熱の夢
2007-01-17 | 雑文
< 熱の夢 >
たちの悪い風邪に捉まり、熱に浮かされて夢をたくさんみた。
なぜか電車がらみの夢が多かった。
みどりの田園のなかをレモンのような黄色い一両の電車がはしっている。駅に
とまるたびに、冷気とともに学生が乗り込んでくるから、学校の退ける午後なのだ
ろう。
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窓際に、代わり映えのしない車窓の景色に飽きて、クロスワードパズルに熱中し
ているわたしがいた。クロスワードなどを電車のなかでしたことはあまりないの
で、これは、九州の久留米から由布院に向かう各駅停車のなかだと、なつかしく
思い出す。由布院までの気の遠くなるような駅の数と長い所要時間に備えて、久留
米駅の売店で思わずパズルの本を買ったのだった。
わたしは飛行機も船も駄目なら、バスも駄目である。だいじょうぶと言い切る
電車も、乗車時間の長い各駅停車は、ジツはまるで自信がなかったのである。だか
ら、パズルなどそれ以前もそれ以後もやったことはない。
「って言うかあー、すこしお腹が減らない?」
車窓の景色にしばらくみとれていた女が、となりの男を振り返り突然言う。すべ
すべした頬は若さだろうか内側から輝いている。
「オレさあ、まだなーんにも言ってないのに、いきなり『って言うかあー』はない
だろ。それに朝食オレよりしっかり喰ってたじゃん」
しょうがねえなあ。男が眉根を寄せながらも、口元をほころばせて軽く抗議す
る。
「あのさ、富士吉田ってね、うどんのおいしい店がすごい多いんだよ。知ってた?
わたしさあ、すこし調べてきたの。えらいでしょう、聞きたい? ねえ?」
女は眼をきらきらさせて、相手にいうことなどまるで聞いちゃいない。男はそれ
をまた面白がっている。
どこか憎めない、微笑ましいカップルだ。
まてよ。富士吉田といったな、いま。
そうすると今乗っているこの電車は、大月から河口湖に向かっているようだ。
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富士吉田のうどんといえば「はなや」という店で何度か食べたっけか。腰の強い
うどんに煮汁をかけただけの浅めの丼に、自分で醤油をかけて食うシンプルな湯盛
りうどんは大好きな讃岐うどんにどこか通じるものがあり安くて旨かったぞ、
うん。
無骨な板で作られたテーブルは微妙に段があり、うどんを引き寄せたら段で止ま
りその勢いで焼けどしそうに熱い汁が手にかかり、若い娘のような声をあげて失笑
をかったことがあった。
河口湖の駅からだらだらの坂をくだりはじめると、先ほどのカップルがにこにこ
しながら昇ってくる。富士吉田のうどんは食べたのだろうか。それとも違うカップ
ルだろうか。
二人とも手にした小さな白い紙袋をときおり口元にもっていき、モグモグとなに
かを食べている。すれ違う瞬間に視線を走らせると、ちいさな紙袋にはいっていた
のは狐色のコロッケであった。
コロッケか・・・。
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熱アツのコロッケはサクサクほくほくして、ソースなしでもほんのり塩味が
して、あれはじつに旨い。
あそこだ。その店はすぐにわかった。
坂の途中にある、老夫婦でやっている間口の狭い小さな店だ。よくある肉屋の
片手間仕事ではないのがいい。お爺さんが揚げて、お婆さんが売る。揚げたての
旨そうなコロッケがガラスケースのなかに山盛りになっている。メンチやハムカツ
などもある。
河口湖をぶらついた帰りにわたしもコロッケを買って食べよう、横目でコロッケ
の山を見ながら心に決める。いまは腹いっぱいなのだ。
「おばちゃん、コロッケ十五個とメンチ十個ね」
「まいど、ありがとさん」
店先の会話にわたしの足が止まった。
なにぃ、ここらの客はいっぺんにそんな買うのかよ。どうしようか。ぶらついた
帰りまで待たんほうがいいか。
スミマセンねえ今日の分は売り切れたでよメンチならあるだども、お婆さんが
わたしにへこへこ誤っているシーンが目に浮かぶ。それはねえぜ、婆さんよ。
こうしてはおれん、慌てて振り返る。ぶらつくことを棚上げし、コロッケを先に
買うことにした柔軟無比なわたしであった。
電車がらみから、食い物がらみになってしまった。ああ、じつにくだらない夢で
ある。熱のなせるわざだ。それでも、食い物の夢が立て続けにくるところをみる
と、風邪も治りかけて食欲がでてきたというか。
寒気がするからうどんの夢はわかる。油っぽいコロッケの夢とくれば、それは
もう元気になりかけているのだろう。
まずは重畳というところか。
たちの悪い風邪に捉まり、熱に浮かされて夢をたくさんみた。
なぜか電車がらみの夢が多かった。
みどりの田園のなかをレモンのような黄色い一両の電車がはしっている。駅に
とまるたびに、冷気とともに学生が乗り込んでくるから、学校の退ける午後なのだ
ろう。
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窓際に、代わり映えのしない車窓の景色に飽きて、クロスワードパズルに熱中し
ているわたしがいた。クロスワードなどを電車のなかでしたことはあまりないの
で、これは、九州の久留米から由布院に向かう各駅停車のなかだと、なつかしく
思い出す。由布院までの気の遠くなるような駅の数と長い所要時間に備えて、久留
米駅の売店で思わずパズルの本を買ったのだった。
わたしは飛行機も船も駄目なら、バスも駄目である。だいじょうぶと言い切る
電車も、乗車時間の長い各駅停車は、ジツはまるで自信がなかったのである。だか
ら、パズルなどそれ以前もそれ以後もやったことはない。
「って言うかあー、すこしお腹が減らない?」
車窓の景色にしばらくみとれていた女が、となりの男を振り返り突然言う。すべ
すべした頬は若さだろうか内側から輝いている。
「オレさあ、まだなーんにも言ってないのに、いきなり『って言うかあー』はない
だろ。それに朝食オレよりしっかり喰ってたじゃん」
しょうがねえなあ。男が眉根を寄せながらも、口元をほころばせて軽く抗議す
る。
「あのさ、富士吉田ってね、うどんのおいしい店がすごい多いんだよ。知ってた?
わたしさあ、すこし調べてきたの。えらいでしょう、聞きたい? ねえ?」
女は眼をきらきらさせて、相手にいうことなどまるで聞いちゃいない。男はそれ
をまた面白がっている。
どこか憎めない、微笑ましいカップルだ。
まてよ。富士吉田といったな、いま。
そうすると今乗っているこの電車は、大月から河口湖に向かっているようだ。
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富士吉田のうどんといえば「はなや」という店で何度か食べたっけか。腰の強い
うどんに煮汁をかけただけの浅めの丼に、自分で醤油をかけて食うシンプルな湯盛
りうどんは大好きな讃岐うどんにどこか通じるものがあり安くて旨かったぞ、
うん。
無骨な板で作られたテーブルは微妙に段があり、うどんを引き寄せたら段で止ま
りその勢いで焼けどしそうに熱い汁が手にかかり、若い娘のような声をあげて失笑
をかったことがあった。
河口湖の駅からだらだらの坂をくだりはじめると、先ほどのカップルがにこにこ
しながら昇ってくる。富士吉田のうどんは食べたのだろうか。それとも違うカップ
ルだろうか。
二人とも手にした小さな白い紙袋をときおり口元にもっていき、モグモグとなに
かを食べている。すれ違う瞬間に視線を走らせると、ちいさな紙袋にはいっていた
のは狐色のコロッケであった。
コロッケか・・・。
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熱アツのコロッケはサクサクほくほくして、ソースなしでもほんのり塩味が
して、あれはじつに旨い。
あそこだ。その店はすぐにわかった。
坂の途中にある、老夫婦でやっている間口の狭い小さな店だ。よくある肉屋の
片手間仕事ではないのがいい。お爺さんが揚げて、お婆さんが売る。揚げたての
旨そうなコロッケがガラスケースのなかに山盛りになっている。メンチやハムカツ
などもある。
河口湖をぶらついた帰りにわたしもコロッケを買って食べよう、横目でコロッケ
の山を見ながら心に決める。いまは腹いっぱいなのだ。
「おばちゃん、コロッケ十五個とメンチ十個ね」
「まいど、ありがとさん」
店先の会話にわたしの足が止まった。
なにぃ、ここらの客はいっぺんにそんな買うのかよ。どうしようか。ぶらついた
帰りまで待たんほうがいいか。
スミマセンねえ今日の分は売り切れたでよメンチならあるだども、お婆さんが
わたしにへこへこ誤っているシーンが目に浮かぶ。それはねえぜ、婆さんよ。
こうしてはおれん、慌てて振り返る。ぶらつくことを棚上げし、コロッケを先に
買うことにした柔軟無比なわたしであった。
電車がらみから、食い物がらみになってしまった。ああ、じつにくだらない夢で
ある。熱のなせるわざだ。それでも、食い物の夢が立て続けにくるところをみる
と、風邪も治りかけて食欲がでてきたというか。
寒気がするからうどんの夢はわかる。油っぽいコロッケの夢とくれば、それは
もう元気になりかけているのだろう。
まずは重畳というところか。
「湯もりうどん」・・・懐かしかったです。
仕事で行った時の昼食は、ここが楽しみでした。
河口湖町のうどんやさん、その家の居間が開放され、そこでうどんを食べるんですよね。だから、知ってるお客は正面玄関と言うより、裏口の駐車場に車を停めて、縁側から居間にはいり、ちゃぶだい(テーブル)に陣取り、あぐらを組みます。
「湯もり、大盛りでね!」
そう注文し、
「あっ、お土産で10タマ下さい!」
と追加注文をしたものです。
出来上がった「湯もりうどん」に、ちゃぶだいの上にあるお醤油と薬味で、自由に味付けして食べるんですが、家でお土産を、これと同じようにしても、なぜか同じ味がしないんです。お醤油が違うんでしょうね。同じキッコーマンのガラスの入れ物に入っていても・・・
いやぁ、私は温泉様みたいに旅好きではないのですが、こうして自分も体験した事のあるお話がアップされますと、とても懐かしく読ませていただいております。
これからも、レアでパンチの効いたお話、待ってます!!
おひさしぶりです。
なんとなく、食べ物系の話にいつも食いついていただいているようで・・・
蕎麦のほうが好きなのですが、うどんも好きで、あちこちで食べています。
河口湖のへんのうどんも、店の佇まいや触感がどこか讃岐うどんに似ていてマニアックな客が多いように思います。わたしもそう、若干マニアックですけど。
また、遊びにきてくださいね。