<牛たん弁当>
土曜日の朝十時ちょっと前に新宿京王デパートの入り口に到着すると、長い行列ができていた。
わたしは、京王デパートで元祖駅弁大会をやっていることをニュースでみたことを思い出し、たまにはいってみるかと、ごく軽い気持ちで出掛けてきたのだ。
その大会がまだ今日もやっているかどうかはわからないが、この行列はもしかしたらそれが目当てのひともいるのかもしれない。
十時になり扉が開くと、行列がすごい勢いでデパート内部に駆け込みはじめた。
まさに殺到する、という状態である。
入り口や通り道で丁寧に迎える売り場店員たちも別段驚いていないところをみると、通常の風景なのであろう。なにしろ三十年以上の歴史があるらしいのだ。
行列が消えたのを見計らい、わたしも中にはいっていくと、先客たちは凄い形相でエスカレーターを駆け上がっている。どうやらみんな駅弁目当てのようだ。
左側も右側もない。他の入り口からもぞくぞくと合流して、老若男女が両側使ってドタドタと駆け上がっている。落ち着き払った紳士淑女と思われるひとは誰もいない。
まるで地下か一階で火災が発生して、「みなさま、最上階にいけば安全です!」と緊急アナウンスでもあったかのようだ。
もちろんそんなアナウンスはないし、非常ベルも鳴り響いておらず煙も流れていない。
郷に入っては郷に従え、である。わたしもドタドタとエスカレーターを駆け上がり、最上階を目指した。
(凄い! みんな、アスリートじゃねぇの・・・)
ま、まさかこの日のために鍛えているのじゃあるまいなあ。
二段飛ばしでわたしを一気に駆け抜かしていく、ヒアルロン酸の欠乏つまり関節痛なんかとは無縁だろう老人の背中を呆気にとられて見送るばかりである。
予想通り、最上階の会場は活気にあふれ、ごったがえしていた。
たいていのひとは、駅弁会場の配置図みたいなのを片手にしている。
早くも手に入れたいくつもの駅弁をぶら下げて、次の売り場に疾風のように突っ走るオバサンが、振り回した重たい弁当の角で他の客に次々と当身を食らわせて走り抜ける。すり抜けた一瞬後つぎつぎと客が崩れ折れていく。釜飯をヌンチャクのように振り回されて、当たり場所が悪かったのだろう下腹部を押さえて悶絶している客がいる。(いないって)
人気の駅弁を求める長い行列では、時間をもてあまして既に買い求めた分の弁当を立ったままモシャモシャ食べている中高年の猛者もいる。さすが立ち食い世代!(だから、いないって)
まあ、そのくらいの混雑だということだ。
わたしの目当ての駅弁はふたつ、山形米沢の「牛肉ど真ん中」か宮城仙台の「牛たん弁当」であるが、こうなれば、あまり並ばなければ「もうなんでもいいや」という気分であった。
ところが通り道のすぐそばにあった牛たん弁当を偶然みつけて、ほんのすこしだけ並んで手に入れることができた。ラッキーである。代金は千百円也。
ついでに、そばにあった北海道の「北菓楼」で好物の<北海道開拓おかき>を買い求めた。いろんな味があるが、わたしは<昆布しょうゆ味>が一番好きだ。
ふだん牛たんはまず食べず、嫌いと思われているわたしだが、牛タン弁当は大好きである。
紐を引っ張ると熱々になる牛たん弁当、これなら軽く二個はいける。
ただし、今回のは目の前で焼いていた牛たんなので、紐はついていない。
駅弁を食べるのなら、家に持ち帰って食べるより、やっぱり電車の中で食べるのが一番旨い。
今年はまだ温泉にいってない。財布の中身をチェックする。このまま山梨までいってしまおう。宿がとれなければ、日帰りで帰ってくればいい。片道一時間半ほどで甲府だ、通勤時間と変わらない、近いもんだ。
新宿駅とくれば、
♪八時ちょうどのあずさ二号で、わたしは、わたしは貴女から旅立ちます♪
である。
駅で予約をいれると、つぎの「あずさ」ですんなり席がとれた。土曜日曜の高速ETC千円割引の影響を受けて特急もがら空きであるのだ。
ホームの売店で缶入りの水割りを買って列車に乗り込む。 車両は半分ほどの席があいている。
牛たん弁当をすぐに食べられるように準備するが、動きだすまでは「待てよ!」である。 自らによーく言い聞かせなければ、けっこう待てない性分なのだ。ウゥーガルルー、である。
動き出して、鼻息荒くすぐさま弁当を開封した。 よし、食べていいぞ、である。
いつもの紐あり駅弁に比べると、牛たんは二倍くらい厚いが包丁が巧みにはいっていて噛み切りやすい。焼きたてのせいもあるだろう。
味もほぼ同じで安心する。麦飯もいつもの紐つき弁当と同じ出しゃばらずに牛たんを引き立てており食べやすい。
あっという間にたいらげてしまう。いけねぇ、酒の肴にしようと思っていたのに、つい好きなものはワンパク食いしてしまうのだ。
・・・しまったな。
焼いている牛たんの厚さをみて一個にしたのだが、二個でもよかったかもしれない。
(それにしても、凄かったなあ。開店同時はわたしみたいな素人衆はやめたほうがいいかな・・・)
ウィスキーの水割りを口に含みながら、戦利品の残骸を片付けつつ駅弁大会を面白く振り返るわたしであった。
土曜日の朝十時ちょっと前に新宿京王デパートの入り口に到着すると、長い行列ができていた。
わたしは、京王デパートで元祖駅弁大会をやっていることをニュースでみたことを思い出し、たまにはいってみるかと、ごく軽い気持ちで出掛けてきたのだ。
その大会がまだ今日もやっているかどうかはわからないが、この行列はもしかしたらそれが目当てのひともいるのかもしれない。
十時になり扉が開くと、行列がすごい勢いでデパート内部に駆け込みはじめた。
まさに殺到する、という状態である。
入り口や通り道で丁寧に迎える売り場店員たちも別段驚いていないところをみると、通常の風景なのであろう。なにしろ三十年以上の歴史があるらしいのだ。
行列が消えたのを見計らい、わたしも中にはいっていくと、先客たちは凄い形相でエスカレーターを駆け上がっている。どうやらみんな駅弁目当てのようだ。
左側も右側もない。他の入り口からもぞくぞくと合流して、老若男女が両側使ってドタドタと駆け上がっている。落ち着き払った紳士淑女と思われるひとは誰もいない。
まるで地下か一階で火災が発生して、「みなさま、最上階にいけば安全です!」と緊急アナウンスでもあったかのようだ。
もちろんそんなアナウンスはないし、非常ベルも鳴り響いておらず煙も流れていない。
郷に入っては郷に従え、である。わたしもドタドタとエスカレーターを駆け上がり、最上階を目指した。
(凄い! みんな、アスリートじゃねぇの・・・)
ま、まさかこの日のために鍛えているのじゃあるまいなあ。
二段飛ばしでわたしを一気に駆け抜かしていく、ヒアルロン酸の欠乏つまり関節痛なんかとは無縁だろう老人の背中を呆気にとられて見送るばかりである。
予想通り、最上階の会場は活気にあふれ、ごったがえしていた。
たいていのひとは、駅弁会場の配置図みたいなのを片手にしている。
早くも手に入れたいくつもの駅弁をぶら下げて、次の売り場に疾風のように突っ走るオバサンが、振り回した重たい弁当の角で他の客に次々と当身を食らわせて走り抜ける。すり抜けた一瞬後つぎつぎと客が崩れ折れていく。釜飯をヌンチャクのように振り回されて、当たり場所が悪かったのだろう下腹部を押さえて悶絶している客がいる。(いないって)
人気の駅弁を求める長い行列では、時間をもてあまして既に買い求めた分の弁当を立ったままモシャモシャ食べている中高年の猛者もいる。さすが立ち食い世代!(だから、いないって)
まあ、そのくらいの混雑だということだ。
わたしの目当ての駅弁はふたつ、山形米沢の「牛肉ど真ん中」か宮城仙台の「牛たん弁当」であるが、こうなれば、あまり並ばなければ「もうなんでもいいや」という気分であった。
ところが通り道のすぐそばにあった牛たん弁当を偶然みつけて、ほんのすこしだけ並んで手に入れることができた。ラッキーである。代金は千百円也。
ついでに、そばにあった北海道の「北菓楼」で好物の<北海道開拓おかき>を買い求めた。いろんな味があるが、わたしは<昆布しょうゆ味>が一番好きだ。
ふだん牛たんはまず食べず、嫌いと思われているわたしだが、牛タン弁当は大好きである。
紐を引っ張ると熱々になる牛たん弁当、これなら軽く二個はいける。
ただし、今回のは目の前で焼いていた牛たんなので、紐はついていない。
駅弁を食べるのなら、家に持ち帰って食べるより、やっぱり電車の中で食べるのが一番旨い。
今年はまだ温泉にいってない。財布の中身をチェックする。このまま山梨までいってしまおう。宿がとれなければ、日帰りで帰ってくればいい。片道一時間半ほどで甲府だ、通勤時間と変わらない、近いもんだ。
新宿駅とくれば、
♪八時ちょうどのあずさ二号で、わたしは、わたしは貴女から旅立ちます♪
である。
駅で予約をいれると、つぎの「あずさ」ですんなり席がとれた。土曜日曜の高速ETC千円割引の影響を受けて特急もがら空きであるのだ。
ホームの売店で缶入りの水割りを買って列車に乗り込む。 車両は半分ほどの席があいている。
牛たん弁当をすぐに食べられるように準備するが、動きだすまでは「待てよ!」である。 自らによーく言い聞かせなければ、けっこう待てない性分なのだ。ウゥーガルルー、である。
動き出して、鼻息荒くすぐさま弁当を開封した。 よし、食べていいぞ、である。
いつもの紐あり駅弁に比べると、牛たんは二倍くらい厚いが包丁が巧みにはいっていて噛み切りやすい。焼きたてのせいもあるだろう。
味もほぼ同じで安心する。麦飯もいつもの紐つき弁当と同じ出しゃばらずに牛たんを引き立てており食べやすい。
あっという間にたいらげてしまう。いけねぇ、酒の肴にしようと思っていたのに、つい好きなものはワンパク食いしてしまうのだ。
・・・しまったな。
焼いている牛たんの厚さをみて一個にしたのだが、二個でもよかったかもしれない。
(それにしても、凄かったなあ。開店同時はわたしみたいな素人衆はやめたほうがいいかな・・・)
ウィスキーの水割りを口に含みながら、戦利品の残骸を片付けつつ駅弁大会を面白く振り返るわたしであった。
駅弁一覧パーツ↓
http://www.netlive.info/parts4/
なるものを見てるとやっぱりどんなときでもお腹が減ってきたりします。
これからも更新楽しみにしています!
返信が遅れ、申し訳ありません。(いま職場で拝見したところです)
わたしは、最近出張の機会がありませんので、もっぱら車での旅(移動)となり、駅弁とはご無沙汰しておりました。
もっとも、大船の鯵の押し鮨、横浜のシューマイ弁当などは、最寄の駅で手に入るため食べるのですが。
わたしの食べるものはご覧いただいたように、だいたいB級(千円以下)が多いのですが、なにとぞこんごともよろしくお願いいたします。