<ステーキプランの宿(1)>
「ゆ華(ゆばな)」と書かれた洒落た暖簾が風にゆれている。
ほぉ・・・口能登にある「ちりはまホテルゆ華」・・・なかなか立派な建物である。
入り口を抜け、右手のフロントに進む。
「いらっしゃいませ」
「あのぉー、本日、宿泊のものなんですが、早く着きすぎちゃって・・・」
「申し訳ございません。当館のチェックインは午後三時となっておりますので、ちょっと・・・」
フロント係りは後ろの壁に掛かった時計を見あげる。
まだ午後一時半前である。
「・・・ですよね」
「よろしかったら近辺の地図を差し上げますので、観光をなさったらいかがでしょう」
今朝は三時起きで横浜からひたすら走りとおしてきたのだ。走行距離、約五百五十キロというと横浜から大阪くらいである。昼食をとったせいか覿面に眠いので、ハンドルを握らないほうが良さそうだ。
千里浜もさっき観光した。気多大社には魅かれるが、いまひとつ気力がない。
「ロビーで待たせてもらってよろしいでしょうか」
「もちろん、けっこうです」
車に戻り、文庫本を持ってロビーの隅に陣取り、待機の態勢にはいった。
二時ごろに家族連れが到着したが、フロントで同じような応酬があり車に戻って渋々観光に行ったようだ。
文庫本を読んだり、うとうとしていたり、無料の珈琲を飲んだりするうちに一時間が経つと、茶菓が運ばれてきた。どうやらあともうすこしのようだ。
三時になるだいぶまえにチェックイン、部屋の鍵を受け取ってエレベータで二階に登る。
(広い・・・、なかなか綺麗な部屋である)
ツインのシングルユーズは嬉しい。
ベランダに出てみると、さきほど座っていたロビーが見えた。
さっそく、片一方の使わないベッドに脱ぎ散らかして浴衣に着替える。
まずは温泉だ。
平成五年、敷地の直下千三百メートル、中生代の地層から湧き出た天然温泉で、千里浜周辺に「はまなす」の花が群生していたことから「はまなす温泉」と名付けられた。
肌になじみ美肌になるという湯は透明な茶褐色、琥珀を思わせる湯にグレーの湯の華と気泡が浮かぶ。
独り占めでたっぷりと入浴を楽しむ。
浴槽のなかで肩や腕の筋をぐるぐる廻して伸ばす。長時間の運転で固まったあちこちの筋肉が、みるみるほどけていくようだ。
部屋に戻ったら軽く一杯呑んで昼寝を決め込むことにする。
― 続く ―
→「渚を走ったあとの冷めん」の記事はこちら
「ゆ華(ゆばな)」と書かれた洒落た暖簾が風にゆれている。
ほぉ・・・口能登にある「ちりはまホテルゆ華」・・・なかなか立派な建物である。
入り口を抜け、右手のフロントに進む。
「いらっしゃいませ」
「あのぉー、本日、宿泊のものなんですが、早く着きすぎちゃって・・・」
「申し訳ございません。当館のチェックインは午後三時となっておりますので、ちょっと・・・」
フロント係りは後ろの壁に掛かった時計を見あげる。
まだ午後一時半前である。
「・・・ですよね」
「よろしかったら近辺の地図を差し上げますので、観光をなさったらいかがでしょう」
今朝は三時起きで横浜からひたすら走りとおしてきたのだ。走行距離、約五百五十キロというと横浜から大阪くらいである。昼食をとったせいか覿面に眠いので、ハンドルを握らないほうが良さそうだ。
千里浜もさっき観光した。気多大社には魅かれるが、いまひとつ気力がない。
「ロビーで待たせてもらってよろしいでしょうか」
「もちろん、けっこうです」
車に戻り、文庫本を持ってロビーの隅に陣取り、待機の態勢にはいった。
二時ごろに家族連れが到着したが、フロントで同じような応酬があり車に戻って渋々観光に行ったようだ。
文庫本を読んだり、うとうとしていたり、無料の珈琲を飲んだりするうちに一時間が経つと、茶菓が運ばれてきた。どうやらあともうすこしのようだ。
三時になるだいぶまえにチェックイン、部屋の鍵を受け取ってエレベータで二階に登る。
(広い・・・、なかなか綺麗な部屋である)
ツインのシングルユーズは嬉しい。
ベランダに出てみると、さきほど座っていたロビーが見えた。
さっそく、片一方の使わないベッドに脱ぎ散らかして浴衣に着替える。
まずは温泉だ。
平成五年、敷地の直下千三百メートル、中生代の地層から湧き出た天然温泉で、千里浜周辺に「はまなす」の花が群生していたことから「はまなす温泉」と名付けられた。
肌になじみ美肌になるという湯は透明な茶褐色、琥珀を思わせる湯にグレーの湯の華と気泡が浮かぶ。
独り占めでたっぷりと入浴を楽しむ。
浴槽のなかで肩や腕の筋をぐるぐる廻して伸ばす。長時間の運転で固まったあちこちの筋肉が、みるみるほどけていくようだ。
部屋に戻ったら軽く一杯呑んで昼寝を決め込むことにする。
― 続く ―
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