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知っているようで知らない「日本国債」

2010-11-07 16:20:00 | 時事/金融危機



■ 加速度的に増大する国際残高 ■

物事の実態はグラフ化すると分かりやすいものです。「日本国債の発行残高がが900兆円、GDPの200%に達する」と言われても、それがどの位酷いのか実感出来ません。しかし、上のグラフの様に、国債発行残高の推移をグラフ化すると、その異常さが明確になります。失われた20年の間に、日本はこんなにも国債を発行し続けていたのです。

赤色の部分が国内保有分、青色が海外保有分です。黄色は政府短期証券で、これは為替介入などの時に発行されます。

グラフからは2006年以降、国債の増加が鈍っている事が分かります。2006年9月に安部内閣がスタートしています。小泉時代の終焉と共に、国債発行が鈍化した事に何か意味がありそうです。政治主導で緊縮財政路線に変更されたのか、大蔵閥の小泉の退場で、財務省が政治に対してNOと言い始めたのは興味が持たれます。

■ 長期国債を手放した三井住友銀行 ■

先日、「景気の先を見通したければロスチャイルド系の企業をウォッチすべき」と書きましたが、フィナンシャル・タイムスが面白い記事を載せています。

<フィナンシャル・タイムスより引用>
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4788

失われた20年、まだ日本を待ち受ける苦境

大手商社、三菱商事の年金基金の大部分は日本国債に投資されている。10年物国債の利回りが現在の約1%という水準まで低下してきたため、国債は長年、利益の出る投資だった。

 だが、日本国債の長い上昇相場は今後も続くのだろうか? 現時点では、これ以上の価格上昇余地はあまりない。そして、利回りが低下するに従って、潜在的なマイナス側面が大きくなっている。

 三菱商事の年金運用に携わっているある人物によれば、国債利回りの低下によって同基金は多額の利益を享受してきた。だが、将来は利益を上げるのが非常に難しくなると同氏は認める。

多額の利益を生んできた国債投資だが・・・
 実際、日本国債への投資は先々、以前よりずっとリスクが高いものになると懸念する市場参加者が増えている。

 外国人投資家は長らく、日本の国債市場を疑ってかかってきた(もっとも、彼らはそのおかげで損をしてきた)。しかし今初めて、日本人投資家の間でも懐疑的な向きが増えている。一部の財務省、日銀関係者さえも、警戒の言葉を口にするようになった。


三井住友銀行は投資戦略を変え始めた

 ある日銀関係者は、今は国債利回りが低位で安定していると指摘する。しかし、日本はこの状況が永遠に続くことを当てにしてはならないと警告し、人々が日本には財政赤字に取り組む意思がないと考えるようになれば、国債利回りに影響が出るとつけ加える。

 例えば、厳格なリスク管理文化を持つ三井住友銀行は最近、投資戦略を変え始めた。今では同行が保有する日本国債は、ほぼすべてが1年ないし2年の短期保有となっている。今のような国債の低利回りは永遠には続かないと考えてのことだ。

 ある政府高官は、国債市場は今後1~2年間は安定した状態が続くと考えているが、数年後には財政状況が崩壊すると警鐘を鳴らす。

5年後には民間貯蓄で財政赤字を埋められなくなる

 数字を見ると、真剣にならざるを得ない。JPモルガン証券のチーフエコミスト 菅野雅明氏によれば、日本の債務残高は今年末までに国内総生産(GDP)の約200%に達し、2014年までに約300%に膨れ上がるという。ただ、これまでは、家計と企業の貯蓄がこうした憂慮すべき数字を埋め合わせてきた。

 だが、2015年までには国内の民間貯蓄が不足して財政赤字を埋められなくなると菅野氏は言う。実際、現在の貯蓄率は2%と、伝統的に浪費家の米国家計の貯蓄率を下回っている。さらに菅野氏は、(かつて米国との大きな摩擦の原因となっていた)日本の経常黒字がその後間もなく完全に消滅すると予想している。

(後略)

<引用終わり>

三井住友銀行が短期国債以外の日本国債を手放したようです。この事はロスチャイルドが日本国債を長期的に信用していない事を示しています。

■ 国債に誘導される国内資金 ■

この記事にもあるように、日本国内の資金は意図的に国債へと誘導されています。BISの規制が厳しくなる中で、自己資本の制約を受けない国債保有へと金融機関は益々傾倒していくでしょう。

さらに日銀は、マネーサプライを絞って景気浮揚を阻害している疑いがあります。金融緩和で低金利政策を取ったり、量的緩和を実行する傍らで、市場から資金を回収しているのでは無いでしょうか?リーマンショック後、世界の多くの国がマネーサプライを増大させる中で、日本は増加率が105%と低水準です。

市中金利が上がっては、国債の魅力が薄れます。国債の入札が不達のような事態が生じれば、日本国債が暴落する可能性もあります。

■ 国債金利とはどうやって決まるのか? ■

国債が原則的の年2回、金利が支払われます。
2010年の10年物の国債金利は1.186%です。

額面100円の10年国債を所有していれば、毎年1.186円の利息が得られます。
10年後には額面の100円も手元に戻ってきます。

ところで、国債は市場で売買されるもので、価格も市場が決定します。
借りに額面100円の国債が90円に値下がりしていれば、金利は1.317%に上昇します。

新規に発行される金利も市場の国債金利を参考にしますから、国債価格が下がると国債の金利は上昇します。

■ 国債金利と金融機関 ■

国債の金利は低い方が、政府は金利負担が少なくて済み、より多くの国債を発行する事ができます。

民間の金融機関は国債金利が低くても、不景気で他に安全で魅力的な資金運用先が無ければ、安全資産としての日本国債を購入します。

900兆円にも上る国債残高を抱える日本現在の日本では、国債金利の上昇は財政を破綻させかねません。ですから、政府日銀は金利が上昇するような思い切った経済政策を取ろうとはしません。

景気の改善で税収増加は見込めますが、税収が増えるまでにはタイムラグがあります。それ以前に金利上昇によって国内の金融機関が国債離れを始めれば、国債の金利が上昇し始め、ある時点で「日銀の国債の直接買い入れ」に陥る可能性があります。

中央銀行の国際の直接買い入れは「禁じ手」ですが、FRBもヨーロッパ中央銀行も既にこの禁断の領域に踏み込んでいます。

しかし、国債の発行残高がGDPの200%という日本でこの様な事態が発生した場合、はたして民間の金融機関がリスクを犯してまで国債を保有し続けるでしょうか?

現に三井住友銀行は長期国債を手放しています。

■ 国債金利は低下し過ぎてもいけない ■

現状は非常に低金利でも他の資金運用先が無いので、日本国債は人気があります。

しかし、あまり人気が高まると国債金利が低下します。

銀行も郵便局も、年金基金も国際の利払いから預金者の利息を払ったり、年金を支払ったりしています。国債の利回りがあまり下がると、彼らは逆ザヤが生じる為、国債を手放さざるを得ないケースも発生します。

国債の入札が未達に終わるような事態が生じれば、今度は国内の金融機関が一気に国債を手放すかもしれません。

国債金利はあまりに低すぎてもダメなのです。

■ 現状、日銀は上手くやっている ■

日銀の経済政策は、「国債の安定消化」に主眼を置いているようです。
ですから、景気は程ほどに悪い方が良い。

輸出企業の多くも、日本国債の金利が上昇すると、アメリカとの金利格差が逆転して、ドル安-円高が一気に加速するので、日本国債の金利上昇は望みません。

こと国債金利だけに注目するならば、日銀はなかなか上手い運営を行っているとも言えます。

■ いずれ訪れる終焉 ■

日本国債が安全だという方々の根拠は、「日本国債は日本人が所有している」という事です。

しかし、景気低迷が長引けは、預金残高は減少し、金融機関の国債購入力も低下します。この様な事態が訪れるまで、5年程猶予があるようですが、5年以内に景気が回復する保証はありません。

一方、世界に目を転ずれば、アメリカの広義の失業率は20%に迫り、リバタリアン(ティーパーティー)が台頭するなど、暴動が発生する下地が整いつつあります。アメリカが再び一つにまとまる為には有事が必要です。中東や東アジアの安全が脅かされるリスクも高まっています。

三井住友銀行で無くとも長期国債を手放したくなる理由が目白押しです。まして、今後の世界が予見できるとすれば・・・。