
これもネットフリックス配信による最新作で、現在劇場公開中の作品だ。この年末怒濤のようにネットフリックス映画が公開中だ。しかもいずれもベストテン級の秀作が並ぶ。大手の映画会社なんか足元のも及ばないのではないか、という勢いである。ネットフリックス映画は十分な予算のもと、作り手側の采配で制作されている。そんな理想の環境で作られた映画がつまらないわけはない。苦しい予算と製作委員会側からの理不尽な要求に散々苦しめられながら作られる既存の映画より自由だ。ただ、映画が映画ではなくなるのではないかという不安もある。不自由の中で最大限の工夫を凝らし、最高の成果をあげるような作品。そこにある輝きは贅沢の中から損なわれるのではないか、なんていう懸念はいらぬお世話だろうが。
さてこの映画である。すごいタイトルだが、映画自体はささやかなお話だ。でも、それを贅沢極まる作りで提示した。1980年代、ナポリ。そこで暮らす人たちの日々。大家族が集まり、バカンスを楽しむ。みんなで食べて飲んで遊んですごす時間。海で泳ぎ、魚を釣り、しゃべり、そして、そして。そんな日々を美しい風景の中で描く。
誰が誰やらよくわからないまま大人数で繰り広げられる群像劇から、やがて主人公である青年ファビエットのところにお話がクローズアップされるのは、彼の両親の死からだ。彼は突然の事故死の衝撃から立ち直れない。
これはパオロ・ソレンティーノ監督の自伝的作品である。ナポリの街を出て、ローマに行き映画監督を目指すまでの軌跡が描かれる。ファビエットはフェリーニに憧れている。だからだろう。これは『アマルコルド』や『フェリーニのローマ』を思わせる映画だ。なんだか懐かしい。マラドーナがナポリに来て、ナポリが優勝した年、ファビエットはこの町を去っていく。フェリーニとマラドーナが隠れた映画のキーマンになる。
僕がフェリーニに憧れたのは高校時代だ。70年代のことだ。だから『アマルコルド』をリアルタイムで見ている。もちろんそれ以降の作品はすべて。それ以前の作品も当然ほぼすべて追いかけた。あの頃の想いが、この映画を通して思い出されてくる。懐かしくて、なぜか少し寂しい。映画が大好きで、そんな中でもイタリア映画。フェリーニが一番だけどアントニオーニやデ・シーカの映画も大好きだった。
映画の後半は、そんな頃の記憶と連動する。前半、地中海の明るい風景を描く軽やかなタッチから一転して後半は夜のシーンが多く重いタッチになる。両親の死を受け入れられないまま過ごす時間が描かれるからだ。ナポリに映画の撮影で来ていたある監督との出会いが彼の運命を変えていく。自分が何をしたいのか、何をすべきなのか。やがて旅立ちの時が来る。ラストでは黒木和雄の『祭りの準備』を想起させる映画になる。だがあの映画のような見送りは彼にはいない。(あの原田芳雄は素晴らしかった)でも、かまわない。旅立ちはひとりでいい。列車の窓から外の風景を見える、そんな姿がずっと続くラストクレジットの彼の顔がよかった。