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映画・演劇のレビュー

『ユゴ 大統領有故』

2009-01-04 22:38:13 | 映画
 パク・チョンヒ(朴正煕)大統領暗殺事件の顛末を描く衝撃の映画のはずが、なんだか緩いバカ映画で驚く。シリアスだと思っていたのに、コメディータッチなのだ。この素材を扱ってこの見せ方はないだろ、とあきれた。だが、監督のイム・サンスはわざとこういう描写の選択をしたようだ。だが、見終えてなぜ?という疑問が残る。こうすることで描きたかったものが、僕には見えなかった。その結果、ただ、もどかしさしか残らない。

 79年当時の韓国の政治的状況をちゃんと知っている人にとってはおもしろい映画なのかもしれないが、そうでない人にとっては理解できないのでは、なんだかなぁ、と思う。韓国人にとっては衝撃的な映画だったようだ。だが、日本人である僕にとってはこれでは何のことなのかわからない。そんなにも間口が狭い映画では駄目ではないか?

 彼らの行動はただの思いつきでしかなく、茶番劇にしか見えない。まるでリアルではない。だが、当時の韓国がこんな状況だったというのならば、それはそれで怖いことだとも思う。大統領の遊興を描く部分がかなり続く。うんざりさせられるくらいだ。だが、本当にうんざりしていたのは彼の側近であり、国民だったのかもしれない。

と、ここまで書いてきて、実はこの映画が選択した見せ方に反発を感じつつもなんだかその魅力に嵌っている気もした。なんだか、微妙なのだ。このいいかげんな暗殺事件の怖さは彼らが彼らなりに誠実な行為としてこのクーデターを挙行したところにある。滑稽に見えて実に怖い。そこに当時の韓国の在り方が投影されているのだろうか。

 イム・サンスはこの冒険的な見せ方を通して、微妙な時代の不安な世相をリアルに描いたのかも知れない。エンドロールに流れる当時の記録フィルム(パク大統領の国葬の模様を撮影したもの)の人々の顔や風景を見ながら80年代後半に見た映画の中の韓国の風景を思った。あの暗い風景が当時の韓国に対するイメージであり、それが事実なのかもしれない。

 80年代後半になるとたくさんの韓国映画が日本に入ってきた。イ・ジャンホやペ・チャンホの傑作はたしか、この頃ではないか。『鯨とり』や『神さまこんにちは』、『旅人は休まない』といったような傑作が公開された。日本ではまだまだ韓国映画は超マイナーでほとんどの人たちが目もくれなかったころだ。あの暗いタッチは今のノーテンキだったり、おしゃれだったりする韓国映画とは全く違う。この映画を見ながら、久しぶりに泥臭いかっての韓国映画のことを思い出した。

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