクロン株は重症化リスクが低いとの見解を示した。
この差はどこから来るのか。新型コロナウイルスは表面にある突起状の「スパイクたんぱく質」がヒトの細胞表面の受容体「ACE2」に結合して感染する。感染した細胞が他の正常な細胞に融合することで体内で広がり、融合した細胞同士が大きな塊になると、臓器の損傷など重篤な症状に結びつきやすいと考えられている。
東京大医科学研究所を中心に新型コロナを研究する日本の研究チーム「G2P―Japan」は昨年12月、プレプリント(査読前論文)を相次いで発表した。それによると、オミクロン株はこの「融合しやすさ」がデルタ株と比べて低いという。
チームはオミクロン株とデルタ株の違いを調べるため、ヒト由来の培養細胞を感染させ、周囲の正常な細胞への融合しやすさを比較した。その結果、オミクロン株の場合はデルタ株の数分の1だった。
デルタ株のスパイクたんぱく質には「P681R」という変異があり融合しやすくなっているとみられるが、オミクロン株にはこの変異がない。チームの斉藤暁・宮崎大准教授(ウイルス学)は「オミクロン株は感染する細胞を『えり好み』する特性があり、広がりが限定されている可能性がある」と指摘する。
さらにチームは、ハムスターにウイルスを感染させて実験。オミクロン株は感染後5日までの時点で、デルタ株などの従来株に比べ肺の細胞への感染が限定的で、肺機能の低下が見られず、体重も減らなかった。チームは「他の変異株に比べると、重症化しにくいと考えられる」と分析した。
◇患者増なら医療逼迫も
一方、気がかりな特徴もある。ワクチンを2回接種した人の血液を調べたところ、接種から6カ月たつとオミクロン株に対する抗体の効果を表す「中和活性」の値が目立って低下する可能性が明らかになった。3回目の接種で数値は再び上昇し、再感染を防ぐ「ブースター接種」の効果はあると考えられるが、どの程度持続するかは不明という。
チームの池田輝政・熊本大准教授(ウイルス学)は「オミクロン株は免疫から逃れる能力が高くなっている。(たとえ重症化リスクが低くても)感染者が増えれば相対的に重症者も増え、医療逼迫(ひっぱく)が起きる懸念がある。今後の新たな変異で増殖力や病原性が強まる可能性も否定できず、引き続き注意が必要だ」と話した。【岩崎歩】