< 温泉酔い >
「人間はな、ヒタイに汗して油まみれになってマジメに働かにゃいけないンだ」
そう諭された寅さんは、ねじり鉢巻で考える。汗と油、アセとアブラ、ウーン。
考えに考え抜いたあげく、ついに閃いてポンと勢いよく膝をたたく。
そして、汗ダラダラの寅さんのアップ。引いていくと、油まみれになりながら
豆腐屋で油揚げを揚げる寅さん・・・。
初期のころの「男はつらいよ」シリーズに、たしかそんなシーンがあったように
記憶している。
「もうすこし長湯をすれば、オレも立派に汗ダラダラの油まみれだな。ふふふ」
うっすらとアブラが浮いた温泉のなかで、わたしは能天気にそんなくだらない
こと考えていた。淡い黄色で濁りがあり、弱い石油臭がある。温泉の匂いもいろい
ろあるが、石油の匂いは珍しい。
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ここは北海道の豊富温泉、旅館と民宿あわせて10軒ほどの小さな温泉地である。
石油を試掘しているときに見つかった温泉で。泉質としてはナトリウム塩化物泉
だ。
旭川から車で4時間、ここは本当に日本かあーと言いたいほど延々とまっすぐな
道を、これでもかと走るとたどりつく。
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わたしは全身で温泉を堪能する。
まず、浴槽から数杯の掛け湯。足先から、尻が極楽の底に落ち着くまでのきらめ
く数秒。
ふかぶかと温泉に浸かる。指先、手のひらと足先で、身体にまとわりつく湯ざわ
りや密度の濃淡を探る。
湯からでている肌に掛け、湯の花もろとも摺りこむ。一掬した温泉の湯の花を観
賞し、顔から頭にさらりと何度か撫でる。顔が掌で隠れたときに、鼻の穴をおっぴ
ろげて掬った温泉の匂いをクンクンと胸いっぱい吸いこみ、満足の声をあげつつ
ため息を吐く。
身体が極楽モードになると、眼が絶景を求めていそがしくなる。絶景がなけれ
ば、眼をつぶってしまう。上がりしなの数杯の掛け湯。飲泉できるなら湯呑み一杯
ほどゴクゴク呑む。
温泉に行くと旅館到着時、夕食の前と後、就寝前、起床後、朝食後の最低六回は
温泉にはいる。そのたびに上記の「わたし流入浴標準コース」をする。
このうちの、鼻の穴をおっぴろげる「鼻クンクン浴」がどうもいけなかったよう
である。
翌朝、出発する段になって、すこし頭が重く体調が悪い。石油のゲップがでそう
である。湯あたりというより、温泉酔いといったほうが感じがちかい。
豊富から稚内までは車で40分ほどである。稚内にも温泉がある。二日酔いに迎え
酒なら、温泉酔いには、迎え温泉だ。いい考え、フームやっぱり頭いいな、わたし
は。
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稚内の「童夢(ドーム)」というきれいな日帰り温泉にはいった。内風呂はいくつ
か浴槽があるが露天がよさそうである。悠然と、しかし小走りで向かう。まだ誰も
いない、オー・ユー・ラッキー・ボーイ。
クンクン、ギョッエー。
勇んではいった源泉たっぷりの露天風呂が、ナント豊富温泉と同じ、アブラカタ
ブラの泉質だった。
まったく匂わなかった。海に面していて、強い風が石油臭を吹き飛ばしていたの
だ。温泉酔いをこじらせ、バージョンアップしまったのは言うまでもない。
イヤーな汗、そして油まみれのオバカ人間である。まったく、わたしは。
「人間はな、ヒタイに汗して油まみれになってマジメに働かにゃいけないンだ」
そう諭された寅さんは、ねじり鉢巻で考える。汗と油、アセとアブラ、ウーン。
考えに考え抜いたあげく、ついに閃いてポンと勢いよく膝をたたく。
そして、汗ダラダラの寅さんのアップ。引いていくと、油まみれになりながら
豆腐屋で油揚げを揚げる寅さん・・・。
初期のころの「男はつらいよ」シリーズに、たしかそんなシーンがあったように
記憶している。
「もうすこし長湯をすれば、オレも立派に汗ダラダラの油まみれだな。ふふふ」
うっすらとアブラが浮いた温泉のなかで、わたしは能天気にそんなくだらない
こと考えていた。淡い黄色で濁りがあり、弱い石油臭がある。温泉の匂いもいろい
ろあるが、石油の匂いは珍しい。
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ここは北海道の豊富温泉、旅館と民宿あわせて10軒ほどの小さな温泉地である。
石油を試掘しているときに見つかった温泉で。泉質としてはナトリウム塩化物泉
だ。
旭川から車で4時間、ここは本当に日本かあーと言いたいほど延々とまっすぐな
道を、これでもかと走るとたどりつく。
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わたしは全身で温泉を堪能する。
まず、浴槽から数杯の掛け湯。足先から、尻が極楽の底に落ち着くまでのきらめ
く数秒。
ふかぶかと温泉に浸かる。指先、手のひらと足先で、身体にまとわりつく湯ざわ
りや密度の濃淡を探る。
湯からでている肌に掛け、湯の花もろとも摺りこむ。一掬した温泉の湯の花を観
賞し、顔から頭にさらりと何度か撫でる。顔が掌で隠れたときに、鼻の穴をおっぴ
ろげて掬った温泉の匂いをクンクンと胸いっぱい吸いこみ、満足の声をあげつつ
ため息を吐く。
身体が極楽モードになると、眼が絶景を求めていそがしくなる。絶景がなけれ
ば、眼をつぶってしまう。上がりしなの数杯の掛け湯。飲泉できるなら湯呑み一杯
ほどゴクゴク呑む。
温泉に行くと旅館到着時、夕食の前と後、就寝前、起床後、朝食後の最低六回は
温泉にはいる。そのたびに上記の「わたし流入浴標準コース」をする。
このうちの、鼻の穴をおっぴろげる「鼻クンクン浴」がどうもいけなかったよう
である。
翌朝、出発する段になって、すこし頭が重く体調が悪い。石油のゲップがでそう
である。湯あたりというより、温泉酔いといったほうが感じがちかい。
豊富から稚内までは車で40分ほどである。稚内にも温泉がある。二日酔いに迎え
酒なら、温泉酔いには、迎え温泉だ。いい考え、フームやっぱり頭いいな、わたし
は。
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稚内の「童夢(ドーム)」というきれいな日帰り温泉にはいった。内風呂はいくつ
か浴槽があるが露天がよさそうである。悠然と、しかし小走りで向かう。まだ誰も
いない、オー・ユー・ラッキー・ボーイ。
クンクン、ギョッエー。
勇んではいった源泉たっぷりの露天風呂が、ナント豊富温泉と同じ、アブラカタ
ブラの泉質だった。
まったく匂わなかった。海に面していて、強い風が石油臭を吹き飛ばしていたの
だ。温泉酔いをこじらせ、バージョンアップしまったのは言うまでもない。
イヤーな汗、そして油まみれのオバカ人間である。まったく、わたしは。
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