温泉クンの旅日記

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京都・伏見、月桂冠大倉記念館(2)

2023-06-18 | 京都点描
  <京都・伏見、月桂冠大倉記念館(2)>
 
 酒蔵の建物にしばし見とれているうちに、唐突に「バックシャン」という言葉が思い浮かぶ。
 英語の“バック(後ろ)”と、ドイツ語の“シャン(美しい)”という言葉を組み合わせたもので、「後姿が美しい」という意味だ。後ろ姿が“色っぽい”とか“イケてる”っていうがあるけども、あれだ。

 
 
 山形・酒田の山居倉庫が、米倉の表側正面よりも、倉の裏側部分と欅並木を組み合わせた景色のほうが断然魅力的なように、京都・伏見の酒蔵の慎ましいが威風堂々とした後ろ姿も、積み重ねた過去(時代)を思わせるたっぷりの風情があってシビレた。

 

 およそ実用一点張りの蔵(倉)という建築物の、しかも後ろ姿に惹かれてしまうのも変な話だが、とにかく一瞬で魅了されてしまったことは間違いない。
 なかなかいい写真がとれた高揚感があり、満ち足りた気分である。

 

 

 ゆっくりした足取りで、大倉記念館の前に戻ってきた。入口に近寄ってみると、裏で開館の気配がしている。
 わたしは酒蔵見学は初めてじゃないし、時間潰しの川沿いの景色ですっかり満足しちゃったのでワクワク感は乏しい。

 

 一般見学料金の600円を支払うと、パンフレットと、唎酒(ききざけ)に用いるのだろう青い二重丸の「蛇の目のぐい呑みお猪口」を受取る。料金には、最後のきき酒(3種)体験も込みである。所要時間は40分くらいだそうだ。

 まずはホールに案内され、「おいしいお酒ができるまで」の映像観覧だ。客は独り客のわたしのほかには、三人組とカップルが二組と手ごろな人数構成だ。
 映像観賞が終わると、展示室にて月桂冠創業からの資料の閲覧や、醸造に使う道具類の観覧をする。

 

 兵庫「灘」、京都「伏見」に広島「西条」と、ここ伏見も日本の三大酒処のひとつとして大消費地である江戸に酒を供給していたのだ。
 江戸時代、江戸近辺の地元で造られていた酒は醸造技術が進んでないため濁り酒(どぶろく)に近いものだったので、上方で生産され江戸へ運ばれた清酒(諸白)を「下り酒(くだりざけ)」といって珍重された。
 将軍の御膳酒に指定された伊丹酒の、あの<剣菱>も下り酒の一つだ。へーぇ、オレって将軍と同じ好みじゃんか、と思った酒呑みはわたしばかりではあるまい。

 

 馬の背に載せて運ぶ下り酒は、やがて菱垣廻船や樽廻船に取って代わられますが、江戸まで運ぶには最速でも10日以上、天候次第では1カ月もかかる船旅です。はるばる海路を運ばれて江戸へ着くころには、波に揺られる酒樽の中で、柔らかく丸みのある格別な味わいの酒となったという。
 伏見の酒の相当量が、大坂の船問屋を通じて灘の酒などとともに江戸へ出荷されていたのだが、伏見は海路から遠いという点でかなり不利だったようだ。

 天皇がいる上方(京都)から地方都市の江戸に送られてくるものを「下りもの」、江戸から上方に送られるものを「登せもの(のぼせもの)」と呼んでいた。
 江戸の酒は、上方からの下り酒に対して「くだらない(下り酒より劣るので下れない)」といわれ、ここから「くだらない(=とるに足らないもの)」という意味を表す言葉が生まれた。

 酒造見学が五度目くらいのわたしは、足を速めて他の客を置き去りにして進む。

 

 桃山丘陵の地下から酒造りに適した伏流水を汲みあげる井戸の観覧で足を止める。そういえば喉が渇いている。ぐい呑みお猪口を取り出し、醸造に用いるきれいな水をごくごくと喉を鳴らして飲んだ。

 

 広い中庭だが、かつては酒桶をずらりと並べて干していたそうだ。ちょっと見てみたかった景色だ。

 

 ようやく目的の試飲コーナーに辿りつく。季節ごとに用意した10種類の中から3種類の唎酒が楽しめる。

 

 ぐい呑み茶碗での試飲かと思ったら、少量しか入らない試飲用プラスチックカップでがっかりする。
 日頃、月桂冠を呑みつけないので銘柄も指定せず、3種類の辛口の酒をとっとと試飲して唎酒体験を無事終了した。

 

 三大酒処の下り酒も悪くはないけど、現代では新潟とか東北とか他の酒もやっぱりよろしいようで。
 でも、酒蔵のバックシャンのいい写真撮れたし、十石舟の下見もばっちりできたのでまんぞく、満足である。



  →「京都・伏見、月桂冠大倉記念館(1)」の記事はこちら
  →「山居倉庫」の記事はこちら


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