<函館山の黄昏からのォ~、めっけもん酒場(2)>
「十字街」という停留所から市電に乗り込んだときは、すぐ近くの函館駅前で降りるつもりでいた。塩ラーメンの滋養軒に辿りつくまでに、見つけたいくつかの酒場のどれかにしようと思っていたのだ。魅力的な屋台街もあったことを思いだす。
しかし、市電のなかで寒さがほどけると気が変わった。
みつけた酒場が気に入れば、まず滞在が長くなる。函館ならその確率は高い。そうなれば、気が大きくなって帰りはタクシーというコースになる。それなら、そのタクシー代分を上乗せして宿の近くで呑んだほうがいいに決まっている。
幸い、湯の川温泉までは乗った市電のこれ一本でいける。
湯の川温泉で市電を降りると、すぐのところに赤提灯がずらりと並んでいる酒場があった。
「なんだなんだよ、店の名も『あかちょうちん』とは・・・」
ひねりのない、どストレートな店の名だな。まあ、入ってみるか。
あ、いけね、入口で喫煙可能か確認しなかったぞ。右手のカウンター席の前に灰皿があることを、引き戸を開け店に入った瞬間に気が付き、ひとまず深く安心する。
カウンター席の端の席に坐った。それに焼き場の前はだいたい特等席で、ここなら煙草も吸いやすそうだ。
とりあえず芋焼酎の水割りと、函館来たなら活イカは外せないとばかり、元気な声で注文する。
「うーん、やっぱりこれこれっ!」
呼子のイカも相当に旨かったが、さすがは函館の酒場、このイカも間違いなく負けてはいない。
流行っている店のようで、通路の左側の小上がりの座敷席はすでにいっぱいである。あっという間にイカを半分くらい食べて、ししゃも焼きを追加注文する。
さきほどから、目の前の焼き場で若い兄さんが次々と注文が入った小魚を焼いているのをみて、なんだろうと気になっていたのだ。ふむ、あの小魚は、あの「本日のおすすめ品」のホワイトボードに書かれた“ししゃも”だなと見当がついたのだ。
ほどなく、頼んだししゃもが運ばれてきた。
ふっくらしてるがどちらかというと見た目貧相なそいつに齧り付いた瞬間、想像をはるかに超えた美味さに衝撃が走った。香ばしさの奥に広がる、もう「滋味」としかいいようがない海を思わせる深い味わい。猫がかなり入っているわたしだから、喉をゴロゴロ鳴らしちゃったかもしれない。
ホワイトボードをもう一度よくみると、小さな文字で「むかわ産」とある。ししゃもを刺身とか寿司で喰わせるという、あの鵡川か。ふーむ、なるほどと納得する。
ししゃもは漢字では「柳下魚」と書く。鵡川(むかわ)町から釧路にかけての太平洋岸に生息、鮭のように産卵期に川を遡上するという。釧路や新ひだか町でもとれるが、鵡川で獲れるのを「鵡川ししゃも」としてブランド化されている。
しかし、長い人生、数多の酒場でいままでに食べた“ししゃも”は、いったいなんだったのだろうか。でも結局はコヤツに出逢えたんだから・・・と思うと嬉しい。
たちまち「酒だ・酒だ・酒持ってこーい!」という気分になってきたぞォ。この早めの日本酒への展開、ちょっとまずいかもな。
旅をすると、いろいろな劇的出逢いがある。
景色もそうだが、コイツもそのひとつだ。大袈裟にいうと、世界が変わった感がある。
北海道では温泉にも景色にも、そして食いものにも毎度驚かされる。
― 続く ―
→「函館山の黄昏からのォ~、めっけもん酒場(1)」の記事はこちら
→「呼子でイカ三昧(1)」の記事はこちら
→「呼子でイカ三昧(2)」の記事はこちら
→「函館、滋養軒の塩ラーメン」の記事はこちら
「十字街」という停留所から市電に乗り込んだときは、すぐ近くの函館駅前で降りるつもりでいた。塩ラーメンの滋養軒に辿りつくまでに、見つけたいくつかの酒場のどれかにしようと思っていたのだ。魅力的な屋台街もあったことを思いだす。
しかし、市電のなかで寒さがほどけると気が変わった。
みつけた酒場が気に入れば、まず滞在が長くなる。函館ならその確率は高い。そうなれば、気が大きくなって帰りはタクシーというコースになる。それなら、そのタクシー代分を上乗せして宿の近くで呑んだほうがいいに決まっている。
幸い、湯の川温泉までは乗った市電のこれ一本でいける。
湯の川温泉で市電を降りると、すぐのところに赤提灯がずらりと並んでいる酒場があった。
「なんだなんだよ、店の名も『あかちょうちん』とは・・・」
ひねりのない、どストレートな店の名だな。まあ、入ってみるか。
あ、いけね、入口で喫煙可能か確認しなかったぞ。右手のカウンター席の前に灰皿があることを、引き戸を開け店に入った瞬間に気が付き、ひとまず深く安心する。
カウンター席の端の席に坐った。それに焼き場の前はだいたい特等席で、ここなら煙草も吸いやすそうだ。
とりあえず芋焼酎の水割りと、函館来たなら活イカは外せないとばかり、元気な声で注文する。
「うーん、やっぱりこれこれっ!」
呼子のイカも相当に旨かったが、さすがは函館の酒場、このイカも間違いなく負けてはいない。
流行っている店のようで、通路の左側の小上がりの座敷席はすでにいっぱいである。あっという間にイカを半分くらい食べて、ししゃも焼きを追加注文する。
さきほどから、目の前の焼き場で若い兄さんが次々と注文が入った小魚を焼いているのをみて、なんだろうと気になっていたのだ。ふむ、あの小魚は、あの「本日のおすすめ品」のホワイトボードに書かれた“ししゃも”だなと見当がついたのだ。
ほどなく、頼んだししゃもが運ばれてきた。
ふっくらしてるがどちらかというと見た目貧相なそいつに齧り付いた瞬間、想像をはるかに超えた美味さに衝撃が走った。香ばしさの奥に広がる、もう「滋味」としかいいようがない海を思わせる深い味わい。猫がかなり入っているわたしだから、喉をゴロゴロ鳴らしちゃったかもしれない。
ホワイトボードをもう一度よくみると、小さな文字で「むかわ産」とある。ししゃもを刺身とか寿司で喰わせるという、あの鵡川か。ふーむ、なるほどと納得する。
ししゃもは漢字では「柳下魚」と書く。鵡川(むかわ)町から釧路にかけての太平洋岸に生息、鮭のように産卵期に川を遡上するという。釧路や新ひだか町でもとれるが、鵡川で獲れるのを「鵡川ししゃも」としてブランド化されている。
しかし、長い人生、数多の酒場でいままでに食べた“ししゃも”は、いったいなんだったのだろうか。でも結局はコヤツに出逢えたんだから・・・と思うと嬉しい。
たちまち「酒だ・酒だ・酒持ってこーい!」という気分になってきたぞォ。この早めの日本酒への展開、ちょっとまずいかもな。
旅をすると、いろいろな劇的出逢いがある。
景色もそうだが、コイツもそのひとつだ。大袈裟にいうと、世界が変わった感がある。
北海道では温泉にも景色にも、そして食いものにも毎度驚かされる。
― 続く ―
→「函館山の黄昏からのォ~、めっけもん酒場(1)」の記事はこちら
→「呼子でイカ三昧(1)」の記事はこちら
→「呼子でイカ三昧(2)」の記事はこちら
→「函館、滋養軒の塩ラーメン」の記事はこちら
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