Graduation(卒業)
伊藤成平さんによるエッセイGraduation(卒業)です。
日本と違ってアメリカでは6月は卒業式のシーズンである。日本の場合、卒業式は3月に行われ、4月は入学式と続く。桜の季節の入学式も情緒があってよいものだが、高校を卒業してすぐ大学の入学式となると何かと慌ただしい。地方の高校を卒業して大都市の大学入学ともなると寮の手配、下宿の手配、学業の準備、通学手配と学生たちはスケジュールに追われる。つまり余裕がないのだ。
アメリカの高校では6月に卒業式が行われ、9月から大学生活が始まるのでその年の夏は人生の最も楽しい希望に満ちた2か月余りの期間となる。
卒業式の前に最後の学年で開催されるプロム(Prom)というイベントがある。単なるダンスパーティーではなく女生徒は当日着て行くドレスを数か月前から準備する。男子生徒はタキシードが原則。当日誰に自分のパートナーになってもらうかは重要なので同級生、下級生、先輩、クラブ活動での知り合いの中から数か月前から連絡をして決める。遠方からパートナーを呼ぶ場合もある。
カリフォルニアの高校の卒業式は初夏の強い陽ざしの屋外で行われるのが普通だ。卒業生の数が少ない高校では体育館などの屋内で開催される場合もあるが父兄の同伴が普通なので300人の卒業生がいれば1000人近い参列者の卒業式となる。日本では大学の入学式に父兄が参列するがアメリカでは入学式でなく父兄は卒業式に参列する。
(どこの大学に入学したかよりもそこを卒業したかが問われる影響かもしれない)
教師、学校関係者は特設テントの日陰があるが、卒業生、父兄たちには木陰がない。
式はまず在校生のバンドが演奏する曲とともに卒業生の行進(procession)で始まる。普段はラフな格好で授業を受けていた生徒達もこの日ばかりは学校側の提供するガウンと帽子を被って整然と行進する。(ガウンの下は普段着も多い、またガウンはほとんどはレンタルだ。)着席が完了すると学校によって異なるがキリスト教関係の学校の場合は牧師の祈り(invocation),そのあとに校長の挨拶(salutation)がある。宗教的な祈りはキリスト教徒は起立するが、ユダヤ教やイスラム教関係者は座ったままである。
その後、成績優秀者の発表、さらに卒業生代表の別れの言葉(valediction)と続く。これは卒業生の答辞に相当するが、在校生からの送辞はないのが普通だ。
卒業生への証書授与は一人一人の姓名が読み上げられる。檀上で証書を授与され校長と一緒に写真に納まる。卒業生が500人もいるとこの授与式は数時間かかる。校長もさぞスマイル疲れだろう。姓はアルファベット順に名前が呼ばれるので父兄たちは子供たちの順番がいつ来るか予測できるので檀上の近くに移動し、スマホを構える。学校によっては大型スクリーンで遠方の父兄にも我が子が証書を受け取るシーンを映す所もある。
宗教と関係のない学校でも式次第にはかなり宗教的な色彩を持ったものが多い。これは中世の昔から学問が僧侶や牧師により伝承されてきた伝統によるものだろう。教会は学問の場でもあったのだ。日本の寺子屋と一脈通じるものがある。
式の終わりは角帽を一斉に空に放り投げる。厳粛な卒業式がこの帽子投げで一転し、華やかな解放感に包まれた騒々しい雰囲気に変わる。友人同士で抱き合うもの、写真を撮りあうもの、家族と記念写真を撮るもの、さまざまである。士官学校の伝統に由来するこの帽子投げはいまでは日本の防衛大の恒例にもなった。角帽は字句通りsquare academic capsといわれるがmortarboard capsと呼ぶ人もいる。あの形が左官工事に使うモルタルを塗る道具に似ていることからきているらしい。角帽にはtasselと呼ぶ飾り房がついているが、このつけ方や色も様々な種類があり意味がある。
公立高校の卒業生はその後、カレッジに進学するか、職業専門学校(trade school)へ入学する。アメリカには数千の大学があるので選択には困らないが手に職を持ちたい学生はコンピュータ学校、自動車整備学校、歯科衛生士学校、介護学校などありとあらゆる職業に就く為の専門技術を教える学校に進む。そこを終了して職業に就くのが殆どだが、さらに勉強を続けたい学生はユニバーシティーに転学する。
私立高校の卒業生は東部のアイビー・リーグと呼ばれる有名私立大学へ進学する。(ハーバードとかイェールなど)学業成績が良くなければ入学できない。アイビー・リーグへの入学許可率は応募者数全体の5~10%が平均値である。有名私立高校からアイビー・リーグに進学する生徒は全部で50名程度である。
東部の大学への進学は授業料や寮費をあわせて年間5万~7万ドル程度が必要となる。医学部では10万ドル以上だ。富裕層でなければ入学出来ないが奨学金制度(scholarship)やグラントが多くあり、国によるもの、州によるもの、企業によるもの、財団によるものと多様だが多くの学生が返済を要する奨学金をローンせざるを得ない。アメリカ全体で奨学金の返済延滞額は1兆ドルを超えている。大きな社会問題となっている。
カリフォルニア州にはアイビーリーグと同等、有名な州立大学や私立大学がある。
Stanford, USC, Caltechは私立だが州立大学University of Californiaは州全体で分校が10もあり、州の発展とともに大学の地位もアイビー・リーグに負けないようになった。
(州立大学が日本での国立大学に相当すると思えばよい)
学業だけでなくスポーツや部活動の成績もアメリカでは重要である。入学試験の結果だけがモノを言う日本とは異なる。
いずれにせよ9月まで残りの青春を満喫し、新年度からは厳しい学生生活が待っている。
希望に満ちた若人の将来が幸ある人生であることを祈らずにはいられない。
執筆者:伊藤 成平(日米ビジネスコンサルタント/視察コーディネーター)
米国企業視察・農業、自動車、金融、バイオ、建設、設計、教育、エネルギー、環境、情報、流通、物流、福祉すべての業態の通訳経験
HP:https://blogs.yahoo.co.jp/honyakuusa/folder/1009188.html