お茶の映画なんて初めてで、それだけで映画になるのか、と言われると、「なるんです」とこの映画を見た今は答えられる。とてもよくできた映画だ。最初は、お点前の教室のドキュメントみたいな始まり方だけど、その単調で地味な繰り返しと少しずつの変化が、だんだん快感になってくる。もちろんそれだけではないのだけど、基本それだけ。師匠と新しく入った2人の弟子。基本その3人芝居。(まぁ、映画だけど)
最初は毎週土曜日に先生のところに通い、お茶を習う。その毎回のスケッチから始まり、なんと20数年間が最終的には100分で描かれる。こんな人生もありか、と思わせる。黒木華は何をさせても上手い。こういうどこにでもいそうな子を演じさせるとピカイチ。(まぁ、何でもこなすのだけど)
だが、この映画のハイライトは、実は、先生を演じた樹木希林(彼女の死のため、この映画は評判になったのだけど。もちろん樹木希林の軽くもなく重くもない芝居が、この映画全体のカラーを作っているし、そこはさすがだ)ではなく、父親を演じた鶴見慎吾。14,5歳の頃のデビュー作『翔んだカップル』(もちろん相米慎二のデビュー作でもある傑作!)の頃からずっと彼を見ているのだけど、彼がこういうお父さんを演じるようになったのだな、と感慨ひとしお。突然死んでしまうところでは泣いてしまった。自分と同世代だからだろう。海で手を振るシーンが素晴らしい。ひとりのどこにもいる普通の女の子が、お茶と共に20数年間生きた時間を静かに描くこのささやかな映画は生きることの意味をきちんと教えてくれる貴重な一作だ。