<二条城前、喫茶チロルと神泉苑(1)>
桜でも紅葉の季節でもないので、銀閣寺に向かう“哲学の道”はとても静かな雰囲気に包まれていた。
(ああ、なんかこう、無性にトーストが食べたくなってきやがった・・・)
哲学の道は、哲学者西田幾多郎が毎朝この道を歩いて思索に耽ったそうだが、頭が空っぽでお花畑なわたしには、まあせいぜい“トースト”ぐらいの食い物が浮かぶのが関の山。でも贅沢な京名物の“いもぼう”なんぞが浮かばぬのが、可愛いかも。
哲学の道沿いには喫茶店やカフェなどいくつかあるのだが、店先のメニューは観光客目当てのモノばかりだった。店に入れば、バカ高い観光客向け値段のトーストがあるかもしれないが、なかった場合を考えると代替案もなく二の足を踏む。
哲学の道ではその昔、突然、“抹茶”を飲みたくなって、あろうことか正式っぽいお茶席に迷いこんでしまい、男客が他にいなかったため、あろうことか「正客」の役を振られて大いに赤っ恥をかいたことがあった。 まあそれで一念発起して、旅から帰ってから茶道修業に励んだことが今では懐かしい。
わたしは旅先で「観光モード」に入ると観光最優先となり、食欲の優先順位は極端に下がるというか平気の平左、自在に制御できる。
そんなわたしが、因縁の“哲学の道”でせっかく“その気”になったのだから、ささやかな願いを叶えてやりたい。
ま、前回は抹茶で、今回はトーストってわけだ。
そうだ、いい処を思いついたぞ。ちょっと遠いが、我慢と辛抱には自信があって問題なしだ。
銀閣寺前からバスと地下鉄東西線を乗り継いで、二条城前駅で降りて地上に出る。南下して御池通を右に曲がり、「神泉苑」のある西へ歩く。
神泉苑の前を足早に通り過ぎる。右手にチラリと「法成就池(ほうじょうじゅいけ)」が見えたが、観光は後回しだ。
(たしか、この先の角ら辺にあるはずだな・・・)
あったぞ、「喫茶チロル」だ! いつか、二条城を観光したときに訪れようと決めていた老舗喫茶店であるが、また来ればいいのだと割り切る。
「ホットコーヒー、それにトーストを!」
席に座るなり注文した。
「バタートーストで、よろしいでしょうか?」
それそれ、シンプルなそれでいいんですとばかりに、わたしは強く頷いた。
メニューをみて、わざわざ念押しに訊いたわけがわかった。この店には、バタートースト、ジャムトースト、バター&ジャム(ハーフ&ハーフ)トースト、バタージャム(二重ぬり)トースト、シナモントースト、玉子トースト、ハムトースト、ハム玉子トースト、はちみつトースト、カレートースト、なんと10種類もあるのである。
先にまずコーヒーが届き、気が逸っているせいかブツ撮りをうっかり忘れてミルクを投入してしまう。
届いたバタートーストは、一見したところ、横浜あたりの喫茶店の“がっかりレベル”のようにみえるのだが、パン好きが異常に多い京都ではパン系が不味いと商売にならない。だから、期待を裏切ることはまず無い。たかがトースト、されど京都のパン(トーストも)は、実は隠れた京名物なのだ。
香ばしいトーストの、さくりと音を立てる歯触り、焦げ目に沁みたほどよいバター、なんとも待ちに待った味わいだ。時間を掛けて移動した甲斐があった。
パクパクムシャムシャ、一気に平らげた。
「すいません! ドライカレーをお願いします」
トーストなんていうささやかな願いが叶ったので、本命の好物を追加注文した。喫茶チロルの看板メニューは「カレー」なのである。それと玉子サンドも。
わたしが注文したドライカレーはシンプルなやつだが、カレーライスのトッピングには生たまご、目玉焼き、ゆでたまご、スクランブルドエッグ、チーズなどがあり、ドライカレーにも目玉焼きのせ、玉子のせがある。
近くに座っている女性二人連れが食べているのがカレーライス、離れたところにいる独り男性客はたぶんドライカレーだ。
(うぅー、久しぶりのドライカレーである。なんとも愉しみだ・・・)
小腹もちょっとだけ満ちた。待ち時間を有効に使うべく、コーヒーをひと口啜ると立ちあがり、入口外に設置してある灰皿に向かう。
― 続く ―
桜でも紅葉の季節でもないので、銀閣寺に向かう“哲学の道”はとても静かな雰囲気に包まれていた。
(ああ、なんかこう、無性にトーストが食べたくなってきやがった・・・)
哲学の道は、哲学者西田幾多郎が毎朝この道を歩いて思索に耽ったそうだが、頭が空っぽでお花畑なわたしには、まあせいぜい“トースト”ぐらいの食い物が浮かぶのが関の山。でも贅沢な京名物の“いもぼう”なんぞが浮かばぬのが、可愛いかも。
哲学の道沿いには喫茶店やカフェなどいくつかあるのだが、店先のメニューは観光客目当てのモノばかりだった。店に入れば、バカ高い観光客向け値段のトーストがあるかもしれないが、なかった場合を考えると代替案もなく二の足を踏む。
哲学の道ではその昔、突然、“抹茶”を飲みたくなって、あろうことか正式っぽいお茶席に迷いこんでしまい、男客が他にいなかったため、あろうことか「正客」の役を振られて大いに赤っ恥をかいたことがあった。 まあそれで一念発起して、旅から帰ってから茶道修業に励んだことが今では懐かしい。
わたしは旅先で「観光モード」に入ると観光最優先となり、食欲の優先順位は極端に下がるというか平気の平左、自在に制御できる。
そんなわたしが、因縁の“哲学の道”でせっかく“その気”になったのだから、ささやかな願いを叶えてやりたい。
ま、前回は抹茶で、今回はトーストってわけだ。
そうだ、いい処を思いついたぞ。ちょっと遠いが、我慢と辛抱には自信があって問題なしだ。
銀閣寺前からバスと地下鉄東西線を乗り継いで、二条城前駅で降りて地上に出る。南下して御池通を右に曲がり、「神泉苑」のある西へ歩く。
神泉苑の前を足早に通り過ぎる。右手にチラリと「法成就池(ほうじょうじゅいけ)」が見えたが、観光は後回しだ。
(たしか、この先の角ら辺にあるはずだな・・・)
あったぞ、「喫茶チロル」だ! いつか、二条城を観光したときに訪れようと決めていた老舗喫茶店であるが、また来ればいいのだと割り切る。
「ホットコーヒー、それにトーストを!」
席に座るなり注文した。
「バタートーストで、よろしいでしょうか?」
それそれ、シンプルなそれでいいんですとばかりに、わたしは強く頷いた。
メニューをみて、わざわざ念押しに訊いたわけがわかった。この店には、バタートースト、ジャムトースト、バター&ジャム(ハーフ&ハーフ)トースト、バタージャム(二重ぬり)トースト、シナモントースト、玉子トースト、ハムトースト、ハム玉子トースト、はちみつトースト、カレートースト、なんと10種類もあるのである。
先にまずコーヒーが届き、気が逸っているせいかブツ撮りをうっかり忘れてミルクを投入してしまう。
届いたバタートーストは、一見したところ、横浜あたりの喫茶店の“がっかりレベル”のようにみえるのだが、パン好きが異常に多い京都ではパン系が不味いと商売にならない。だから、期待を裏切ることはまず無い。たかがトースト、されど京都のパン(トーストも)は、実は隠れた京名物なのだ。
香ばしいトーストの、さくりと音を立てる歯触り、焦げ目に沁みたほどよいバター、なんとも待ちに待った味わいだ。時間を掛けて移動した甲斐があった。
パクパクムシャムシャ、一気に平らげた。
「すいません! ドライカレーをお願いします」
トーストなんていうささやかな願いが叶ったので、本命の好物を追加注文した。喫茶チロルの看板メニューは「カレー」なのである。それと玉子サンドも。
わたしが注文したドライカレーはシンプルなやつだが、カレーライスのトッピングには生たまご、目玉焼き、ゆでたまご、スクランブルドエッグ、チーズなどがあり、ドライカレーにも目玉焼きのせ、玉子のせがある。
近くに座っている女性二人連れが食べているのがカレーライス、離れたところにいる独り男性客はたぶんドライカレーだ。
(うぅー、久しぶりのドライカレーである。なんとも愉しみだ・・・)
小腹もちょっとだけ満ちた。待ち時間を有効に使うべく、コーヒーをひと口啜ると立ちあがり、入口外に設置してある灰皿に向かう。
― 続く ―
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます