白石和彌監督が渾身に挑むNetflixオリジナル映画。(ドラマだけど) 80年代の女子プロレス団体を描く大河ドラマ。1時間から1時間半というボリュームで全体は5話からなる。
ビューティーペアやクラッシュギャルズというアイドルスター。彼女たちの時代を描きながら、その影を担う悪役レスラーとして戦うひとりの女の子の覚悟を描く。ダンプ松本(ゆりやんレトリイヴァ)を主人公にして、彼女だけでなく「女子プロレスの時代」を描く。80年代のムーブメントになったこんな側面をピンポイントで赤裸々に描き、あの時代の熱狂を切り取る。圧倒的なプロレスシーンを随所に(というか、大胆に、入れ込んで)女の子たちの肉弾戦を延々と見せる(ただ後半は同じようなシーンが続き単調になるけど)凄まじい映画になった。
松本香がダンプ松本になったところからが本題のはずなのに、そこからつまらなくなったのは何故か。(監督が4話から茂木克仁に変わったことが影響しているのか?)
気弱な彼女が極悪軍団を率いるヒールになったきっかけが描き切れてないから、彼女のいきなりの豹変には驚くし戸惑う。とんでもないダメ父親を切れない母や妹に怒りを感じ、父親に手を挙げる。その時、妹が父親を庇う。この後、彼女は変身する。
あんなにも仲がよかった長与千種(唐田えりか)と敵対し、目の敵にする。それは彼女が香を切り捨てたからか。人間ドラマとしての側面が描き切れていないから、この後半になって空回りしてくる。しかも何度となくプロレスシーンが繰り返されるのがお話を盛り上がるはずなのに映画を単調にした。特に最終話はクライマックスともいえるファイトシーンの連続で、それによって反対にドラマ部分が単調になるのはもったいない。単なるスポ根ではないけど、あの時代を風俗の再現だけでなく、時代の気分として描けたのは凄い。それだけにここまでに留まったのは惜しい。その先こそを描いて欲しかった。何が彼女を作ったのか。なぜ彼女はやめるのか。ヒーローではなくヒールを選び戦ったのは何故か。長与との関係からダンプの内面へと踏み込んで欲しかった。