過去にない感染 経済影響大きい…まん延防止 要請悩む
2022年1月14日 (金)配信読売新聞
新型コロナウイルスの感染再拡大に対し、「まん延防止等重点措置」の適用要請に踏み切るかの判断が自治体で分かれている。政府が定める警戒度のレベルで、重点措置が適用できる5段階(0~4)の「2」が増えているが、熊本県などが適用の検討を始めたのに対し、慎重姿勢の自治体も少なくない。変異株「オミクロン株」のリスク評価の難しさが背景にある。
早めの対策
「明らかな感染拡大傾向がみられる」。熊本県の蒲島郁夫知事は12日に臨時記者会見を開き、警戒レベルを「1」から「2」に引き上げ、国への重点措置適用の要請を検討していることを明らかにした。
同日時点の県内の直近1週間の新規感染者数(人口10万人あたり)は31人。同県がレベル2への引き上げ基準の一つとする「10人」を大きく上回っている。政府は警戒度のレベル2~3で重点措置を適用できるとしており、感染拡大のペースもこれまで以上に速いことから、早め早めの対策が必要になるとの判断だ。
ただ、現状の深刻さについては「新規感染者数は全国の中ぐらい」とも述べた。レベル1の福岡県とも大きな差はなく、実際に適用を要請するかには「九州各県と調整を行いながら検討したい」と、迷いを見せた。
適用3県のみ
5段階のレベルは昨年11月、第5波まで用いられた「ステージ」による評価が、ワクチンの普及で実情に合わなくなったために導入された。重症化率が下がり、人口10万人あたりの感染者数が、4段階で最も深刻な「ステージ4」(25人以上)になっても、医療が逼迫するとは限らなくなったからだ。
レベルは主に医療提供体制の状況に基づいて各都道府県が判断する。どのような状況を「2」とするかの基準は都道府県によって異なるが、内閣官房によると、12日時点で「2」は、群馬、千葉、神奈川、滋賀、大阪、広島、山口、沖縄など少なくとも18府県。大都市圏の東京、愛知、福岡の3都県は「1」となっている。
ただし、レベル「2」の自治体のうち、重点措置が適用されているのは沖縄、広島、山口の3県だけだ。年明けに「米軍基地」に由来するとされる感染拡大が顕著となり、今月9日に全国に先駆けて適用された。
このうち最も状況が深刻な沖縄県は、現在、直近1週間の新規感染者数(人口10万人あたり)が605人(12日時点)と過去にない水準となった。医療従事者への感染拡大で一部の病院で診療制限が行われるような状況に陥っている。ただ重症者は、まだいないという。
「状況見極める」
こうした状況下で3県に追随し、飲食店への時短要請を伴う重点措置の適用を求めるか、自治体は難しい判断を迫られている。
滋賀県は病床使用率が44%(同)で沖縄に匹敵する状況だが、「病床使用率が高いのは積極的に入院させているためで、重症者はゼロ。医療現場は逼迫していない」としており、重点措置についても「経済への影響も大きい」と慎重だ。関東で比較的病床使用率が高い群馬県も「今は感染状況を見極めたい」とする。
大都市圏でも現在レベル1の東京都が13日、重点措置を要請する際の基準を示したのに対し、既に2に移行している大阪府は、基準となる感染者数などは示していない。大阪府の吉村洋文知事は「病床の逼迫状況や、重要なライフラインが一部機能停止する可能性なども頭に入れて判断する」としている。
二木芳人・昭和大客員教授(感染症学)の話「オミクロン株はこれまでの変異株と重症化リスクなどが大きく異なり、従来を踏襲した対策は難しい。状況によっては経済活動の制限が必要になるだろうが、各自治体は地域の医療体制を踏まえ、住民に納得してもらえるよう丁寧に説明していく必要がある」