温泉クンの旅日記

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豊富温泉 北海道・道北 天塩郡

2006-08-19 | 温泉エッセイ
  < 温泉酔い >

「人間はな、ヒタイに汗して油まみれになってマジメに働かにゃいけないンだ」

 そう諭された寅さんは、ねじり鉢巻で考える。汗と油、アセとアブラ、ウーン。
考えに考え抜いたあげく、ついに閃いてポンと勢いよく膝をたたく。
 そして、汗ダラダラの寅さんのアップ。引いていくと、油まみれになりながら
豆腐屋で油揚げを揚げる寅さん・・・。
 初期のころの「男はつらいよ」シリーズに、たしかそんなシーンがあったように
記憶している。

「もうすこし長湯をすれば、オレも立派に汗ダラダラの油まみれだな。ふふふ」

 うっすらとアブラが浮いた温泉のなかで、わたしは能天気にそんなくだらない
こと考えていた。淡い黄色で濁りがあり、弱い石油臭がある。温泉の匂いもいろい
ろあるが、石油の匂いは珍しい。



 ここは北海道の豊富温泉、旅館と民宿あわせて10軒ほどの小さな温泉地である。
石油を試掘しているときに見つかった温泉で。泉質としてはナトリウム塩化物泉
だ。
 旭川から車で4時間、ここは本当に日本かあーと言いたいほど延々とまっすぐな
道を、これでもかと走るとたどりつく。



 わたしは全身で温泉を堪能する。

 まず、浴槽から数杯の掛け湯。足先から、尻が極楽の底に落ち着くまでのきらめ
く数秒。
 ふかぶかと温泉に浸かる。指先、手のひらと足先で、身体にまとわりつく湯ざわ
りや密度の濃淡を探る。

 湯からでている肌に掛け、湯の花もろとも摺りこむ。一掬した温泉の湯の花を観
賞し、顔から頭にさらりと何度か撫でる。顔が掌で隠れたときに、鼻の穴をおっぴ
ろげて掬った温泉の匂いをクンクンと胸いっぱい吸いこみ、満足の声をあげつつ
ため息を吐く。
 身体が極楽モードになると、眼が絶景を求めていそがしくなる。絶景がなけれ
ば、眼をつぶってしまう。上がりしなの数杯の掛け湯。飲泉できるなら湯呑み一杯
ほどゴクゴク呑む。

 温泉に行くと旅館到着時、夕食の前と後、就寝前、起床後、朝食後の最低六回は
温泉にはいる。そのたびに上記の「わたし流入浴標準コース」をする。
 このうちの、鼻の穴をおっぴろげる「鼻クンクン浴」がどうもいけなかったよう
である。
 翌朝、出発する段になって、すこし頭が重く体調が悪い。石油のゲップがでそう
である。湯あたりというより、温泉酔いといったほうが感じがちかい。
 
 豊富から稚内までは車で40分ほどである。稚内にも温泉がある。二日酔いに迎え
酒なら、温泉酔いには、迎え温泉だ。いい考え、フームやっぱり頭いいな、わたし
は。



 稚内の「童夢(ドーム)」というきれいな日帰り温泉にはいった。内風呂はいくつ
か浴槽があるが露天がよさそうである。悠然と、しかし小走りで向かう。まだ誰も
いない、オー・ユー・ラッキー・ボーイ。

 クンクン、ギョッエー。
 勇んではいった源泉たっぷりの露天風呂が、ナント豊富温泉と同じ、アブラカタ
ブラの泉質だった。
 まったく匂わなかった。海に面していて、強い風が石油臭を吹き飛ばしていたの
だ。温泉酔いをこじらせ、バージョンアップしまったのは言うまでもない。
 イヤーな汗、そして油まみれのオバカ人間である。まったく、わたしは。

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