<品川で、田舎>
門前仲町の立ち食い蕎麦屋を、週に二度くらい朝に利用する。夏場の暑いときだけは冷やしたぬき、それ以外は掻き揚げそば一本と決めている。

チープな蕎麦もつゆも、冷えた掻き揚げも、承知のうえで食べれば値段それなりに旨い。それを、後ろを通る通勤している同僚たちに暖簾越しに目撃されているはずだ。

わたしは自称「蕎麦通」なのだが、「けっ、立ち食い蕎麦好きがなにをいってやがる」と思われるに百パー決まっているので蕎麦の蘊蓄話は絶対しないのだ。
このあいだ旅したとき、福井の森六でひさしぶりに旨い蕎麦を食ったせいか、ここのところ猛烈に蕎麦が食いたい。それも、森六の越前そばに匹敵するくらいのを。
都内で、どこかなかったか。
深く深く、沈思黙考する。
近くは森下の京金、都内あちこちの藪、砂場、更科、どれも上品すぎて野性味が足らない。秩父の「こいけ」の田舎そばみたいなのなら「森六」に太刀打ちできるのだが・・・秩父はちょいと遠いしなあ・・・。
そうだ、あったぞ。
北品川にある「しながわ翁」なら、ぴったりではないか。伝説の蕎麦打ち名人高橋邦弘氏の薫陶をうけた高弟が出した店である。いずれ行ってみようと思いながら、まだ行っていないから丁度いい。
ネットで調べると、田舎そばのメニューもある。
店の所在地の地図を頭に叩き込み、出かけてみた。

京急の北品川駅で降り、線路を渡って旧東海道に出たら品川方向へ戻り、一つ目の角を右折してあとは道なりに真っ直ぐ歩けばいい。
遠くから歩道に行列ができているのが見えた。
まさしく、そこが「しながわ翁」であった。

行列の後ろに並ぶ。五分ほどで、店の前の路に四つほど置いてある椅子席に座れた。

視線の先に、メニューがある。日本酒も置いてあるようだ。冷酒は高め、燗酒が安い。蕎麦屋に酒はつきもの、まだ明るいが一本ぐらいいいだろう。
ほどなく、細長い店内にはいることができた。もちろん満員だ。カウンター席はなく二人掛けのテーブルが多い。くっつければ四人掛けということなのだろう。隣席はカップルで、ほぼ食べ終わっているらしく蕎麦湯を飲んでいた。テーブルをちらりと見ると、高い冷酒を呑んだようだ。
「熱燗一本と、田舎そばを」
厨房に近い席なので、ちろりに酒を入れているところが見えた。
ほどなく運ばれた燗酒を、煮しめた昆布を肴に呑む。

隣の席の長っ尻が先ほどからどうにも気になる。蕎麦はとっくに食べ終わっているのだが、なかなか席を立とうとしない。外は行列なんだからと、どちらかが気づいてさっさと勘定すればいいのに。
ちびりちびり呑んでいると、蕎麦が運ばれてきた。

「!?」
隣の女性客がわたしをみて眼を剥いて、あわてて連れを促し、帰り仕度にとりかかった。
いままで手にした酒の猪口ではなく、蕎麦つゆを蕎麦猪口に少量いれてわたしが啜り飲んだからだ。なに、これはという蕎麦屋でわたしが笊蕎麦を食べる時の手順のひとつである。
つゆは上質、文句なしである。
次に蕎麦にとりかかる。まずは二、三本を箸でとりそのまま食す。

香り高く、噛みごたえのある滋味深い田舎蕎麦、期待通り、どんぴしゃりの味だ。
つゆだけで軽く啜りこみ、次に薬味を加えてしばらく食べ、仕上げには山葵をいれて平らげる。
残ったつゆに蕎麦湯を注いで飲み切る。うむ、大満足した。
外に行列客がいるので、食べ終わるとすぐに勘定してもらう。
見当をつけて歩いたら、すぐに、勝手知ったる品川のインターシティであった。

(なんだ、こんなに近かったのか・・・)
品川駅付近ではまず発見困難な喫煙場所をなんなく探し出し、ゆっくりと一服する。
今度翁に行くときには京急を使わず、品川駅から歩こうと心にメモする。
→「越前そばにハズレなし」の記事はこちら
門前仲町の立ち食い蕎麦屋を、週に二度くらい朝に利用する。夏場の暑いときだけは冷やしたぬき、それ以外は掻き揚げそば一本と決めている。

チープな蕎麦もつゆも、冷えた掻き揚げも、承知のうえで食べれば値段それなりに旨い。それを、後ろを通る通勤している同僚たちに暖簾越しに目撃されているはずだ。

わたしは自称「蕎麦通」なのだが、「けっ、立ち食い蕎麦好きがなにをいってやがる」と思われるに百パー決まっているので蕎麦の蘊蓄話は絶対しないのだ。
このあいだ旅したとき、福井の森六でひさしぶりに旨い蕎麦を食ったせいか、ここのところ猛烈に蕎麦が食いたい。それも、森六の越前そばに匹敵するくらいのを。
都内で、どこかなかったか。
深く深く、沈思黙考する。
近くは森下の京金、都内あちこちの藪、砂場、更科、どれも上品すぎて野性味が足らない。秩父の「こいけ」の田舎そばみたいなのなら「森六」に太刀打ちできるのだが・・・秩父はちょいと遠いしなあ・・・。
そうだ、あったぞ。
北品川にある「しながわ翁」なら、ぴったりではないか。伝説の蕎麦打ち名人高橋邦弘氏の薫陶をうけた高弟が出した店である。いずれ行ってみようと思いながら、まだ行っていないから丁度いい。
ネットで調べると、田舎そばのメニューもある。
店の所在地の地図を頭に叩き込み、出かけてみた。

京急の北品川駅で降り、線路を渡って旧東海道に出たら品川方向へ戻り、一つ目の角を右折してあとは道なりに真っ直ぐ歩けばいい。
遠くから歩道に行列ができているのが見えた。
まさしく、そこが「しながわ翁」であった。

行列の後ろに並ぶ。五分ほどで、店の前の路に四つほど置いてある椅子席に座れた。

視線の先に、メニューがある。日本酒も置いてあるようだ。冷酒は高め、燗酒が安い。蕎麦屋に酒はつきもの、まだ明るいが一本ぐらいいいだろう。
ほどなく、細長い店内にはいることができた。もちろん満員だ。カウンター席はなく二人掛けのテーブルが多い。くっつければ四人掛けということなのだろう。隣席はカップルで、ほぼ食べ終わっているらしく蕎麦湯を飲んでいた。テーブルをちらりと見ると、高い冷酒を呑んだようだ。
「熱燗一本と、田舎そばを」
厨房に近い席なので、ちろりに酒を入れているところが見えた。
ほどなく運ばれた燗酒を、煮しめた昆布を肴に呑む。

隣の席の長っ尻が先ほどからどうにも気になる。蕎麦はとっくに食べ終わっているのだが、なかなか席を立とうとしない。外は行列なんだからと、どちらかが気づいてさっさと勘定すればいいのに。
ちびりちびり呑んでいると、蕎麦が運ばれてきた。

「!?」
隣の女性客がわたしをみて眼を剥いて、あわてて連れを促し、帰り仕度にとりかかった。
いままで手にした酒の猪口ではなく、蕎麦つゆを蕎麦猪口に少量いれてわたしが啜り飲んだからだ。なに、これはという蕎麦屋でわたしが笊蕎麦を食べる時の手順のひとつである。
つゆは上質、文句なしである。
次に蕎麦にとりかかる。まずは二、三本を箸でとりそのまま食す。

香り高く、噛みごたえのある滋味深い田舎蕎麦、期待通り、どんぴしゃりの味だ。
つゆだけで軽く啜りこみ、次に薬味を加えてしばらく食べ、仕上げには山葵をいれて平らげる。
残ったつゆに蕎麦湯を注いで飲み切る。うむ、大満足した。
外に行列客がいるので、食べ終わるとすぐに勘定してもらう。
見当をつけて歩いたら、すぐに、勝手知ったる品川のインターシティであった。

(なんだ、こんなに近かったのか・・・)
品川駅付近ではまず発見困難な喫煙場所をなんなく探し出し、ゆっくりと一服する。
今度翁に行くときには京急を使わず、品川駅から歩こうと心にメモする。
→「越前そばにハズレなし」の記事はこちら
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