『ブルーピリオド』の萩原健太郎監督が手掛ける新作だからそれだけでも期待は大。原作はもちろん辻村深月。前作に続いて彼はお話を広げないのがいい。ピンポイントで丁寧に深める。前回は「受験」だったが、今回は「恋愛」。もちろんそこまで簡単に割り切っているわけではないけど、そんな2文字で説明できる問題を突き詰める。
原作は2章構成で、彼の話と彼女の話に分断されているけど、映画は基本彼の話に集約される。萩原監督らしいシンプルさ。ある日突然いなくなった彼女の消息をたどる中で、知らなかった彼女のことが見えてくるというよくある展開。終盤になってようやく彼女の話が描かれるから、基本的には原作を踏襲しているけど、バランスが少し違う。あくまでも彼の目線に寄り添っている。
善良だけど、臆病だった彼女が勇気を出して彼にモーションをかけたことで破滅する。鈍感で傲慢だった彼は彼女を失ったことで自分の愚かさに気づく。70点の彼女という評価は無意識のうちに自分が持つ上から目線から出た言葉だ。本人は否定するけど、無意識だから本音。タチが悪いし無邪気は悪意ですらある。
映画はそんな純粋すぎるふたりの恋愛をじっくり見つめていく。『ブルーピリオド』の手法と同じだ。今回も萩原マジックを堪能させられる。ラストの一見甘い展開も彼なら納得する。ただの甘いだけの結末ではないと思えるからだ。この先まだまだふたりには苦難が待ち受けている。だからこれは今だけの安息なのだとわかるからだ。ただのハッピーエンドではない。