■ 長期間の低金利でもアメリカで明確なバブルが観測されない ■
日興アセットマネジメント 2013年6月25日 コラムようり引用
FRBの利上げにばかり注視していた市場が、突然「トランプ大統領に登場で金利上昇は当然」と言い出した。「センチメントの変化」とか「金利の底打ち」などとポジティブに解釈するのは、市場が基本的に楽観的だからでしょう。そうで無ければ市場は機能しません。
ところで、アメリカの政策金利の過去の動きを振り返ってみると現在の異常さが見えてきます。過去のバブル生成時には、金利低下から2年程度でバブルが始まっていますが、リーマンショックから8年が経過しますが、アメリカで明確なバブルは観測されず、FF金利も低水準のままです。
■ 2004年の米利上げと円キャリートレード ■
グローバル化した金融市場の元では、金利と国内経済の相関性が弱まります。先のリーマンショックの前に、アメリカではFRBの利上げがバブル生成を抑制できず、日本では量的緩和が景気を刺激出来ないという現象として現れました。
これがリーマンショックを世界的な金融危機に拡大した原因と私は考えます。そして来るべき次の金融危機の原因であるとも。
リーマンショックのプロセスを金利と資金供給の点から振り返ってみましょう。
1) 1980年代以降、アメリカはほぼ10年周期でバブル崩壊を繰り返している
2) 2000年にITバブルが崩壊
3) FRBは政策金利を6%台から1%に段階的に引き下げ
4) 2004年頃に米経済は回復が確実になり2004年6月からFRBは利上げに転じる
6) 2007年にサブプライムローンが破綻するまで金利上昇を続く
ここで注目すべきは2004年にFRBが利上げに転じた時点でアメリカの住宅バブルが始まっていましたが、FRBの利上げにも関わらずサブプライム層のバブルが膨らんでいた事。
7) 日銀は2006年まで量的緩和を継続していた
8) ゼロ金利の日本の資金がアメリカに流れていた(円キャリートレード)
9) 円キャリートレードによって為替は円安ドル高で安定していた
10) アメリカとの金利差と円安によって日本の量的緩和資金はアメリカにさらに流れた
この時期アメリカの住宅バブルを支えていたのは日本の資金だけではありません。この頃、記入革命によって様々な金融商品が生み出されていました。
11) アメリカ人の住宅ローン債権はMBS(住宅担保証券)に加工され世界中に売られた
12) MBSはさらにCDO(債務担保証券)などに加工され世界中に売られた
13) CDOの元になる債券が足りなくなり、さらにMBSが大量に組成された
14) MBSを組成する為に低所得者層(サブプライム層)にまで強引な貸し付けが行われた
この様に、アメリカはITバブル後の低金利で住宅バブルが膨らみますが、債券市場や金融商品の市場拡大が住宅債券を大量に欲し、日銀の量的緩和がFRBに代わって資金を提供していた事がサブプライム層のローンを不用意い拡大します。
15) 2006年4月に日銀は量的緩和を停止する
16) サブプライムローンへの資金流入が減る
17) 金利上昇によって米住宅需要に歯止めが掛かる
18) 住宅価格の上昇が鈍化して、サブプライム層のローンの借り換えが不可能になる
19) サブプライムローンが破綻し、リーマンショックへと続く
■ これからバブルが始まるのか? ■
過去の米FF金利とバブル崩壊の関係を観察すると、FF金利が上昇に転じてから2年程度でバブルが崩壊しています。これを元に市場ではFRBの利上げから2年は米国でバブルが拡大する時期があるだろうと予測しているフシがあります。
■ リーマンショックの金融緩和でバブルが膨らんだのは新興国市場と欧州の住宅市場 ■
グローバル時代にお金は軽々と越境する事は円キャリートレードがアメリカの住宅バブルを継続させた事でも明らかです。ところで、リーマンショック後の長きにわたるアメリカの金融緩和にも関わらずアメリカ経済はバブル化していません。
「危機が深刻だったから回復に時間が掛かったのだ」とか「アメリカの潜在成長率が落ちているからだ」と主張する人は多い。
しかし、目を世界に転じればバブルはしっかりと発生しています。
1) 各国の金融緩和マネーは新興国に流入して新興国バブルを膨らめた
2) 原油や鉱石などコモディテー市場がバブル化した
3) ジャンク債市場など債券市場は国債も含めて金利が低下した(価格上昇)
4) ECBの金融緩和はヨーロッパで住宅バブルを生んでいる
これらの市場ではFRBのテーパリングや利上げの度に混乱が生じ、資金流出が起きています。原油価格などは100ドル台から30ドル台にまで下落しましたから、これらの市場ではバブルが崩壊してとも言えます。
マレーシア、ブラジル、アルゼンチンなど資源国は既に危機が相当進行していますし、絶好調だったシンガポールもバブルが崩壊し始めています。当然、中国も。(ただし、中国は強引にバブルを膨らめ続けています)
イタリアの銀行が不良債権を積み上げていますが、これは住宅バブル崩壊の影響。ECBのマイナス金利政策によって金利水準が下がり過ぎた弊害です。
■ アメリカの一人勝ちは有るのか? ■
この様に世界を見渡すと、アメリカ以外のバブルは既に崩壊過程に入っています。これはリーマンショックの前段階のサブプライムローンの破綻に相当します。
トランプの登場で米国債金利が上昇に転じ、ドル高も加速しました。これによって世界の資金は米国回帰の速度を速めます。
これは一見「アメリカの一人勝ち」の様に見えます。レーガン政権の発足当時の「強いドル政策」と同じと見る人達も少なくありません。
■ アメリカが一国で世界経済を支えられるとは思えない ■
では、アメリカ1国の需要で世界経済が支えられるでしょうか。すでにアメリカは貧富の差が拡大しすぎていて、中間層の購買力は大幅に低下しています。資金のアメリカ回帰で特をするのは、富裕層で、彼らの消費には限界があります。トランプが公共事業を多少拡大した所で、アメリカの消費が2倍になる訳ではありません。さらに、景気回復にはタイムラグが生じます。
こう考えると、アメリカ経済の回復より先に、新興国とヨーロッパの危機が先に訪れる可能性が高い。
■ ヨーロッパの危機はユーロ危機の様にアメリカに利するのか? ■
リーマンショック直後、ドルの継続性に疑問が持たれフランスや中国を中心にIMFのSDRを基軸通貨に用いる検討が成されました。
しかし、その後のユーロ危機によってドルは見事に復活を遂げます。ギリシャにGSが仕込んでおいた爆弾がタイミングよく爆発したからです。
次なる危機がヨーロッパで発生した場合、再び南欧諸国の国債危機が発生します。ところが今度はドイツ銀行も同時に危機に陥りそうですから、ドイツの一人勝ちも在りません。ユーロ圏は相当混乱する事が予想されます。
ここで問題になるのが、この危機がシステマティックな金融危機に発生するかどうかです。米国も含めあらゆる金利は下がり切っていますから、危機によってリスクが意識された時、現在の手持ちの債券の金利がどう見えるかがカギになります。
A) アメリカ国債も含め金利の安い債券を手放す動きが加速する
B) 有事のドル買い、米国債買いでアメリカの一人勝ち
AかBいずれになると思われますが、米国内の金融機関がどれだけリスクを抱え込んでいるかによるでしょう。新興国やヨーロッパへの投資額が大きければ、米国内の金融機関も急激にリスクの低減を図るので、世界的な金融危機になる可能性は低くは無いはずです。
■ 金融緩和バブルは終焉に向かっている ■
トランプの登場までは、FRBの利上げペースによっては「金融緩和バブルは崩壊する」とほとんどの市場関係者は読んでいたはずです。だからこそFRBの利上げに一喜一憂していた。
その状況がトランプ大統領の登場で一変したとは思えません。むしろ、米国債金利の上昇に引っ張られてFRBは利上げを急がなくてはならない状況に追い込まれています。
トランプがあまりにもクレージな為に世界は一時「夢」にすがっていますが、夢が覚めるのは意外に速い・・・。だって、ダウが19000ドルって、米国経済がそんな絶好調に見えますか?