このなんでもない映画がとても胸に沁みる。ここには特別な「何か」があるわけではない。震災で被災したふたりの少女が避難所で出会った老婆に導かれて3人で岬にある古い家で暮らす日々が描かれる。心を閉ざした少女たち(ひとりは交通事故で両親を同時に無くし、声を出せなくなっている。追い打ちをかけるように3・11で被災し、面倒を見てくれていた親戚もなくし身寄りはいない。もうひとりは親からの虐待を受け、逃げてきた先で震災に遭った。)は、見知らぬ老婆の親切に最初は戸惑いながらも、少しずつここでの暮らしを受け入れていく。
アニメーション映画の題材としては地味すぎる始まり方なのだが、やがて少しずつ不思議な出来事が彼女たちの身の回りに起きることになる。ここから映画は新次元に突入する。河童が出てくるところから、お話は一気にファンタジーへと移行するのだ。でも、荒唐無稽なお話になるのではなく、最初からそうだったし、老婆の語る昔話の中のお話のタッチを引きずるように、この映画の現実世界とおとぎ話の世界とがつながってくる。遠野に行くところからお話が壮大なスペクタクルになり、でもそれは結局ふたりの少女の成長物語へと小さく収まっていくのがいい。これはあくまでも彼女たちの心の問題なのだ。マヨイガは彼女たちが迷いこんだこの家のことでもあり、ここで守られて、彼女たちが抱える痛みから解放されるまでのお話。
そこは自分が望んだことがかなえられる夢のような場所。でも、そんな都合のいいできごとを最初は素直には受け入れられない。彼女たちが抱える現実や傷みは、そんな無邪気な出来事をほいほいと信じられないくらいに深いものだからだ。親切すぎる老婆にも裏があるのではないか、と疑う。当然だろう。たったひとりになった寂しさと恐怖が彼女たちの心を支配している。
このファンタジーはやがては壮大なスペクタクルにもなるけど、あくまでも本題は、小さな心のほんの少しの解放である。それがしっかりと描かれるのがいい。身寄りのない8歳の少女が17歳の女の子に助けられ、ふたりで手をつなぎ、この過酷な現実を生きていく。まわりの優しい人たちに支えられて。
登場する妖怪たちもかわいい。特に6人の河童や、座敷童。実をいうと、この映画もまた、いつものパターンで時間調整のために時間が合うからという理由で、なんとなく見たのだけど、それがこんなにも思いがけない拾い物でラッキーだった。これを見てよかった。