温泉クンの旅日記

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おごと温泉(2) 滋賀・大津

2021-07-18 | 温泉エッセイ
  <おごと温泉(2) 滋賀・大津>

(よーし、次いってみよー!)
 決めたら最後、行動はすこぶる素早い。更衣室で、一瞬で浴衣に着替えるとフロントを横目に湖側の高層棟にあるもうひとつの大浴場に、それとなく小走りで向かう。

 

 露天風呂付き客室が44室ある「京近江館」の、一階にある「伊吹の湯」。

 

 たいていの人間なら眺望のいいこっちをまずは選ぶだろうと読んで、最初からこちらに向かわなかったのだ。このホテル、どちらの大浴場も屋上でなく一階なのがいい。

 

 大浴場までは、いつも砦に戻る下っぱ忍者のように走るけど、裸になって浴場に入ったら、落ち着いた渋めの紳士に豹変する。(自分で思ってるだけ) 
 温泉成分はまあだいたいが“滑りやすい”としたもので、温泉の湯に浸かって「ごくらく、極楽」と言う前に、浴場の床でバナナ踏んだみたいに派手に滑って頭カチ割り昇天するのだけは避けたいからだ。なにしろ貝掛温泉やら中山平温泉などの経験でトコトン身に沁みているのである。

 

 ラッキー! なんと、こちらの大浴場も先客なし、運よく連泊客もいないみたい。いつものフライング作戦だけでこうはいくまい。長年待ったご褒美か。

 雌伏二十数年などと、自分をいかにも忍耐強そうに書いたが正味な話は、巡りたい温泉リストが入った箱の奥の方に蹴り込んだだけだ。
 いずれにしてもありがたい。このご時世、同好の士と出逢ったりしてマスクなしで温泉話がはずんだりしても困るし。

 

 温泉にはジツに様々な開湯伝説が付きものである。
 白鷺(下呂温泉・山中温泉など)、白狐(湯田温泉)、コウノトリ(城崎温泉)、鹿(鹿教湯温泉)など鳥や動物が発見したという温泉があるが、僧侶が発見したといわれる温泉も非常に多い。
 行基は雲仙温泉や草津温泉など二十あまり、空海(弘法大師)は修善寺温泉や温海温泉など二十以上、一偏上人の鉄輪温泉、円仁(慈覚大師)の夏油温泉などがある。
 空海にいたっては温泉だけでなく、「弘法水」といわれる弘法大師発見伝説の水が全国各地に千数百もあるという。因みに「晴明(安倍晴明)水」で七十余、「日蓮水」で四十余というから、話半分としても空海はダントツだ。

 そんな伝説多き真言宗開祖「空海」と若いころ一緒に遣唐使で唐に渡ったり、あれやこれやいろいろと因縁の深い天台宗開祖にして地元大津生まれの「最澄(伝教大師)」によって、千二百年前にここ雄琴温泉が開かれたといわれているのが、とても興味深い。

 『雄琴の南、苗鹿(のうか)に、最澄によって開かれたと伝えられる古刹「法光寺」があった。
 その法光寺境内の北の端、「蛇ケ谷」には八つの頭を持つ大蛇が棲んでいたという。谷のかたわらには
 「念仏池(蛇池)」と呼ばれる小さな池があり、そこからは地下水が絶え間なく湧き、飲めば病気が治り、
 浴すれば外傷、池底の泥を塗れば皮膚病に効いたという。また念仏して賽銭を投げ入れると泡が出て、
 願い事を叶えた。この池が後に、雄琴温泉になったという。』

 
 
 なんかあんまり最澄の開湯伝説になっていないような気もするが、まあいいか伝説のひとつくらい。
 いよいよ、琵琶湖に面した壁一面をとっぱらったみたいな、開放的な半露天風呂に移動する。

 

 
 
 湖岸には水質改善能力を持っている、簾に使われる「葦」の群落がある。





(あれれ、なんだ!)
 浴槽のすぐ向こうに道が通っているようで、軽貨物車らしい銀色の荷台ルーフ部分が目の前を横切っていった。通るのが<軽>じゃなければ覗かれてしまうぞ。
 しかしなるほど、女性浴場「三上の湯」は二階だから覗かれないで安心、というわけだ。

 

 

(ふぅーやれやれ、と)
 明日の朝の髭剃りもこちらの洗い場のほうが具合良さそうだな・・・。ようやく人の気配がして浴場に客たちが現れはじめてきた。
 汗が止まらぬ。酒気帯びで大浴場のハシゴは疲れるわい。

 

 一階のロビースペースの一角に喫煙スペースがあるのを目ざとく発見する。
 そういえば山科の食堂以来、煙草は一本も吸ってなかったと遅まきながら気づき一服することにした。
 部屋に戻ったら、仮眠でもするかな。もちろん軽く呑んでから。


  ― 続く ―


   →「おごと温泉(1)」の記事はこちら
   →「貝掛温泉」の記事はこちら
   →「中山平温泉、うなぎ湯の宿(1)」の記事はこちら


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