『天の台所』を読んで落合さんを知った。彼女のデビュー作がなんとバドミントンを題材にした作品だと知り興味を持ち早速借りてきて読み終えた。児童書なので250ページほどの長編でも読みやすいし、一瞬で読める。講談社の児童文学新人賞佳作に入選した作品だ。
彼女の作品の魅力は選んだ素材に対してしっかりしたリサーチをして(そんなのは誰もがすることだろうが)そこから独自の自分の視点を見つけた上で、その切り口を信じて猛進するところにある。『天の台所』の料理に挑む小学6年生のリアリティに触れて、「この人は信じられるな、」と思った。今回は僕にとってはかなり身近なバドミントンだ、期待は高まる。それをどういう切り口を見せてくれるのか。
中学2年の男子が主人公だ。彼はジュニアでバドをしていたけど挫折して、今は部活をしていない。そんな彼をひとりの女の子が強引にバド部への入部を薦めてくる。ここまでならよくあるパターン。だけど、彼女はマネージャーとして彼に入部を迫るのだ。ふつうないわぁ、という展開ではないか。マネといいつつ、実はコーチとしての彼の手腕を期待している。こういう設定でリアルを目指すのはかなり難易度は高い。説得力がないからだ。さらには、お話は県大会地区予選の優勝を目指すというゴールに向かう。スケールは小さい。もちろん故意にそういう設定を定めた。『天の台所』同様勝ち負けには執着しない。だけど、こういう話の作り方こそが落合さんの魅力なのだ。
どこにでもいる普通の子たちが、自分の今と向き合い、目の前の壁を確かに乗り越えていく姿を描く。万年2位のヒロインをヒーローにするまでのお話なのだが、主人公の男女の恋バナにはしなし、ふたりが力を合わせて戦うのではなく、お互い相手を尊重し、そこから始まる(彼らだけではなく)クラブチームとしての連帯を描く。ひとりとひとりが出会うことでさらに出会いは広がっていくのだ。でも、そこに安易な仲間との絆とかいうきれいごとは、言わないのがいい。ここには作られた作為的な嘘はない。気持ちがいいくらいに自然に流れていく。
バドミントンの試合のシーンもそうだ。かなりリアルで、納得の描写だ。女子のシングルスの戦い方、試合運びも嘘くささはない。地区大会で優勝したら今度は県大会、その先には全中へとつながるのだろうけど、そんな未来は今はどうでもいい。彼女が万年2等賞から初めて抜け出し、金メダルを手にした時、彼もまた一歩踏み出せたな、と思える。これはたったそれだけのためのドラマなのである。