「便失禁」電気刺激で治療、福井県済生会病院が実施 生活の質大きく改善「日常に支障ある人は相談を」
本人の意思に反して大便が漏れてしまう「便失禁」。命に関わらないものの、知らないうちに下着が汚れていたり、便意を感じた時にトイレまで間に合わずに漏らしたりと生活の質が著しく低下する。福井県済生会病院(福井県福井市)は、体内に埋め込んだ装置による電気刺激で症状を改善する「仙骨神経刺激療法」(SNM)を県内で唯一行っている。担当する高嶋吉浩外科部長は「生活の質が相当良くなる。悩んでいる人は相談してほしい」と呼びかける。
便失禁の原因は、加齢による肛門括約筋の機能低下、出産や外傷による肛門括約筋の損傷などさまざま。軽度を含めれば、国内の患者は約500万人といわれる。羞恥心から受診をためらい、治療を受けていない人も多い。
便失禁の治療はまず、保存的療法から始める。括約筋を鍛えるトレーニングや内服で便を硬くする、定期的な排便習慣の指導などで症状の改善を目指す。
それでも症状が改善しない場合に外科的治療を行う。損傷した括約筋の修復や人工肛門造設などがあり、現在主流になっているのがSNM。治療ではまず、リード線を体内に埋め込み、体外の装置に接続。約2週間、試験的に電気を流して骨盤にある仙骨神経を刺激して効果があるか確認。症状が改善していれば、刺激用装置を腰のあたりの皮膚の下に埋め込む。刺激の強さは専用の機器を使って体外から調整できる。装置の電池は約5年ごとに交換する。外科手術だが、体への負担や傷跡は比較的小さく、日常生活でも特に支障はない。健康保険適用になっている。
高嶋医師によると、同病院でSNMを行った高齢女性は、便失禁の頻度が、術前は2週間で16回だったが、術後は2週間で3回と大きく減った。買い物中の便漏れもなくなり、日常生活が快適になったという。
日本での臨床試験では、刺激用装置を埋め込んだ21人のうち18人で便失禁の頻度が半分以下になり、4人は完治したという。高嶋医師は「便失禁が1日1回以上あり、日常生活に支障をきたしている人は、SNMを選択肢にしてほしい」と話していた。
便失禁 便意を感じず、気付かないうちに便が漏れる「漏出性」、便意はあるが、トイレまで我慢できずに移動中に漏れてしまう「切迫性」、これら両方の「混合型」がある。