習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ロストクライム 閃光』

2011-04-22 19:51:43 | 映画
 伊藤俊也監督の久々の新作である。東条英機を描いて物議を醸した『プライド』以来ではないか。しかも、今回の素材は伊藤監督お得意の社会派で、事件ものだ。これを見逃すわけにはいかない。『誘拐報道』の感動を再び、と期待して見たのだが、まるで乗り切れない映画だった。こんなはずではない。我が目を疑う。だが、これが事実だ。

 大体、もうこういう素材自体が古い。80年代ならともかく、今の時代にこういう刑事物は合わない。それって、なんだか悲しい気もする。題材に流行り廃りがあるとは思わないのだが、現実問題として、この映画のアプローチは古くさい。しかも、映画自身の出来も悪すぎた。どうしてこんな作品しか撮れなかったのだろうか。年を取って演出力が落ちてしまった、だなんて思いたくはない。制作サイドからの要請に屈したわけでもあるまい。まぁ、潤沢な制作費は望めなかっただろうが、そんなこと承知の上で引き受けたはずだ。言い訳は聞かない。

 3億円事件の犯人の謎に迫るという題材自体は悪くはないだろう。昭和を揺るがす大事件を21世紀になった今(映画の現在は2002年だが)解明していく。だが、真相に迫ると、当然のように巨大な組織に阻まれていく。2人の刑事が主人公だ。定年間近の老刑事(奥田瑛二である!)と若い刑事(渡辺大)。彼らがコンビを組んで封印されていた謎に挑む、という今までもよくあったある種のパターンだ。このジャンルには『飢餓海峡』や『砂の器』といった様々な傑作がある。だが、この映画はあまりに軽すぎた。描写が、ではなく、描き方が、だ。主人公の2人のキャラクターがまるで描けてない。

 この事件に対する彼らのそれぞれの思いが描かれない。これでは感情移入なんかできない。しかも犯人グループにもまるで共感できない。よくもここまでお座なりの描写が出来たものだ。伊藤俊也監督は一体どうしたんだろうか。こんないいかげんな作り方で納得したのか。そのへんがまるでわからない。入念な取材で、きちんとした裏付けをして、そこから大胆なフィクションを作り上げること。そこに映画の醍醐味が生じるはずなのに、こんなしょぼい映画を作ってどうするのだろうか。こういうタイプの映画が下火になっている今だからこそ、このジャンルの復活を賭けて、この作品はみんなを驚かせるような傑作にならなければならなかったはずなのだ。なのに、この出来である。見終えたとき、ぐったりしてしまった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 原宏一『佳代のキッチン』 | トップ | 『書道ガールズ!』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。