温泉クンの旅日記

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苦労人

2007-01-14 | 旅エッセイ
  < 苦労人 >

(さあて、どうしたものかなあ・・・)

 チェックアウトをすませて、広い十津川温泉の駐車場の車の中で一服しながら
考える。わたしの旅ではいつものことだ。どこも宿を予約していないから旅の経路
は自在である。

 雨が降っていなければ、このまま吉野のほうに向かい吉野か赤目で一泊しても
よかったが、時折雨脚が強くなるのをみていると山奥にはいるのをためらってしま
う。指で地図を辿りながらそう思う。いよいよ道幅も狭いものになるかもしれな
い。度重なる台風で傷んだ山肌を縫う山道を雨のなか走るのもどうだろうか。

 そうそう旅では職場への土産もいつも悩みのタネだ。
 休む前に「遅めの夏休みだ、伊勢とか奈良のほうへ遊びに行く」などと広言して
しまったので買わないわけにはいかない。今回のような飛び石連休のあいだを休ん
での旅の場合となると、義理というより優先順位の高い重要任務とさえいえる。
また、図々しい休みかたをしたときに土産を買うのはいちおうの礼儀でもある。

 人数の多い職場へのお土産を調達するのにも伊勢とかのほうがいいか。早めに
土産を購入すれば、旅に没頭できるのだが半端な数でないので選ぶのに多少の時間
がかかるのだ。最低三十個は必要で、休みのひとがいたりして机の上に載せたまま
一日二日そのままのこともあるから、個別包装されているほうが当然いい。しかも
値段も手頃で、なおかつ満員の朝の通勤電車で苦にならないように、箱もあまり
大きくなく軽めのものがベストだ。予算はひとり百円見当の三千円。
 売っている品目が多くいろいろ選べるような大きな土産物屋といえば観光地と
いうことになる。となれば奈良の山奥よりはやっぱり伊勢志摩のほうだろう。

 決めた。鳥羽に行こう。同じ道を戻るのはムムすこし業腹だが、いたしかたが
ない。ここまでぐだぐだ書いたが時間的には二、三分もかかっていない。決断が
とにかく早いのが唯一の取り柄だ。
 とりあえずカーナビを新宮にセットしなおすと、九時に出発した。

 走り出すと新宮まで約五十三キロと表示された。今日は時間に余裕はある。昨日
ひたすら飛ばしてきただけなので、途中ゆっくりいくつか道の駅をひやかして、
お土産を物色したが個数的に難しくなかなかこれというものがみつからなかった。
 新宮に近づくにつれ、雨も止み晴れ間がのぞいてきた。
 新宮の街中にはいり、左折して一路海岸沿いに鳥羽に向かう。



 昼過ぎに国道の看板をみて脇道にはいり「紀伊長島古里温泉」というところで
立ち寄り湯をすることにした。料金は五百円。完全に循環湯のようだが、もともと
の泉質は滑らかでいいものだった。昼飯を食べたかったのだが、食堂はなかった。
 すこし走ったら道の駅「紀伊長島マンボウ」があったのでカレーライスで昼食と
した。

 走り出してしばらくすると真後ろにパトカーみたいのにピッタリつけられて、
速度違反に気をつけすぎていらいらする。こんなアホなかたちでは死んでも捕まり
たくないので制限速度で走るものだから、わたしの前にはまったく車がおらず、
後ろには延々と数珠繋ぎになってしまった。ウインカーをだして道端に停めるなり
してやり過ごせばいいのだがいかにもわざとらしくてできず、後ろのパトを先頭に
した行列を従え、緊張した道中をかなり長々と続けてしまう。



 また道の駅をみつけたので、そこに飛び込んで先に行ってもらうことにした。
ついでに鳥羽のホテルに予約をいれる。格安の宿で、朝食付一泊すべてコミコミで
五千五百円である。どうかなあーと思ったが、昨日と同じように一発で予約がとれ
て、今回の旅はかなりついているなと確信した。

 この道の駅で「日本一きれいな水」というのにそそられて一本買って飲んでみた
が、あまりにもきれいで不純物がないのも、たよりない味しかしない。まるで湯冷
ましの水を冷やしたようだ。きれいはうまいにつながらない。やはり適当なミネラ
ルが混じっているほうが、飲んでおいしい水だと思う。人間もそうだろうか。

 三時前に、鳥羽の安楽島(あらしま)地区の高台にあるホテル「KKR鳥羽いそぶ
え荘」に到着した。部屋は、昨日は六畳だったが、今日は十畳で、鳥羽湾が一望で
きてまったく文句なし。目の前の比較的大きな島はたぶん管島だろう。ただし、
トイレがないのがねえ。それだけだね、大事だけど。料金が安いので、まあ我慢
我慢。

 いつものようにさっそく温泉で一風呂浴びたのだが、温泉は「プッ!」と噴き出
しちゃうようなものだった。表面には洗剤の泡のようなものが浮いていた。残念だ
けれど、もともと期待してないのでまあよろしい。

 鳥羽の駅前にお土産の買出しにいった。
 駅前は国道を挟んで、土産物屋と飲食店ばかりはいった大きな三階建てのビルが
三棟ほど海に向かってならんでいた。駅からそれぞれのビルの間は二階の高さで
空中歩道ですべてつながっている。土産物屋のなかには特産の真珠を扱う店もかな
り多い。



 たまたま行った日が悪くほとんど客がいないものだから、歩いているとどの店も
熱心にわたしに売りつけてくるのだった。なるたけ店員が親切そうな一軒を選び、
試食を繰り返して吟味したうえで懸案の土産を購入した。試食のない品物まで試食
させてくれて、親切というか商売熱心な店だった。
 公営駐車場に止めたのだが、お土産が三千円を超えたので駐車料金が一時間分
無料になった。

 最優先の重要なミッションも無事完了したし駐車料金もタダになったから、それ
では松坂牛のステーキの夕食でもとろうか、とレストランを探したがろくなものが
見つからず、見つかっても客がまるでいないのではいりづらい。
 なんとなんと散々歩き回ったあげくあきらめて、船着場のいかにも場末じみた
喫茶店にはいり生ビールと、とりあえず小腹を満たすためハムトーストを頼んだ。
 年配の女性が二人で切り盛りしているこの喫茶店は、タクシーや近辺の事務所の
弁当もつくっているようだ。時折弁当をいくつか取りにくる。メニューにない焼酎
を立て続けに二杯ほど呑んで消える客もいた。喫茶店だけではやっていけないのだ
ろう。頑張るなあ、と感じ入る。

 近隣の島へ帰るフェリーの乗船案内のアナウンスが建物に流れると、喫茶店の
ガラスの向こうをぞろぞろと乗り場に向かう人影が動いていく。
「持ち帰りのおにぎりを二個急いでつくってもらえませんか。ついでにこれも
ラップしてもらえるとありがたいのですが」
 ハムトーストがパンもハムも野菜もどうにも田舎くさくて一気に食べられず、
それでも残すのもまっとうに働く女性たちの手前なにか忍びないので、おにぎりを
頼んで一緒に持ち帰えるのだ。思ったとおり船に乗ると勘違いして大急ぎでつくっ
てくれた。さきほどまでステーキの予定が、なんともはや安上がりな夕食である
なあ。

 どうも急がせてすみません、ご馳走さまでした。お礼をいってとっとと金を払
い、素早く乗船客にまぎれながら駐車場を目指す苦労人(どこが?)のわたしで
あった。


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