Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

遥か昔の空の下で

2006-07-19 | アウトドーア・環境
先日来、幾つかの崖崩れが報道されている。一つはスイスのアルプス北側からイタリア語地域へと抜けるゴッタルダトンネル横のもので、重要な幹線は遮断された。もう一つは先週話題となった、ベルナーオバーラントにあるグリンデルヴァルト氷河へとアイガー東壁が崩れ落ちはじめたものである。

グリンデルヴァルトの町の奥から対岸を眺めると、左からヴェッターホルン、メッテンベルク、そしてアイガーの長い東山稜が手前に伸びる。その稜線とメッテルベルクの間に挟まる谷がウンター・グリンデルヴァルト氷河である。

その氷河に今回大量の壁が落下して、現在進行形である事から、氷河を挟んで反対側にあるベーアレック小屋は賑わっているようだ。町の観光局も、この夏はこれで乗り切りたいといっている。

さてこれほどの自然の猛威であるから、被害なども心配されるが、登路なども殆ど無い事から、この崖崩れにっよって氷河溜まりが出来て、一斉に決壊しない限り大丈夫であるという見通しである。

山岳風景画に詳しい向きならば、特に日本で人気の高いカスパー・ヴォルフの絵を思い浮かべるかもしれない。誰もが驚くのはその氷河の現状に至る縮小・退潮である。そして、温暖化のいわれる今日またその地にて大崩壊が起きているのは、必ずしも偶然では無いであろう。

ベルンから一挙にミュンヘンへと飛ぶ。ミュンヘンから南へと高度を上げて行くと、シュタールンゼーの太古の氷河湖を過ぎて、冬季オリンピックが二度開かれたガルミッシュ・パルテンキルヘンへと至る。そこに居を構えたのが、ミュンヘン宮廷劇場の音楽監督でありナチスドイツの音楽総監を務めた作曲家シュトラウスであった。

何十年も以前から音楽産業では、夏のこの時期になると、リヒャルト・シュトラウス作曲のアルペンジンフォニーの録音を広くセールスする。現存する作曲家の山荘からドイツ最高峰ツーグ・シュピッツェの峰を眺めながら足元へと至る事も出来る。そうした環境をイメージして作曲されたのがこの交響曲である。

些かハリウッド映画曲風とはいえ、元来はライヴァルであるマーラーの交響曲を意識している。それは決して七番におけるカウベルの扱いだけでなくて、作曲家自ら、対抗馬の三番の交響曲を意識してか、この曲をアンチキリストと呼んだともある。作曲家は、自らの劇場オーケストラの表現力を思い描いていたことは事実で、それは作曲家自身指揮の録音を聞くと合点がいく。

滝や岩場のごつごつした表現や対旋律の合わせ方などは、毎晩オペラの一くさりを奏でている奏者たちには、自然と表現出来るような音楽となっている。それでいながら、自らの音楽芸術を繕っている玄人の作曲家が面白い。

地球温暖化の現象から、約二百年三十年前の科学的写実絵葉書と約九十年前の劇場音楽的交響詩へと話は飛んだ。現代の我々は、前者のような*科学的資料も必要なければ、後者のような劇場的人間解放も必要ない。だから余計に仮に僅か百年遡って見た青い空の風景には、大量の排気ガスを排出する飛行機すら無かった事を思い起こす。同時にミクロの視力が如何に発達しても、自然現象観察にはマクロの眼差しこそ欠かせないことが判るのではないか?


*ヴォルフの山岳画の依頼主として、科学者フォン・ハラーは最も重要である。
コメント (8)
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